ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

Wallflower / Diana Krall

Wallflower
  待ちに待ったダイアナ・クラールの新譜「Wallflower」が届きました。去年の夏ごろからFacebookの公式ページでアナウンスされていて、「Desperrado」などはもう何度も聴いていたのですが、秋の発売のはずがダイアナが肺炎を患ったっということで大幅に伸びていました。その辺が心配だったのと、今回はジャズではなくポップスのカバーアルバムとのことなので、出来具合を若干心配していましたが幸いダイアナ独特の歌唱は健在でした。スマッシュヒット間違いなしの良質で捨て曲なしの作品だと思います。

 敢えて言えばジャズシンガーとしてのダイアナがお好きな方はちょっと複雑な思いをされるかもしれません。彼女が「良い気分転換になった」と語っているように、よく言えば素直に、悪く言えば全力は出さずに歌っている感じです。
 例えば伴侶のエルビス・コステロと作った「The Girl in the Other Room」ではジャズとポップス調の曲が混在していました。その中で、力の入ったジャズ・スタンダードの「Temptation」とコステロ作のバラード「Narrow Daylight」、前者の好きな方ならこのアルバムは物足りないでしょうし、後者の好きな方ならこのアルバムは楽しめると思います。

 そしてこのアルバムを素晴らしい出来上がりにしているのが、今やVerveのChairmanにまで出世したデヴィッド・フォスターの編曲。出しゃばりすぎず、引っ込みすぎず、彼女の個性を引き立てつつ、ストリングス・アレンジ、ピアノの音色の美しさ、そして大物共演者とのヴォーカルの配分など、本当に細かなところまで神経の行き届いた編曲をしています。
 ダイアナ・クラールのバックにつく大物と言えば同じVerveの会長トニー・リピューマが有名ですが、彼に負けないプロデュースの手腕だと思います。

1. California Dreamin' 
2. Desperado 
3. Superstar 
4. Alone Again (Naturally) 
5. Wallflower 
6. If I Take You Home Tonight 
7. I Can't Tell You Why 
8. Sorry Seems To Be The Hardest Word 
9. Operator (That's Not The Way It Feels) 
10. I'm Not In Love 
11. Feels Like Home 
12. Don't Dream It's Over 

『 ジャズ・ヴォーカルの女王=ダイアナ・クラールの2年ぶりの新作は、現代の巨匠=デイヴィッド・フォスターとついにタッグを組んだポップスカヴァー作品!
 Verveのチェアマンであるデイヴィッド・フォスターとの初めてのコラボレーション。1960年代後半から現在までダイアナにインスパイアを与えてきた永遠に輝くポップソングの数々をフォスターの豪華アレンジで歌う、夢の企画盤。
  「デスペラード」「アイム・ノット・イン・ラヴ」「ドント・ドリーム・イッツ・オーヴァー」など日本でも長年愛されているナンバーの数々をデイヴィッド・フォスター流の壮大なアレンジで旧来のジャズファンだけでなく、40代50代の幅広いファン層へアプローチできる内容。ポール・マッカートニーが書き下ろした新曲も収録。ほぼすべての楽曲のアレンジ/プロデュースはグラミー通算16度受賞の巨匠=デイヴィッド・フォスターが担当。

「デイヴィッドの素晴らしいアレンジのおかげで、歌うことに専念ができていい気分転換になったわ」(ダイアナ・クラール)「今回の楽曲はすべてダイアナが愛してやまない曲ばかり。彼女のハートが、全ての楽曲の新たなイメージを引き出しているよ」(デイヴィッド・フォスター)と2人の充実した仕事ぶりが詰め込まれているアルバム。 (AMAZON解説より) 』

 取り上げられた作品は、70年代のポップス黄金期で、ダイアナが聴いて育った時代の曲が中心となっています。
 ママス&パパス(1)、イーグルス(2、7)、カーペンターズ(3)、ギルバート・オサリヴァン(4)、ボブ・ディラン(5)、エルトン・ジョン(8)、ジム・クロース(9)、10c.c.(10)、ランディー・ニューマン(11)、クラウデッド・ハウス(12)と、一つ間違えばべたで凡庸になってしまいそうな選曲です。

 そこを傑作にしてしまうところがダイアナ・クラールの実力とデヴィッド・フォスターの手腕。ダイアナ独特のややハスキーな低いキーでゆったりと一音一音を慈しむように歌いこむ芯のある発声、いわゆるクラール節は健在、どの曲も見事に自分の世界に引き込んでいます。「アローン・アゲイン」でのマイケル・ブーブレとの、「フィール・ライク・ホーム」でのブライアン・アダムスとのデュエットも完璧。マイケルもブライアンもカナダ出身ですから気の合うところもあるんでしょうね。そう言えばデヴィッド・フォスターもカナダだ。
 それはともかく、「カルフォルニア・ドリーミン」「オペレーター」では御大ティーブン・スティルスグラハム・ナッシュがバック・ヴォーカルをとり、さらにはポール・マッカートニーがこのアルバムのために一曲書き下ろすと、という豪華さ。
 まさにVerveの威信をかけた作品と言えましょう。

 どの曲も素晴らしく、聴く人ぞれぞれに好きな曲が見つかると思います。個人的に気に入った曲をあげてみます。

 まずは一曲目の冒頭、どんなアレンジで始まるのかなと思いきや意表をついてアカペラで始まった、懐かしのママス&パパスの「Calfornia Dreamin'」。しっとりとしたマイナー調の曲となっていますが、実際「夢のカルフォルニア」という邦題とは裏腹に冬の寒いNYで温かいLAを思い焦がれる悲しい歌なんですよね。だから曲とマッチしたアレンジだと思います。

 ギルバート・オサリヴァンの名曲「Alone Again」、マイケルと歌唱パートのバランスがうまくとれて息もぴったりのDuoが決まっています。

 カバーされることの多いことでは女性のジョニ・ミッチェルと双璧のボブ・ディランですが、そのディランのカバーの中でも珍しい選曲でタイトル曲の「Wallflower」、壁の花になっている君、踊ってくれないかい、君が好きなんだよ、という小粋な内容の作品で、このアルバムの中でも比較的明るい雰囲気をかもし出しています。ブレイク・ミルズのギターも良いアクセントになっています。

 稀代の名コンビ、バーニートーピン&エルトン・ジョンの美しいメロディラインが光る切ないバラード「Sorry Seems To Be The Hardest Word」、エルトン・ジョンの原曲ももちろん素晴らしいですがダイアナの歌唱も実に味わい深いです。

 そして一番気に入ったのは「オペレーター」。ジム・クロースの作品と言う渋い選曲が光ります。冒頭デヴィッド・フォスターの美しいピアノ伴奏をバックに、このアルバム中では比較的アップテンポのメロディラインを歌いこむダイアナ、ストリングスのアレンジも美しく、途中で挿入されるギターの短いソロも効いています。ちなみにエレクトリック・ギターのクレジットはティーブン・スティルスになっています。そしてティーブン・スティルスグラハム・ナッシュのバッキング・ボーカルで決め。

 これでもかとミキシングを重ねた10c.c.の代表曲を上手くストリング・アレンジで再現した「I'm Not In Love」もいいです。

 まだまだ挙げたいですが、この辺にしておきます。

 オーディオファイルには気になる音質も良好。私の買ったのは輸入盤で普通のCDですが、クリアでバランスもよく、ボーカルはもちろんのこと、すべての楽器に気を配ったミキシングがされています。、特にピアノの音色は出色。今回ダイアナ・クラールがピアノを弾いているのは7だけですが、キーボード奏者であるデヴィッドが他の全ての作品でピアノを担当しているだけあってとても美しい音に録音されています。

 ということで、カバーアルバムとしては出色の出来で、大ヒット間違いなしだと思います。ちなみに日本盤は「Wallflower」のライブ盤を含めてボーナストラックが4曲もついているそうで、悩むところです。「Don't Dream It's Over」で終るこの12曲で構成は完璧だとは思いますけど。。。