ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

ジャージー・ボーイズ

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 一年に一回はイーストウッド作品を見たい、イーストウッドにはずれなし、というわけで楽しみしていた「ジャージー・ボーイズ」を、巨大台風が近づく中、嵐の前の静けさのうちに観てきました。
 今回は「実話」をもとにした「ミュージカルの映画化」なので、イーストウッドの監督としての手腕のふるい所はあるのか?と若干心配していましたが、さすが音楽をこよなく愛するイーストウッド監督、ラストが近づくにつれてぐいぐい盛り上げる見事な演出でクライマックスでは感動の嵐、そしてエンドロールも素敵な名人芸。やはり巨匠健在でした。

 ザ・フォー・シーズンズといえば私はリアルタイム世代ではないのですが、学生時代にラジオの深夜放送ではよくかかっていました。もちろんフランキー・ヴァリの大ヒット「君の瞳に恋してる」はほぼリアルタイムでした。
 もちろん、イーストウッドにとっては同世代、映画の中でも古いTVセットの中の白黒映像で、若き日の多分「ローハイド」と思われるドラマ中のイーストウッド自身を登場させるという粋なお遊びも入れつつ、フランキー・ヴァリを始めとするザ・フォー・シーズンズの光と影を映像にとらえたのが、この映画です。

『 2014年 アメリカ映画、原題:Jersey Boys、配給:ワーナー・ブラザーズ映画
スタッフ
監督: クリント・イーストウッド
製作総指揮フランキー・バリ
脚本マーシャル・ブリックマン、リック・エリス
ミュージカル版台本: マーシャル・ブリックマンリック・エリス

キャスト
ジョン・ロイド・ヤング、エリック・バーゲン、マイケル・ロメンダ、ビンセント・ピアッツァ、クリストファー・ウォーケン 他 

ミリオンダラー・ベイビー」「グラン・トリノ」の名匠クリント・イーストウッド監督が、1960年代に世界的な人気を誇った伝説の米ポップスグループ「ザ・フォー・シーズンズ」と、そのリードボーカルを務めたフランキー・バリの代表曲として知られる「君の瞳に恋してる(Can't Take My Eyes Off You)」の誕生秘話を描いたドラマ。2006年トニー賞でミュージカル作品賞を含む4部門を受賞した、人気ブロードウェイミュージカルを映画化した。アメリカ東部ニュージャージー州の貧しい町に生まれた4人の若者たち。金もコネもない者が町から逃げ出すには、軍隊に入るかギャングになるしかなかったが、彼らには類まれな美声と曲作りの才能があった。4人は息の合った完璧なハーモニーを武器に、スターダムを駆けあがっていく。ミュージカル版にも主演し、トニー賞でミュージカル男優賞を受賞したジョン・ロイド・ヤングが、映画版でも主演を務めた。 (映画comより) 』

 映画はザ・フォー・シーズンズの四人が随所で独白を入れる舞台さながらの演出で進んでいきますが、そのタイミングが絶妙で、最後には約30年後の「ロックの殿堂」入りでの4人それぞれの思いの独白で締められます。

 さて、冒頭で描かれるのはニュージャージーの田舎町。貧しいこの街から出て行くには「軍隊に入ること、これはいずれ死ぬ」「マフィアに入ること、これもいずれ死ぬ」「最後の一つは有名になることだ」と主人公フランキージョン・ロイド・ヤング)の悪友トミービンセント・ピアッツァ)が車の中で語るシーンが印象的です。

 そのトミーニックマイケル・ロメンダ)はムショ暮らしを繰り返すどうしようもない輩なのですが、唯一の取り柄はバンドを組んで音楽がやれること。昼間は理髪店で働いているまじめなフランキーの類まれなファルセットボイスを見出したトミーは彼をバンドに引き入れ、ナイトクラブに出演しつつフランキーに女遊びを教えたり、意中の彼女に手引きしてやったりと段々と絆を深めていきます。

 転機が訪れたのは、曲を作れ歌も歌えるキーボード奏者ボブ・コーディオエリック・ハーゲン)の参加。彼の参加により音楽性がプロ並みになった彼らは必死であちこちに売り込みをかけ、ついにボブ・クルーマイク・ドイル)というゲイのプロデューサーと運命的な再会を果たします。この二人のボブが後の数々のヒット曲を生み出す原動力となります。

 しかし、クルーは最初は彼らをスターのバックコーラスとして1年間も飼い殺し状態にしていました。我慢も限界に来てクルーにかけあう四人に、「そんな金はない、デビューしたいなら3500ドルを用意しろ」というクルー。
 トミーはその筋のつてで3500ドルを前借りし、コーディオが「シェリ」という曲を書きあげます。この時運命の歯車が大きく動き始めます。

 

 「シェリ」が大ヒットしたザ・フォー・シーズンズ、とりわけファルセット・ボイスで女性を魅了したフランキー時代の寵児となり、ヒット・チャートNo.1を連発します。

 しかし光あるところには影もありました。使い放題に金を使って莫大な借金を作ってしまうトミー、年中ツアーで妻子の心が離れていき浮気もしてしまうフランキー。トミーとニックをはずしてフランキーと二人だけで契約を結んでもう一段の成功を収めようとするコーディオ、第四の男に甘んじトミーとの腐れ縁にも嫌気が差し本当は家庭に戻りたいと思っているニック。

 莫大な借金の返済を昔世話になったマフィアのボス、ジップ(クリストファー・ウォーケン)に頼み込むフランキーですが、トニーとの口論の末にトミーと縁を切ることと引き換えに自らの手で返すことを決意します。

 それからの苦闘の日々の中で疲弊していくフランキー、その家庭にも徐々に崩壊の足音が忍び寄ります。妻の心は彼から離れ、そして最愛の娘フランシーヌは。。。

 このあたり、重苦しい雰囲気のシーンが重なっていき、最後に失意のどん底に沈むあたりでは、イーストウッドならではのリアリズム的映像がこちらの心も暗く沈ませていき、どうなるのだろうと気を揉ませます。

 転換点は雪の降りしきる冬のある日。馴染みのコーヒーショップで無聊をかこつフランキーの元にコーディオが訪れ、クルーと二人で書き上げたスコアをフランキーに手渡します。フランキーはもう歌う気力を失っていますが、コーディオはとにかく見てくれ、と彼にスコアをしつけ、「肺炎になるなよ」と彼のマフラーをフランキーに巻きつけて,雪の降りしきる店外へ去っていきます。なんでもない場面なのですが、とても印象に残りました。さすがイーストウッド、この辺は実に上手い。

 そしてそのスコアこそ「君の瞳に恋してる」だったのです。もう時代遅れだと見向きもしない社長を必死で説得したコーディオとクルーの努力もあり、レコード化されたこの曲は大ヒット、そしてこの曲の華やかな披露がクライマックス。以前からコーディオは映画中で何回も「ホーンセクションを入れるんだ」と繰り返していましたが、映画中ではここで初めて大胆にホーンセクションを導入、見事な効果を上げています。

 そして歳月は過ぎ去り、1990年の「ロックの殿堂入り」レセプションでの、白髪となった4人の再会。ぐっとこみ上げてくるものがありました。

 最後のエンドロールではそれまでの登場人物がカーテンコールさながらに勢ぞろいしてのダンス&ミュージック。

 この終盤の「君の瞳に恋してる」-「ロックの殿堂入り」-「エンドロール」のテンポと流れが見事でした。

 さて俳優ではなんといってもジョン・ロイド・ヤング、舞台でも主役を勤め、ブロードウェイの賞という賞を全て掻っ攫っただけのことはある見事な歌唱と演技でした。憎めないワル・トミー役のビンセント・ピアッツァも上手かったですね。名優クリストファー・ウォーケンも渋い演技で脇を固めていました。

 というわけでイーストウッド監督にはずれなし、今回も素晴らしい映画を撮ってくれました。もういつ引退しても不思議はないお年なのですが、ハリウッドが放っておいてくれないようですね。

評価: B: 秀作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)