ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

ノルウェイの森

Norwood
はむちぃ: みなさんこん**は、本日の映画レビューはただいま公開中の映画「ノルウェイの森」でございます。1987年に発表され累計発行部数は1065万部を突破し日本の国内小説歴代第一位を誇る村上春樹の小説の映画化でございます。
ゆうけい: その上に世界各国語に翻訳されていますから、世界で最も有名な日本人作家の最も売れた小説と申し上げてよいでしょう。そういう背景やその内容等様々な要素からおよそ映画化は不可能に近いと思われていただけに、ベトナム系フランス人が監督して映画化される、それを春樹氏が了承した、という報道には驚きました。
は: 村上春樹のファンサイトでは、配役の決定に一喜一憂したり、公開直後から早速賛否両論渦巻いたりしておりますね。
ゆ: ハルキスト、「ノルウェイの森」ファン全てを満足させるなんてことは不可能に決まってますから賛否両論出るのは当然だと思うんですが、それでもやはり「奇跡の映画化(パンフレット)」だけに観る前から期待と不安が入り混じっておりました。

『2010年日本映画、配給:東宝、PG12
監督・脚本:トラン・アン・ユン
原作:村上春樹
撮影:リー・ピンビン
音楽:ジョニー・グリーンウッドRadiohead)

キャスト: 松山ケンイチ菊地凛子水原希子高良健吾玉山鉄二霧島れいか

青いパパイヤの香り」「アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン」のトラン・アン・ユン監督が、村上春樹の世界的ベストセラー小説を映画化。(映画.comより)』

は: 映像美に定評あるトラン・アン・ユン監督とアジアを代表する映画カメラマン、マーク・リン・ピンビンの作り上げた映像はとても繊細で美しく、見応えのある映画となっていたように思います。
ゆ: 原作では18年後の主人公がドイツ行きの機内で「ノルウェイの森」のBGMを聴いて辛い過去を思い出す設定になっているのですが、映画は思いきってそこをカットし、ワタナベ、キズキ、直子の3人の楽しい学生生活を描くところから初めて時系列に忠実に物語を紡いでいきましたね。ストーリー展開が分かりやすく、流れが自然で個人的には良かったと思います。ラストシーンが少し軽かったのが残念ですが。

は: 映像を重視した分、そのストーリー展開が浅く、原作を知らない人が見れば平板かつ散漫で主人公だけがやたらもてる不思議な映画にしか見えないかもしれませんが?
ゆ: はむちぃ君厳しいねえ(笑。まああれだけの販売部数を誇る作品ですし、原作を読んでいる、という前提の元に作られた映画だと解釈すべきでしょうね。
は: となると今度は自分の「ノルウェイの森」像をお持ちの方から、細かい設定の変更や省略に関して、あれは入れて欲しかった、これは違うんじゃないかという不満が出てきますよね。
ゆ: まあベストセラーの宿命で仕方ない事ですね。例えば私の場合「」のエピソードがカットされたのは残念でしたし、レイコ先生の描き方は違うんじゃないかとも思いました。それでも最大公約数的に原作に忠実だったと思います。原作の持つ痛切な哀しみもちゃんと伝わってきましたし、春樹流のユーモアのあるセリフもちゃんとツボを押さえて入れていましたしね。
は: そして活字では表現できない映像の部分において村上原作を補完した世界を表現したということでございましょうか。
ゆ: そうですね、なるほどあの活字の世界を映像化するとこうなるのか、と感心させられたところが随所にありました。いたずらにファンに迎合せず「トラン・アン・ユンのノルウェイの森」を構築していたことは評価に値すると思います。

は: 例えば亜美寮の近くの草原の風景は評価が高いようですね。
ゆ: 自分の住んでいる兵庫県にああいう風景が撮れる場所(神崎郡砥峰高原)があるとは灯台下暗しでした。
は: パンフレットによりますとトラン・アン・ユン監督は

「小説の風景に似た場所ではなく、あくまで素晴らしい映像が撮影できる場所、特に草原は圧倒的に美しい場所を探す必要があった」

と述べていますし、撮影のピンビン氏は

「あの草原は本当に美しいところでした。(中略)光と影の変化、風の動き、草の動き、一つ一つに心を留めていたからこそ、自然の吐息を作品の中に写し取る事ができたんです」

と述懐しておられます。
ゆ: なるほど、しかしあの風はちょっと過剰な気もしましたけどね、ヘリコプターで巻き起こしていたようですが(笑。
は: まあそれはそれとしてその草原でのワタナベ直子の演出は如何でございました?
ゆ: 全般にも言えることなんですけど、過剰な性描写をせず抑制を効かせ、風景に重きを置いたところは個人的には良かったと思います。
は: 赤裸々な性描写やセリフの多い原作でございますからね。

ゆ: あとは夜明けの草原の道を歩きながら、直子がワタナベにキズキとの秘密を赤裸々に語る、パンでロングに撮られた大事なカットがあるのですが、二人の歩くスピードがあまりにも速いので最初ちょっと違和感がありましたね。
は: それに関しては菊地凛子様が監督に、速すぎて直子の精神的リズムと合わないと何度もリクエストしたけれど、監督は「とりあえずやれ」と譲らず、そのうちに合ってきた、と語っておられます。
ゆ: 確かにシーンの最後のほうではこれでいいのかなと思うようになりましたね。原作にない設定ですし監督が一番こだわった場面の一つでしょうね。

は: こだわったといえばのシーンも多かったですね。
ゆ: さすが「アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン」の監督ですね(笑。まあ冗談はともかく、直子にはハード・レイン、ミドリにはスイート・レインという風に描き分けていたところが上手かったと思います。

は: 一方で1969年と言う時代設定もしっかりと描かれておりましいた。
ゆ: まあ学生運動さえ描けばいいと言うもんではないんですが、たとえばレコード屋ローラ・ニーロのLPが飾ってあったりしたところなんかは、なかなか憎い演出だと思いましたね。
は: 店長を演じるのが細野晴臣様で「エイプリル・フール」のLPもございました。
ゆ: ご愛嬌ですね。そう言えばレディオヘッドジョニー・グリーンウッドが音楽を担当しているんですが、彼の意見で当時のドイツのプログレ・バンドCANの音楽や、ドアーズの中でもあまり知られていない「インディアン・サマー」を用いているのはマニアックでしたね~。あの頃の普通の学生はそんな音楽聴いてないっちゅうねん(笑。

は: ご主人様話がそれております。さて、登場人物の描き方と担当俳優の方の演技は如何だったでございましょう。
ゆ: 箇条書き的にまとめてみましょうか。

ワタナベ: 松山ケンイチ; 小説では一人称の主人公なんですが、こうして映像化するとどうしても受けに回る演技が多くなります。そのあたりマツケンは上手いですね。ただ、小説の長い文章をモノローグで語るときの滑舌が若干もどかしかったです。

直子: 菊池凛子: 自分のイメージに中にある直子とは随分違っていたので最初は戸惑いましたが、段々とこれが直子だと思わせる説得力のある演技をしているのには感心しました。先ほど述べたロング・カットでの演技とセリフ、精神の均衡を崩し大声で叫ぶところなどは入魂の演技でした。

ミドリ: 水原希子: ミドリは美人過ぎるという以外概ねイメージどおりでした。水原希子はエキゾチックな顔立ちが印象に残る新人。とは言えファッションの世界では既に有名な人だそうですね。ちなみにアメリカ人と韓国人のご両親を持つハーフの方だそうです。映画は殆ど素人だと思うんですが「死」を感じさせる直子と対照的な「生」を感じさせるオーラがあるので監督に選ばれたんだろうと思います。まだ上手い下手を論じるほどの演技ではなかったと思いますが、新人としては十分合格点で監督の演出には良く応えていたと思います。

レイコ先生: 霧島れいか: 今回原作のキャラクタ設定が最も大胆にカットされてしまった役柄がレイコ先生でした。魅力的な登場人物だけにとても残念です。この脚本で最後にワタナベとセックスするのはちょっと説得力がなかったと思いますね。霧島れいかさんは良く演じておられたと思いますが。弾き語りの「ノルウェイの森」もなかなか良かったです。

永沢: 玉山鉄二: 主人公以外の男性陣では一番丁寧に描かれていましたし、ほぼ原作に忠実な設定でした。玉山鉄二もイメージどおりでいいキャスティングだと思いました。

ハツミさん: 初音映莉子: 脇役の女性陣では一番丁寧に描かれていて、初音映莉子さんの演技も自然で品があって良かったです。

突撃隊: 柄本時生: 出番が少なくて残念でした。原作では突然いなくなるのですが映画では書置きを残して去っていきます。正直なところこれは余計な演出だと思いました。死の影が濃い小説ですから、彼が突然死んでしまったとしても不思議はないですからね。

は: 概ねキャストには好意的な評価でございますね。
ゆ: 外国人監督の下で、村上春樹独特のセリフを喋らなければならないと言う難しい条件を皆さん良くこなしていたと思います。

は: ゆうけいにとっても思い入れ深い作品だけに語りたいことはまだまだ山ほどあるとは思いますが、大分長くなってきましたのでそろそろまとめに入りましょう。
ゆ: 直子の病気のことなどは私の守備範囲内ですし、たしかに語り始めると止まらなくなりますのでこの辺でやめておきましょう。
は: その代わりと言っては何ですが、本映画のパンフレットは装丁もしゃれている上に読み応えもありこれで700円はお買い得でございます。
ゆ: とにかく「ノルウェイの森」をお読みになった方で、一度その映像世界を見てみたいと思われる方には、一見の価値のある映画だと思います。ただ、自分の持つ本作品の世界観にあまり固執せずにご覧になることをお勧めいたします。

はむちぃ 72点
ゆうけい 78点