ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

Pasodoble / Lars Danielsson & Leszek Mozdzer

Pasodoble
  ポーランドはさすがショパンを産んだ国だけに、ジャズの分野においても天才的なピアニストを多く輩出しています。とはいえ、本邦では情報がなかなか手に入れにくい事も事実。そこで頼りになるのがポラジャズを語らせれば右に出るものの無いオラシオさんのブログです。
 そのオラシオさんが今一押しの新世代のピアニストがLeszek Mozdzer (zの上にドットがつきます、レシェク・モジュジェルと読むそうです)だそうです。オラシオさんの論評によると

キース・ジャレットや故ミシェル・ペトルチアーニらの孤高のピアニズムに比肩する実力を持っている存在と言ってもいい」

そうで、これは聴かねばと思い、まず比較的容易に手にはいるこのDUOアルバムを購入してみました。とはいえ、アマゾンで海外のディーラーに申し込んでドイツから送られてくるまで半月くらいかかりましたけど(苦笑。スウェーデンの高名なベーシスト、ラーシュ・ダニエルソンと組んで製作された「Pasodoble」です。

1. Praying (LD)
2. Fellow (LD
3. Entrance (LD)
4. Prado (LD)
5. Pasodoble (LD)
6. Daughter's Joy (LD)
7. It's Easy With You (LM)
8. Hydrospeed (LM)
9. Reminder (LD)
10. Innocence 91(LM)
11. Follow My Backlights (LM)
12. Eja Mitt Hjrta(trad arr by LD)
13. Berlin (LD)
14. Distances (LM)

 以上のようにラーシュがアレンジを含めて9曲、レシェクが5曲と今回の主導権はやはり大物の方のラーシュにあるようです。出だしからしてベースの音圧がやけに大きく、ベース主体のアルバムかなと思わせます。ベースをブリブリ言わせたいオーディオファイルにはぴったりかもしれませんね。余程オンマイクで取ってるんだろうかとも思いましたが、唸り声や息遣いが殆ど聞こえてこないので、おそらくピックアップを使っているんでしょう。

 それに対抗すべくピアノの音圧も結構高めに録音されていて、両者とも音像は大きめ、そのあたりの好き嫌いはオーディオファイルの中にもあるんじゃないかと思います。私はもう少し自然なライブ感覚で録音して欲しかったですけどね。

 しかしそれより何より二人のテクニック、曲の素晴らしさ、そして熱い交感には素直に感動します。ライナーノートによると二人はラーシュのアルバム発表後のライブツアーで初めて出会い、二人ともが

「このプレーヤーこそが自分にとって理想の共演者だ」

と感じたそうで、このアルバムはいわば必然として出来上がったものなのでしょう。どちらかと言えば暖色系のラーシュと、対照的に寒色系のレシェクのバランスが、演奏に於いても曲の配列に於いても絶妙です。

 全体を通しての印象としては、ビートやノリと言った本場アメリカ的要素よりも、透明感のあるリリシズム溢れる旋律を重視した、ECM系のヨーロピアンジャズの系譜に入ると思います。もちろんただ単に耽美的なアルバムではなく、ジャズらしいスリリングな展開も随所に見られますし、ラーシュはベースのほかにチェロも弾き、アルコ奏法もあちこちに導入してメリハリをつけています。、一方でレシェクもチェレスタハーモニウムを併用しており、これもベースと良く合っています。
 

 さて、レシェクの演奏!最初はそれほど凄いとは思えないんです。何故かと言うと、一音一音がクリアで音の分離がきれいな打鍵であるために、ぱっと聴くだけではゆっくりと弾いているようにしか思えないんですね。クラプトンではありませんがピアノの「スローハンド」(笑。しかし聴き込むにつれて次第にこれは凄いテクニックと抜群のセンスを持ったピアニストだなと分かってきました。
 彼は5歳からピアノを始め18歳でジャズに出会った、とライナーに書いてありますから、その間はクラシック畑を歩んできたのだろうと思います。それが正確なタイムキープ、一音一音が端正でかつクリアな打鍵、フォルテッシもからピアニッシモまでの強弱の正確さなどのしっかりとしたテクニックの基礎になっているものと思います。

 そんな彼の真価が発揮されているのは何と言ってもタイトル曲の「Pasodoble」でしょう。この題名の意味は分かりませんが、最初レシェクが数小節曲のテーマを弾いてラーシュにソロを受け渡します。そのラーシュが持てるテクニックを駆使して見事な演奏を展開した後、ソロをレシェクに返してからの演奏が凄い!目くるめくとはこういうことを言うのでしょうか、あえて例えるとキース・ジャレットが神がかった時のソロ演奏の右手がレシェク、左手のサポートがラーシュ、とイメージしていただければ当たらずとも遠からずだと思います。

 レシェク自身の作品も7,11などとても面白いと思いますが、本国では「New Chopin」と形容されるほどの人気作曲家だそうで、真の実力はまだまだこんなものではないんでしょう。繰り返しになりますが初DUOアルバムでこれだけの作品を仕上げてしまうとは本当に驚異的なユニットだと思いますが、是非レシェクのソロアルバムも聴いてみたいと思います。