浦沢直樹+長崎尚志が手塚治虫の「鉄腕アトム 地上最大のロボットの巻」をリメイクした「Pluto」がついに完結しました。先ずは浦沢・長崎両氏とスタッフの皆様にこれだけの作品を世に出した事に対して深い敬意を表します。お疲れ様でした、そしてありがとうございました。
ほぼ一巻につき一人(一機)の精鋭ロボットが謎の最強ロボット・プルートゥと対決して斃れていき、最後に残された希望がアトムでした。そのアトムが本巻でついに復活し、最後の対決に挑みます。
更には深い謎に包まれていたアブラーとゴジの関係、ボラーの正体、そして熊のぬいぐるみの正体などが次々に明らかとなります。
もうこの巻で決着をつけるという気概で一気に突っ走ってしまった為か、拍子抜けするくらいあっさりと手のうちをばらし続け、ストーリーも落ち着くところに落ち着いてしまいます。アトムがプルートゥの能力をはるかに凌駕している事、そして単に勝負に勝つような結末にはならない事は当然予想できましたが、それにしてももう少しアトムに活躍して欲しかったなという思いはありますし、おそらくそのような批判があちこちで語られる事と思います。
しかし全巻を振り返ってみますと、そのような瑕疵を認めた上でなお新たなアニメの金字塔と呼んで差し支えない傑作が誕生したとの思いを強くします。
浦沢直樹(+長崎尚志)がストーリーテリングの上手さ、作画の質の高さにおいて「地上最大」レベルにある事はあらためて述べるまでもありません。
それに加えて手塚治虫氏が鉄腕アトムに託した原初的なテーマを敷衍させ、究極のロボットが持ち得た感情を通して人間の尊厳を正面から問いなおす本作品の哲学性は凡百の小説を凌駕していると評価しても決して過言ではないでしょう。
全8巻といえば彼の作品では短編の部類に入りますが、先日紹介したカズオ・イシグロの短編集がチェーホフ的とするならば、骨太の構想と雄弁な文章で哲学を語っている点に於いてこの作品はトルストイ的長編であると思います。
そこまで言うかと思われる方も多いとは思いますが、未読の方は完結したこの時期を機会に是非ご一読いただき、感想などたまわれば幸いです。
では鎮魂の意味もこめて斃れていったロボットたちの名前をここに記しておきましょう。写真左より
スイスの森を愛していたモンブラン
音楽を愛していたノース2号
家族をこよなく愛していたブランド
一人おいて
ブランドと強い友情で結ばれていたヘラクレス
花を愛し祖国の緑化をを願っていたサハド=プルートゥ
戦争に反対し徴兵拒否までしたエプシロン
そして今回の主役であった、
GESICHT
Der Gröβte Roboter Europas
- Er War Polizist -
stark im Kampf für den Frieden der Menschheitゲジヒト
人類平和のため屈強に戦った、ヨーロッパで最も偉大なロボット警察官
(漫画中の墓碑銘より、ゆうけい意訳)
最後に史上最強のロボットとしてただ一人生き残った
アトム
に敬意を表して「Pluto」シリーズのレビュー終了です。