ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

You Must Believe In Spring

 jazzaudiofanさんが紹介しておられたアラン・パスクァの「ボディ・アンド・ソウル」を最近良く聴いております。キース・ジャレットを敬愛するというだけあって、その叙情性溢れる演奏はなかなか心地よいです。とはいえ、アルバムをレビューしても二番煎じになるだけですし、一曲目の「You Must Believe In Spring」を手持ちの本家本元の演奏と聞き比べてみることにしました。
ボディ・アンド・ソウル
ボディ・アンド・ソウル

 この名曲はご存知の方も多いと思いますが、映画「ロシュホールの恋人たち」の為に書かれた曲で、作曲者はフランスの巨匠ミシェル・ルグラン
 ということでまずは元祖から。ジャズ界の人たちとも共演の多いルグランですが、ちょっと異色の組み合わせで、クラシック界の歌姫ジェシー・ノーマンとの共演アルバムを引っ張り出してきました。

おもいでの夏~ジェシー・ノーマン meets ミシェル・ルグラン
おもいでの夏~ジェシー・ノーマン meets ミシェル・ルグラン

ジェシー・ノーマン(vo)
ミシェル・ルグラン(p)
ロン・カーター(b)
グラディ・テイト(ds) 

 当然といえば当然ながら、今回聴いた中では最も気品の高い演奏。ルグランのピアノは非常に端正ですが、随所にきらりと光るようなインプロと思われるフレーズを挟んでいるところはさすがです。ロングラディも全てインプロビゼーションだと解説に書いてありますが、それが信じられないほど控えめできっちりとつぼを押さえた演奏です。
 そしてジェシーベルカントはやはり普通の歌手とは一線を画する気品の高いもので、曲自体もともとジャズではなくミュージカル用に書かれたピースですのでこの曲には良く合っています。
 ルグランもあまり自分の曲をジャズ・ポピュラー流に崩し過ぎる演奏はお好きでないようです。ちなみに自分の編曲、演奏以外で好きなのはマリーナ・ショウのものだそうです。私は聴いた事がありませんがおそらく原曲をあまり崩さず端正に歌っているのではないでしょうか。

 続いてはやっぱり本家・ビル・エヴァンスです。この曲がスタンダード的に扱われるのはやっぱりこの人が取り上げているからでしょう。実はトニー・ベネットとの「Together Again」の方が早いのですが、やはりこの曲はこのアルバムの印象が強いですよね。

You Must Believe in Spring
You Must Believe in Spring

ビル・エヴァンス(p)
エディ・ゴメス(b)
エリオット・ジグムント(ds)

 ビルの死後に発売されたということ、墨絵のようなジャケット、そして一曲目の亡き妻エレインに捧げた「Bマイナー・ワルツ」の印象から、静謐な哀しみと美しさに満ちたアルバム、というイメージが強いのですが、「You Must Believe In Spring」を久しぶりに聴いて驚きました。静かなのはビルによるテーマ導入部だけで、後は結構「走っている」演奏だったんですねえ。
 ビルの演奏の代名詞インタープレイの醍醐味とでも言いましょうか、エディ・ゴメスの渾身のソロに煽られるように、ビルもかなり速くかつ強いパッセージをインプロで展開して行きます。今回改めて聴いてみて、この曲におけるゴメスの演奏は、彼の長いビルとの共演歴の中でも最高の演奏の一つではないかな、と感じました。

では最後にアラン・パスクァ・トリオで聴いてみましょう。

アラン・パスクァ(p)
デレク・オールズ(b)
ピーター・アースキン(ds)

 うーん、さすがに元祖本家を聴いたあとでは分が悪いか(^_^;)。というか、ビル・フォロワーはかくあるべし、という枠に縛られているような印象はありますね。ビル好き日本人にあわせた企画サイドの問題かもしれませんが、あまりにも上記のビルの演奏を意識しすぎているような気がします。逆に言うとあの演奏を現代風に洗練させるとこうなりますよ、という感じでしょうか。日本でのビルへのトリビュートアルバムに入っている益田幹夫トリオの「Porka Dot And Moonbeams」をちょっと思い出しました。
 演奏では特にピーター・アースキンのドラミングが現代風洗練を感じさせます。さすが当世一のテクニシャンだけあって、原曲のジグムントには悪いけど、段違いに巧いです。あれだけシンバルを軽やかかつスピーディに叩ける人ってちょっといないんじゃないかな。

 というわけで元祖本家現代風洗練と、三者三様に楽しめましたが、とにかく演奏というのは

先入観を捨てて無心でまず聴いてみるべし

という教訓を得ることができました。