ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

ハート・ロッカー

Hurtlocker
はむちぃ:  皆様こん**は、オーディオファイルの皆様の期待をまたまた裏切りまして申し訳ございませんが、最新洋画レビューをお送りいたします。
ゆうけい: どるさん、決してあてつけではありませんので。いやいやまじでこれはレビューしとかないと(大汗、今年日本公開の洋画の中でおそらく1、2を争う映画です、でははむちぃ君紹介お願いね。
は: という訳でございまして、本日は作品賞、監督賞を始めとして第82回アカデミー賞6部門を手にした、キャスリン・アン・ビグロー監督の「ハート・ロッカー(The Hurt Locker)」でございます。
ゆ: 「アバター」のジェームズ・キャメロン監督との元夫婦対決ばかりが注目されましたが、社会派シリアスドラマとエンタメ映画が候補作品になると大抵前者を選択してしまうのがオスカー選考委員の常ですので、キャメロン監督が「負けた」と思われるのは間違いだと思います。それにしてもビグローさん、スポンサーのつかない低予算で灼熱のヨルダンロケという過酷な状況の中で、まあ凄い映画を撮ったもんです。目を背けたくなるような悲惨な映画なんですが、深く心に残ります。

ハート・ロッカー(The Hurt Locker)

2008年、アメリカ映画

監督 キャスリン・ビグロー
製作 キャスリン・ビグローマーク・ボール
脚本 マーク・ボール
出演者 ジェレミー・レナーアンソニー・マッキー

 舞台は2004年、イラクバグダッド郊外。アメリカ軍の危険物処理班は、仕掛けられた爆弾の解体、爆破の作業を進めていた。だが、準備が完了し、彼らが退避しようとしたそのとき、突如爆弾が爆発した。罠にかかり殉職した隊員に代わり、また新たな“命知らず”が送り込まれてきた。地獄の炎天下、処理班と姿なき爆弾魔との壮絶な死闘が始まる――。(Cinema Cafe参照)』

は: タイトルになっている「hurt locker」とは、アメリカ軍の隠語で「苦痛の極限地帯」「棺桶」という意味でございまして、日常的に死と隣り合わせの過酷な爆弾処理の現場に送り込まれる事が「Hurt Locker送り」なのですね。
ゆ: 実際、この映画で描かれるイラク駐留米軍ブラボー中隊(何と言う皮肉な名前!)のプロローグとなる爆死事故と、それに続くあと38日間のローテーション(任務期間)内の5回のミッションにおける、様々なタイプの爆弾処理やテロ組織との銃撃戦など、その凄まじさといったらまさに地獄ですね。
は: R指定もむべなるかなの凄絶さでございましたね。テロ組織が人間爆弾の作成に失敗した子供の屍体のむごさには思わず目を背けてしまいました。
ゆ: もちろんアメリカ軍側でも爆弾やテロ組織の攻撃などによる死傷者が続出します。例えば人間爆弾と同じエピソードにおいて、皆に慕われていた軍医が

「いつも机に向かうばかりの仕事じゃつまらない」

と、たまたま簡単な作業の日に処理班に同行し、市民に混じったテロリストの仕掛けた爆弾で一瞬に吹っ飛ぶシーンには愕然としました。
は: もちろんフィクションではあるのですが、今なお続く爆弾テロの実情を考えますと実にリアリティがございますね。
ゆ: 何か月もイラクに入り込んで取材したマーク・ボールの経験が見事に生きていますね。彼の見た現実と頭の中で組み立てた虚構がガッチリと組みあって強固で隙の無い脚本となっています。

は: その脚本を元に圧倒的なリアリティを持った映像を作り上げたビグロー監督の手腕も光りますね。
ゆ: 徹底的に叙情性・物語性を排し、ドキュメンタリー・タッチで作品を構成した手腕は見事ですね。また、最近流行のハンディ・カメラを駆使した臨場感が凄かったです、酔いそうでした(苦笑。
は: マット・デイモン様のボーン・シリーズで多用されるようになったカメラ・テクニックでございますね。
ゆ: 昔からハンディ・カメラを多用する手法はあったんですが、デジタル技術の向上によりアンフィックスのカメラで手ぶれしていても鮮明な画像が得られるようになった事が大きいんでしょうね。特にこういう映画では臨場感を盛り上げるのに有効ですよね。

は: 主演の兵士3人に無名の若手俳優を配した事もリアリティに貢献していますね。
ゆ: ビグロー監督のインタビューによると、

「スターは最後まで死なないと言う暗黙の了解があるから誰が死ぬか分からない映画を撮るためには主人公は無名である必要があった」

と述べていますね。まあもちろん低予算映画であった事もあるでしょうけど、それを逆手に取った彼女の意地を感じますね。
は: そしてその意地に応えて主人公たちが現実の派遣兵士だと言われても誰も疑わないであろう見事な演技をしておられます。一瞬のミスが命取りになる、気が狂いそうになるような現場を一日一日とにかく生き抜き、キャンプに戻れば喧嘩したり馬鹿をやったりしながら何とか精神の平衡を保とうとしている。しかし時にはその重圧と恐怖に耐えられなくなり感情が爆発する、
ゆ: その全てのシーンで彼らの一挙手一投足、そして大写しになる表情にぐいぐい引き込まれましたね。

は: さてこのような迫真の戦争映画は今までにも幾多とあったと思うのですが、この映画は新たな地平線を切り開いた感がありますね。
ゆ: まずこれが戦争ではないこと。イラク戦争の後始末と言うべき爆弾処理という仕事を描いただけなのに戦争映画も顔負けの悲惨さを有している事は、これまでの戦争映画にない特徴でしょうね。近年戦争の質が大国同士の争いからテロとの対決に変質している事に敏感に対応していると思います。
は: そしてその原因を作ったイラク戦争が、ブッシュ政権が仕掛けた

大量破壊兵器の存在」と言う嘘の大義を振りかざした

戦争であった事を顧みる時、この現実は一体何なのか、と愕然としてしまいます。
ゆ: その戦争に唯々諾々と追従して

「どこが戦闘地域かなんて私にわかる分けないでしょう」

とほざいた某国の元首相にはこの映画を10回見てみろ、と申し上げたい。
は: まあそれはともかく今のオバマ政権はとにもかくにもイラク・アフガンからの撤退を志向しているようでございますが、それでも戦いは終わらないのだという現実を見せつける事がビグロー監督とマーク・ボロー様の真の意図でございましょう。そしてこの映画の本当に怖い所は、最初にキャプションで流れる

War Is A Drug

の真の意味でございますね。
ゆ: 主人公の一人は、やっとローテーションが終了した後、離婚したはずの元妻と赤ちゃんの元へ戻るのですが、赤ちゃんに向かってこの男は

「若い頃俺にはやりたい事が幾つもあった、それが一つ一つと消えていき、今俺のやりたい事はたった一つだ」

と呟きます。その直後のラスト・シーンが衝撃的ですね。
は: こればかりは種明かしをせずに、是非ご覧いただきたいと思います。では採点です。今回ばかりは日頃点数の辛いご主人様も高得点をつけざるを得ないでしょう。

はむちぃ: 90点
ゆうけい: 92点

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