ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

「物語の力」 / 村上春樹インタビュー

Harukiinterview
 先日の神戸新聞に4月6日から毎日曜日に「風の歌 村上春樹の物語世界」と言う新連載が始まるという予告がありました。地方新聞がメインのようですが、何はともあれハルキストにとっては朗報です。

 そしてそれに先駆けて9日からから三回にわたり「物語の力」というインタビューが掲載されました。聞き手は共同通信編集委員小山鉄郎氏です。ご覧になれないハルキストの為に三回の内容を簡単に箇条書きでまとめてみます。

第1回: 物語は世界の共通言語:僕の文体は日本語の日本語性によりかからない

「今長編を書いている、やたら長いのを」
「書く事は一に足腰、二に文体」
「年収の海外分が国内分を上回っていて、事務所の仕事も3分の2が海外分」
「言葉の違いはあっても魂の世界は世界共通で同じ世界、だから物語は文化の差を越えて理解され、神話に似通っているものが多いのではないか」

ハルキストにとってはやはり長編がいつ出来るかが気になるところ。「アフターダーク」のレビューで次は思いっきり長くなるはず、と予想したのが当たったのがちょっと嬉しいです。

第2回:普通の人々の声を力に:良心的な人が突然残虐行為を働く人間に日本人の怖さではと思う

「昨年亡くなった臨床心理学者の河合隼雄氏だけが、僕が「物語」という言葉を使って話すときにその意味をきちっと理解してくれた」
「人は自分の中にそれぞれの物語を持っているが魂の底にまで降りていくとその暗い部分から抜け出せない場合がある。そこからオープンな世界に戻ってこられない場合があり、それが物語の危険性だろう。『アンダーグラウンド』における実行犯達もそうであり、そのことはちゃんと解明しておかなくてはならない」
「良心的な日本人でも戦争中は捕虜を殺せと言われたらノーとは言わなかった。その事に対する日本人の本当の自省の念というのはまだ出てきていないと思う」
「一人一人は弱い人間でも多くの普通の人間の声が一つのボイスになるとすごい力になる。それがそういう世界へいかない力、そしてオープンな世界へ戻れる力となることを望んでいる」

先日レビューした「明日への遺言」と重複するテーマもあり考えさせられる部分もありますが、「アンダーグラウンド」の意図、河合隼雄氏への傾倒、どちらにもあまり共感できない自分にとっては違和感の多いインタビューです。

第3回:予想つかぬ日々、小説に:自省もせず乗り換える団塊の世代もまた典型的な日本人なのだ

「僕等の世代、すなわち団塊の世代は大学時代に理想主義を掲げ、信じもしていない革命闘争をやったような”いいとこ取り”をして、卒業したらさっさと企業戦士になりバブルを作り、それをはじけさせてしまった。そのような世代の一員として日本の戦後精神史の落とし前をつけないといけないと思っている」
「世界の冷戦構造が終結して平和がやってくると思われたのに、やってきたのは9.11に象徴される予測のつかない混沌とした世界だった。自分の書く小説はそのような次に何が起こるか分からない物語なので共感を呼ぶのかもしれない」
「今後自分が書きたいと思っている『総合小説』はいろんな人のいろんな視線があり、いろんな物語があって総合的な一つの場を作る、その為三人称でないと書けない」
「今書いている「やたら長い」小説が三人称かどうかは別としてポイントは『恐怖』、僕の重要な作品になる気がする」

 正直なところ私が好きな村上氏の作品には一人称小説が多いです(笑。ここで述べられている総合小説に最も近いのは「海辺のカフカ」だろうと思いますし、次回作もそのような方向性を持った小説になりそうです。それが壮大になればなるほど海外の評価は高くなり、ノーベル賞も見えてくるのかもしれないですが、、、とにもかくにも「ノルウェイの森」を頂点とした頃の極私的内向的な村上春樹に戻らない事だけは確かでしょう。

 来年は還暦を迎える村上春樹氏のインタビューの最後の言葉を引用しておきます。

「でも枯れたくないですね。『悪霊』を書き、さらに『カラマーゾフの兄弟』を書いたドストエフスキーのように年を取るごとに充実していきたい」