ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

漱石大全読破プロジェクト

漱石の妻 / 鳥越 碧

【 妻(さい)は? 】 今年前半「漱石大全読破プロジェクト」と称して、漱石の小説群をレビューしつつ、その背景にも踏み込んで漱石の人生を追いかけてみたわけですが、当然ながら漱石大全だけですべてが分かるはずがありません。 実際は漱石関連の書籍を参…

明暗 / 夏目漱石

漱石大全読破プロジェクト、ついに最終回、作品は「明暗」です。漱石死去のため、未完に終わった最後の小説であり、私が彼の中長編小説の中で唯一未読であった作品です。極論を言えば、この小説を読むために「漱石大全」を買ったようなもので、読了した時は…

点頭録 / 夏目漱石

年頭よりコツコツと続けてまいりました漱石大全読破プロジェクトもついに最終年である大正五年(1916年)です。漱石、四十九歳、この年の十一月に胃潰瘍が再発、二十八日大出血、十二月二日に再度の大出血があり、十二月九日午後六時五十分に永遠の眠りにつ…

道草 / 夏目漱石

【 「猫」の裏にあった「闇」: 漱石が人間の業を徹底的に抉り出した「自然主義」的小説 】 漱石大全読破プロジェクト、今回の作品は「道草」です。丁度100年前の今頃の季節である六月から九月まで朝日新聞に連載されました。完結した小説としては漱石最…

硝子戸の中 / 夏目漱石

【 漱石最後の随筆、問わず語りの母への思慕の情 】 漱石大全読破プロジェクトもいよいよ終盤となってきました。文筆活動11年目、漱石死去の前年である大正四年(1915年)に入ります。 この年一月には対華二十一カ条の要求の交渉が開始され、五月には最後…

こころ / 夏目漱石

漱石大全読破プロジェクトも「『心』自序」をプロローグとしてついに「こころ」に辿り着きました。漱石大小説群の中でももっとも人口に膾炙した傑作です。 と言っても個人的には前作の「行人」の方が好きではあるのですが、「それから」「門」と同じように、「…

『心』自序  / 夏目漱石

漱石大全読破プロジェクト、10年目の大正三年(1914年)に入ります。この年、一月には桜島が大噴火、三月には辰野金吾が設計した東京駅が竣工、四月には第二次大隈内閣が成立しています。軍靴の足音も聞こえてきます。八月には第一次世界大戦に参戦しドイツ…

行人 / 夏目漱石 (下) エピローグ; 個人的に思うことなど

「行人」のレビュー、最終回です。(前)(中)でこの痛切な物語の解説は終えました。それで満足か、と問われたなら、まだまだ語りたいことはある、と答えます。一郎≒漱石の「神経衰弱」と、「一郎と直」≒「漱石と鏡子」の関係について個人的な見解をこの終章…

行人 / 夏目漱石 (中) 終章「塵労」

「行人」のレビューは続いて、漱石が胃潰瘍で倒れたため中断され、五ヶ月後に再開された最終章「塵労」に入ります。この作品の白眉であり、そして最も難解な章です。 序盤は第三章の延長線上にあり、一郎の精神の変調に翻弄される周囲の人間模様が語られます…

行人 / 夏目漱石 (上) 前三章「友達」「兄」「帰ってから」

後期三部作の第二作「行人(こうじん)」です。いよいよ漱石大全読破プロジェクトも胸突き八丁に差し掛かりました。というのも本作が漱石の大小説群の中でも群を抜く傑作だと思っているからです。否、「傑作」と言ってしまえば「ああそうですか」で終ってしま…

模倣と独立 / 夏目漱石

漱石大全読破プロジェクト、八年目の明治45年・大正元年(1912年)は前回レビューした「彼岸過迄」以外大した作品がなかったことと、「行人」が二年にまたがっているため、本人の動静と日本の世相は省略しました。そこで今回は九年目の大正2年(1913年)…

彼岸過迄 / 夏目漱石

【 一年半のブランクを経て編まれた後期三部作第一作 】 漱石大全読破プロジェクト、今回は「彼岸過迄」です。明治43年の「思い出す事など」のレビューで述べたように「門」を脱稿後「修善寺の大患」でたおれた漱石は長い療養生活に入ります。よって長期にわ…

変な音 / 夏目漱石

【 先のない男の孤独と寂寥 】 漱石大全読破プロジェクト、七年目の明治44年(1911年)に入ります。明治も押し詰まったこの年、漱石は44歳、大きな出来事が二つありました。 一つは文部省との間で「文学博士号」の授与を巡って、これを断る漱石と授与さ…

門 / 夏目漱石

【 「それから」のそれからの静謐な物語 】 前期三部作の最終作「門」は「それから」と兄弟作品とよく言われますが、激しい感情と色彩が渦巻く「それから」とうって変わって、まるで小津安次郎の白黒映画を観るが如くの静謐で物悲しい作品となっています。 …

思い出すことなど / 夏目漱石

漱石大全読破プロジェクト、6年目の明治43年(1910年)に入ります。この年は政治面では7月に第二次日露協約締結、8月に韓国併合といった大きな出来事があり、文芸面では「白樺」「三田文学」などが創刊され、漱石が序を書いている長塚節の「土」が…

それから / 夏目漱石

【 高等遊民の破滅の物語 】 漱石大全読破プロジェクト、少し間が開いてしまいましたが「それから」にうつります。大小説群前期三部作の中でもとりわけ評価の高い、漱石の代表作のひとつです。が、フィクションとは言え「自業自得」感が否めない物語なので、…

永日小品 / 夏目漱石

漱石大全読破プロジェクト、今回は「永日小品」です。25本の掌編からなる作品ですが、大好評だった「三四郎」の後を受け、読みやすい小品を連載してほしいとの依頼が朝日新聞よりあり、「元日」が朝日新聞に掲載され、1月14日より3月14日まで大阪朝日新聞に…

満韓ところどころ / 夏目漱石

漱石大全読破プロジェクト、5年目の1909年(明治四十二年)に入ります。この年の漱石も「満韓ところどころ」に頻繁に記してあるように相変わらず胃病に悩まされながらも創作活動は活発でした。大全には「私の経過した学生時代」「永日小品」「予の描かんと欲…

三四郎 / 夏目漱石

漱石大全読破プロジェクトもついに「大小説群」に入ります。大小説群は前期三部作「三四郎」「それから」「門」と後期三部作「彼岸過迄」「行人」「こころ」、そして未完の「明暗」の7作からなります。 もういいよと言われそうですが、まず文体から語りたいと…

夢十夜 / 夏目漱石

【 百読に値する日本文学史上屈指の名文 】 漱石大全読破プロジェクトもついに「夢十夜」に辿り着きました。私の最も愛する漱石の作品で、一話は数十行に過ぎないのですが、その短くも完璧な文章と漱石の教養、そして初期の「漾虚集」で見られた幻想性が見事…

坑夫 / 夏目漱石

漱石大全読破プロジェクトも、4年目の1908年(明治41年)に入りました。前年から朝日新聞社に入社した漱石はいよいよ職業作家として述作が本格化し、初期の代表作でその後の「大小説群」の端緒となった「三四郎」を書いています。 大全にはこの年「坑夫」…

虞美人草 / 夏目漱石

漱石大全読破プロジェクト明治四十年、「野分」に次いでのもう一作はこの「虞美人草」です。では、ちょっと漱石先生風に書いてみたブクレコレビューをどうぞ。残念ながら分析は「島崎藤村」タイプでした...orz 流麗典雅にして錦絵を見るが如くの豪華絢爛たる…

野分 / 夏目漱石

「漱石大全」読破プロジェクトも三年目の1907年(明治40年)に入りました。この年には「野分(のわき)」「文芸の哲学的基礎」「入社の辞」「虞美人草」「高浜虚子著『鶏頭』序」の五編が収められています。講演や挨拶、序文などを除けば実質「野分」「虞美…

二百十日 / 夏目漱石

「漱石大全」1906年の漱石から、「遺伝の法則」「坊っちゃん」「草枕」とレビューしてきましたが、もう一作だけ紹介します。「二百十日」です。 現代では台風を連想させる題名や思想が共通した「野分」とセットで収録されるのが普通となっている本作ですが、…

草枕 / 夏目漱石

「漱石大全」からの久しぶりのレビューになります。題名と最初の一頁だけは有名ですが、小説としての全体像を知る人は少ない、しかし漱石文学の新たなる出発点となった重要なマイルストーンである「草枕」です。 「草枕」と聞けば誰でも冒頭の一節を思い浮か…

坊っちゃん / 夏目漱石

漱石大全読破プロジェクト、今回のレビューは漱石といえば誰もが先ず念頭に思い浮かべるほどの有名な作品、「坊っちゃん」です。ブクレコのレビューからの転載です。 【 坊っちゃんの向こう側: 敗者である「江戸っ子」の美学 】 「漱石大全」を順番にレビュ…

趣味の遺伝 / 夏目漱石

「漱石大全」の1906年(明治39年)分を読み終わりました。収められているのは 「趣味の遺伝」「坊っちゃん」「草枕」「落第」「二百十日」「自然を冩す文章」「鈴木三重吉宛書簡ー明治39年」 の6作品と1書簡集です。この年漱石は引き続き「吾輩は猫である…

倫敦塔 その他 漱石1905年

相変わらず暇があれば「漱石大全」を読んでいます。去年は明治文学の双璧と言われるもう一方の森鴎外に凝ってしまいましたが、根っからの漱石ファンである私にはやっぱり彼の作品のほうがしっくりくるし、読み始めると止まりません。というわけで随分読み進…

吾輩は猫である/ 夏目漱石

震災20年特集で燃え尽きたわけでもないのですが、何やかやで忙しく、更新が滞ってしまいました。映画は「繕い裁つ人」がもうすぐですが、なにせインフルエンザが大流行しているので商売柄あまり街中に行くわけにも行かず、早くレビューしたいCDは未だ届…