ちょっと紹介が遅れてしまいましたがロッド・スチュワートの、オリジナル・アルバムとしては「Human」以来12年ぶりとなるアルバム「Time」が先月発売になりました。
「15年ぶりに自ら作詞作曲も手がけており、“自分が書くべき、そして歌うべき楽曲”という原点に回帰した一枚となっている。」
とCDジャーナルのデータベースにあり、ロッキン・ロッドの全盛時代に青春を過ごしたものとしては嬉しい限りではあるし、実際楽しませてくれる内容ではあるのですが、う~ん、懐メロに堕していないか?という疑問符がついてしまう出来上がりですね。
前作の「Human」は素晴らしいアルバムで、それと比べると完成度や内容の充実度は残念ながら今一歩かと思います。
1. She Makes Me Happy
2. Can’t Stop Me Now
3. It’s Over
4. Brighton Beach
5. Beautiful Morning
6. Live The Life
7. Finest Woman
8. Time
9. Picture In A Frame
10. Sexual Religion
11. Make Love To Me Tonight
12. Pure Love
ご存知の方も多いと思いますが、彼は2000年に甲状腺癌がみつかり9ヶ月歌えない時期がありましたが、「Human」で見事復帰、高音は出なくなったもののロッド健在をアピールしました。
しかし彼はこの時期ソングライティングに自信をなくしており、「Human」では自身の作品はなく、その後レーベルの移籍を契機に「アメリカン・ソングブック」シリーズに活路を見出し大成功を収めました。拙ブログでも「Soulbook」を紹介した事があります。
というわけで、見事に復活し功なり名も遂げてしまったロッドがオリジナル・アルバムを出す必然性は全く無いように思われ、実際ライナーを読むと、盟友ジム・クリーガンから打診があった時は
「そんなことするより土曜の午後の昼寝の方がよほど楽しみだね」
と全く乗り気ではなかったようです。それが
「ジムがギターをかき鳴らし、ロッドがそれにハミングであわせ」
その時は結論がでなかったものの二日後にジムがロッドをレコーディングの連れ出したところ
「Brighton Beachというタイトルが浮かび」
それから次々とイメージが膨らんでいき、それからは新曲のアイデアが川のように流れ出してきた結果できたのがこのアルバムだそうです。ちょっと話が出来過ぎていて眉唾な気もしますが、とにもかくにもやる気を取り戻し自らの意思でロックの世界に戻ってきた事は間違ないようです。
軽快なリズムに乗って久々にノリノリで歌い上げる「She Makes Me Happy」に始まり、その勢いで題名のごとく二曲目「Can’t Stop Me Now」もロッド節は止まりません。
でもそこは心得たもの、三曲目「It’s Over」ではクールダウンして切々とバラードを歌いあげます。名作「Atlantic Crossing」でA面B面でロックとバラードを見事に使い分けたロッドならではのバランス感覚です。
以後もロック、ミディアム・テンポ、バラードと巧くバランスをとっており、更にはタイトル曲のバラード「Time」のあとにお得意のトム・ウェイツのカバーである「Picture In A Frame」を配するところなど心憎いばかりのファンサービスと言えます。
ということでファンにとっては「おかえりロッド!」と素直に喜ぶべきなのでしょうけれど、どの曲もそれほどぐっと胸に迫ってこないし、ロッドの歌唱力の衰えはスタンダード集ではうまく隠せても、ロックを歌うと隠しようもありません。更にはどの曲を聴いても「ロッドのアルバムのどこかで聴いたぞ」というメロやアレンジばかり。これはファンサービスというよりは
「セールスを意識して懐メロ風にしてみました」
という製作サイドの意図が見え隠れします。「マギー・メイ」風だったり「貿易風」風だったり、どこか「セイリング」を意識してるなと感じたり、これは「キリング・オブ・ジョージー」のメロじゃないの?と思ったり。とにかく気が散ることしきり。
全盛期の代表曲的な曲をファンが望んでいることを意識しての音作りであろう事はもちろん十分理解できますし、どこまでがロッドの意図なのかは分かりませんがファンサービスを忘れないロッドは立派だと思います。しかしその結果がこの程度の内容では少し寂しい。
それよりはむしろ、声量も減ったし高音も出なくなったしで苦しいには違いないが、それでも過去の栄光にこだわることなく他作曲でも新曲を歌ってやるという気概が見えた「Human」の方が私はロッドらしいと思うのですが。
ちなみに録音は、、、素晴らしいとは言いがたいかな(苦笑。ハイファイのオーディイオセットで聴くよりはiPodに入れて聴く方が合っていると個人的には思います。
ということでロッドのファンには彼からの久々の嬉しい贈りものであることは違いないのですが、ちょっと切ない気分にもなってしまう一枚なのでした。