ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

超高速!参勤交代

Choukousoku
 予告編やラジオの宣伝などで楽しみにしていた「超高速!参勤交代」を夫婦で観てきました。笑って泣いてはらはらして、お約束通りの時代劇でしたがなかなかに楽しめました。

 参勤交代制度に目をつけたところがこの映画の肝で、脚本家の登竜門として知られる「城戸賞」を受賞した土橋章宏氏の脚本を元にして、審査員の1人でもある監督本木克英氏が映画化したのがこの映画です。

 本木氏がラジオのインタビューに応じられていたのを偶然聴いたのですが、参勤交代のことを含めかなり時代考証には時間を費やしたそうです。例えば加賀百万石の参勤交代には現代の価格に換算して2億円以上の費用を費やしなければいけなかったとか。ところが今回のいわきの小藩あたりになると、本当に切り詰めた質素なものだったようです。ちなみに行列の脇で土下座しなければいけないのは御三家の行列だけだったそうです。

 閑話休題、映画に話を戻しましょう。

『 2014年 日本映画 配給:松竹

スタッフ
監督: 本木克英
脚本: 土橋章宏

キャスト

佐々木蔵之介深田恭子伊原剛志寺脇康文上地雄輔、知念侑李、柄本時生、六角精児、市川猿之助石橋蓮司陣内孝則、西村雅彦 他 

 佐々木蔵之介が、江戸幕府から無理難題を突き付けられた弱小藩の藩主に扮する時代劇コメディ。第8代将軍・徳川吉宗が天下を治める時代。磐城国のわずか1万5000石の弱小藩である湯長谷(ゆながや)藩は、湯長谷の金山を狙う幕府の老中・松平信祝から、通常なら8日間を要するところを、わずか4日間で参勤交代せよと命じられる。湯長谷藩主の内藤政醇は、知恵者の家老・相馬兼嗣とともに4日間での参勤交代を可能にする奇想天外な作戦を練り、実行に移すが、松平もそれを阻止せんと刺客を放っていた。「ゲゲゲの鬼太郎」「鴨川ホルモー」の本木克英監督がメガホンをとった。

(映画.comより) 』

 冒頭、庄内でロケされた田舎ののどかな風景が印象的。庶民を大切にする藩主が貧乏藩ではあってもそれなりのよい治世を敷いていることが分かる良いシーンです。続いてはそんな田舎藩であっても知恵者や屈強の剣術や槍、弓などの名人が揃っていることも提示されます。

 そしてお約束通り、そんな平和もつかの間のこと、悪老中陣内孝則の奸計により、「5日間で参勤交代し江戸城に参内せよ」との無茶苦茶な命令が下ります。

 どんなに急いでも5日間ではとても行列をなしての江戸行きは無理なこと、加えて参勤交代を終えたばかりの小藩にはそんな経済的余裕があるはずもありません。あるいは憤りあるいは絶望する藩士たちですが、穏やかそうなこの藩主、意外と芯が強く決断力もあります。敢然と悪老中に対抗すべくこの命令を受けて立ちます。

 そこへ怪しげな抜け忍伊原剛志が加わって過酷ではあるのですが観る者にとっては滑稽で笑いの絶えない「超高速参勤交代」が始まります。特に西村雅彦はやはり上手い。きっちりと笑わせてくれます!

 そんな中でも二つのエピソードが印象に残ります。

 一つは馬で先駆けした佐々木蔵之助が、浪人に化けて宿泊した宿で木に縛られている女郎深田恭子を見かけて哀れに思い、買ってやるシーン。深キョンの身の上話を聞いてやるうちに同情の念を強くする蔵之助と、藩主とまでは分からないけれどもとにかく追われる身と知ってかくまってやる深キョン。そしてその騒動でひょんなことから蔵之助の「閉所恐怖症」が克服される場面。

 もう一つは、貰うものさえ貰えばもう用は無いとばかりに一行を置き去りにして女郎屋で遊び呆ける伊原剛志が、貰った報酬が泥まみれの小銭ばかりを必死でかき集めて作った十両だと知り「あいつらめ~」とつぶやくシーン。なかなか憎い脚本・演出です。

  こうして伊原剛志深キョンともに最後の最後まで彼らに付き合うことになるのですが、相手方の忍びが襲撃してくるあたりから物語りは段々とシリアスに。意外なほどの本格的な殺陣シーンが次から次へと繰り広げられます。

 寺脇康文上地雄輔知念侑李柄本時生六角精児等の個性派揃いのつわもの達も活躍しますが、そこはやはり時代劇で鍛えぬいた伊原剛志の貫禄の殺陣にはちょっとかなわないですね。

 そんな中で驚いたのが佐々木蔵之助の見事な居合抜き。凛とした立ち姿から一瞬で敵を血祭りに上げる見事な抜刀を披露してくれました。これには本当に驚きました。この映画の見所の一つだと思います。

 まだ公開されたばかりなので、ネタバレはこれくらいにしておきますが、あと二つ言い添えておきます。

 一つは時代劇に無くてはならない悪役。陣内孝則が憎憎しい悪役を熱演しておりました。彼がこういう役もこなせるようになったのか、と感心しきりでした。

 そして最後に、将軍吉宗役の市川猿之助の決め台詞。

「 未来永代に渡っていわきの地の土を汚すでないぞ 」

 何を言いたいのか、もちろんお分かりになりますよね。という訳で時代劇に新風を吹き込むとともにきっちりとお約束は守った佳作でありました。

評価: C: 佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)