ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

プリンセス・トヨトミ / 万城目学

プリンセス・トヨトミ (文春文庫)
 「鴨川ホルモー」「鹿男あをによし」と、関西系快(怪)作を発表してきた万城目学がついに本丸大阪に踏み込んだ大作「プリンセス・トヨトミ」です。映画化、TVドラマ化された前作に次いで、この作品もまた映画化され、5月末に公開されます。

『このことは誰も知らない―四百年の長きにわたる歴史の封印を解いたのは、東京から来た会計検査院の調査官三人と大阪下町育ちの少年少女だった。秘密の扉が開くとき、大阪が全停止する!?万城目ワールド真骨頂、驚天動地のエンターテインメント、ついに始動。特別エッセイ「なんだ坂、こんな坂、ときどき大阪」も巻末収録。 (AMAZON解説より)』

 行政、司法、立法の三権から独立した存在である会計検査院という特殊な組織に目をつけたところに著者の慧眼を感じます。その会計検査院の凸凹三人組が大阪出張する出だしはとても面白い。三人の個性も立っています。

 さすが著者の地元だけあって大阪の情景も通り一遍のステレオタイプなものではなく、大阪城をはじめとする上町台地から「島」と呼ばれる大正区まで微に入り細に穿ち、活き活きと描かれています。ただ、大阪を知らない方にはちょっと退屈すぎるのではないか、というほど長いのは良し悪しかもしれませんが。

 唯一惜しいのは、というか、根本的な問題かもしれませんが、肝腎のプリンセス・トヨトミや彼を守るはずの大阪国総理大臣の息子の描写に今一つ魅力が無い。それこそステレオタイプな学園ドラマの域を脱していない。これが惜しい。

 とは言え、クライマックスの盛り上げ方は上手く、映像化を明らかに意識しているように思います。最後の会計検査院側の種明かしもまずまず。

 とりあえず映画を見たいという気にはなります。公式サイトを見ると会計検査院の三人のうち部下二人は綾瀬はるか岡田将生が演じるのですが、原作でチビデブ男の方がはるかたん、日本とフランスとのハーフの女性が岡田君と、キャラが入れ替わるようです。ちょっと原作と雰囲気が変わるかもしれませんが、まあ見ての楽しみでしょう。