ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

太秦ライムライト

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 「5万回斬られた男」福本清三さんが主役を張られ話題になっている映画「太秦ライムライト」を観てきました、と言うより、しかと見届けてきました。

 福本清三さんのことは探偵ナイトスクープで取り上げられた時からファンになり、「ラストサムライ」をはじめとする多くの映画で観てきました。清三さんの故郷は私の家内と同じ兵庫県の北端の町であることも親近感を抱いていました。

 その彼がまさしく自分と同じ、消え行きつつある時代劇の「斬られ役」を演じておられるわけですが、これは消え行きつつある正統派時代劇へのオマージュでもあり、福本氏が大ファンであるというチャップリンの「ライムライト」へのオマージュでもあり、両者を並べた題名が「太秦ライムライト」となったわけです。まさに滅び行く魂が最後に一瞬のまばゆいばかりの光彩を放ったがごとくの、素晴らしい映画でした。

『 2014年 日本=USA映画 製作:ELEVEN ARTS、配給:デイ・ジョイ

製作: Ko Mori、大野裕之、佐藤昇平
監督:落合 賢
脚本:大野裕之

キャスト:
福本清三山本千尋本田博太郎萬田久子小林稔侍、松方弘樹 他

時代劇という日本が誇るジャンルを支える人々にスポットを当てたドラマ。斬られ役の名手として活躍してきた老いた俳優と、彼と出会った女優が育む絆を見つめていく。メガホンを取るのは、『タイガーマスク』などの落合賢。斬られ役の名人として知られる『ラスト サムライ』などの福本清三が、自身を投影したかのような老俳優を熱演。その脇を、本田博太郎小林稔侍、松方弘樹ら実力派が固める。チャールズ・チャップリンの名作『ライムライト』を基にした物語にも注目。

京都・太秦にある、日映撮影所。そこに所属する香美山清一(福本清三)は、斬られ役として長年大部屋俳優を務め、無数のチャンバラ時代劇に出演してきた。ある日、およそ半世紀にわたって放送されていたテレビ時代劇「江戸桜風雲録」が打ち切りになり、後番組として若年層向け時代劇がスタートするが、そこにはベテランたちが活躍する場はなかった。そんな中、香美山は伊賀さつき(山本千尋)という新進女優と出会い、殺陣の師匠となって彼女に指導をしていくが……。 (シネマ・トゥデイ解説より)』

 アメリカでの公開を前提としているらしく、冒頭で日本語と英語で簡潔に東映太秦撮影所の紹介と時代劇の衰退、斬られ役の激減が説明されます。

 そして序盤では太秦撮影所スタッフの日常が淡々と描かれていきます。それは地味な立ち上がりで、まるで福本氏の日常を切り取ったドキュメンタリーのようです。そう言えば帰路につく福本氏の洋装姿は普段和装しか見ていないのでかえって新鮮でした。

 そうこうするうちに時代劇は減っていき、たまに入ってきてもアイドルを主人公として、殺陣も偽刀であとでCG合成するというスタイルに変わっていきます。監督もプロデューサーももう古きよき伝統など理解しません。

 そんな日々の中でも稽古を怠らない斬られ役主人公香美山清一(福本清三)は、殺陣がやりたくて入ってきた伊賀さつき(山本千尋)に懇願され、最初は拒否していたものの、ついに彼女の熱意に負けて稽古をつけることとなります。
 その伊賀さつきが段々と腕を上げていく細かいシーンのつなぎ方が見事です。めきめき腕を上げていくのが誰の目にも明らかでそれは見事!実はそれもそのはず、山本千尋さんは世界ジュニア武術選手権金メダリストだそうです。福本清三さんがインタビューで「わしより上手や」と感心していたほど。

 そんなある日、伊賀さつきは主演俳優の気まぐれで主役のヒロインに抜擢されますが(そのドラマのタイトルが「ODANOBU」、ひどいですねえ(笑))、肝心の殺陣のシーンで緊張のあまり失敗の連続、Take13まで行ってしまい、周囲をあきれさせます。

 その時に陰で香美山清一が彼女を励ますとともに刀を一閃し、活を入れる場面が良かったです。それで目が覚めたような演技をこなした伊賀さつきはあっという間にスターダムにのし上がり、東京の人となってしまいます。

 一方で撮影所に居場所が無くなり、果ては仕方なく引き受けた映画村でのイベントも、長年の酷使で痛めている肘の状態が悪化してとんでもない失敗をしてしまったことから、引退を余儀なくされる香美山。

 そして終盤、松方弘樹が主演を務めていたTVシリーズの映画版が製作されることになり、伊賀さつきもヒロインとなって戻ってきます。しかし夢だった香美山との殺陣が、彼が引退してもう不可能であることを知り愕然となります。彼女はあきらめきれず、彼の実家まで押しかけますが。。。

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 淡路島でロケされた、海の見える丘の上での逆光でとらえられた二人の稽古シーンがとても美しく印象に残ります。

 そして一番の見所は「ライムライト」と同じくラストにやってきます。なんと、本物の中島貞夫監督が仕切る中での福本清三松方弘樹、そしてヒロイン役の山本千尋、そして斬られ役の東映剣会の面々の見せる殺陣はさすがの迫力です。

 前回「超高速!参勤交代」で伊原剛志の殺陣が他の役者とは一ランク違った、と書きましたが、この撮影所で鍛えられた役者の凄みだったのだなあ、と再認識させてくれる出来栄えでした。

 しかし、肘を痛めて握力がなくなっている香美山に中島貞夫監督は一旦駄目出しをして最後のシーンをカットすることに決めます。呆然とする香美山ですが、すべてのスタッフとキャストが何とかやらせてほしいと懇願し、なんと古い時代劇を嫌悪していたはずの若いプロデューサーまでもが中島監督に懇願します。皆の熱意に負けて監督は撮りを再開します。

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 そこからの最後の殺陣はもう鳥肌もので、芸が芸術に昇華したシーンといえましょう。五万回斬られた福本清三さんのために、殺陣師・清家三彦氏が考え抜いた、究極の様式美です。

 最後に福本さんの十八番「海老反り」をこれほど長回しで見せてくれるのは、斬られ役が主人公のこの映画ならでは。そして倒れた福本清三さんに舞い散る桜の花びらが降り積もるシーンでこの映画は幕を閉じます。

 彼はひょっとしたら、ライムライトのチャップリンのようにあの場で息絶えていたのかもしれません。この余韻の残し方も日本映画の美学なのだと思います。日本映画の映像美のコレクションの一つとして永久保存版にしたいくらいですし、この映画の目的の一つである、海外への配給もぜひ成功してほしいと思います。

 さて、この映画を作るにあたり福本清三さんの人柄を慕い集まった俳優陣の豪華なこと。まずは松方弘樹。二代目尾上清十郎という役名ですが、最初と最後の殺陣はあきらかに「遠山の金さん」を意識していると思われます。もうさすがの貫禄です。

 そして初代尾上清十郎役が小林稔松方弘樹さんの父上といえば亡き近衛十四郎ですが、その難しい役を引き受けた心意気に拍手です。特に、若き日の福山清三が切られたシーンを誉めて自らの木刀を譲ってやるシーンにはジーンときました。そして彼のお付きで木刀を手渡す役を、悪役一筋で晩年に人気の出た故川谷拓三氏の息子仁科貴が演じているのも泣かせます。

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 その他にも本田博太郎栗塚旭萬田久子中島貞夫監督そしてもちろん剣会の仲間たち等々。皆人柄の滲み出た素晴らしい演技で福本さんを全力でサポートしていました。

 そして、私の好きな作家ポール・オースターが言うように素晴らしい映画には何かある物が内容を象徴する働きをしています。この映画では先ほど少し述べた木刀と、かんざし。それがどのように効果的に映画を象徴しているかは、是非映画を観て堪能してください。

 時代劇の衰退と変容はこの映画の中だけのことではなく現実でもあるのですが、清三氏がインタビューに答えているように

「映画の通り、チャンバラを未来につなげてほしいです。これまでの枠にこだわらず、いろんな時代劇があっていい。でも、僕は時代劇いうのは無くならんと思います。」

そしてプロデューサーで脚本担当の大野裕之氏が書いておられるように

「一生懸命やっていれば、どこかで誰かが見ていてくれる」

そんな福本清三氏の謙虚で誠実な人柄を花開かせたこの映画に拍手です。

評価: B: 秀作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)