ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

スポットライト 世紀のスクープ

Spotlight

 「スポットライト 世紀のスクープ」をシネリーブル神戸で観てきました。

  カトリック教会の腐敗と虐待と聞くとすぐ思い出すのが、「マグダレンの祈り」という映画。これはアイルランドカトリック教会が「堕落した女」を救済するためと称して、「堕落しそうな女性」と決めつけた女性まで片っ端から「マグダレン洗濯所」に収容し、信じられない過酷な重労働を強いていたという実話に基づいた映画です。1993年に施設内から多数の遺体が発見されるまでこの実態は正確には把握されておらず、国際アムネスティが動き出して何と国家ぐるみの犯罪が明らかになったという恐ろしい規模の犯罪でした。
 その女性虐待のあまりのひどさに怒りに震えながらジョニ・ミッチェルが書いた歌があの名曲「The Magdalene Laundries」です。

 前置きが長くなりましたが、同じカトリックの世界で恐ろしい件数の小児への性的虐待が組織ぐるみで隠蔽されていた、という忌むべき事実を告発した実話に基づいた映画が、この「スポットライト」です。

 2015年度のアカデミー作品賞、監督賞を受賞したくらいですから「マグダレンの祈り」に匹敵する映画であろう、と襟を正して観てきました。
 主演陣も「はじまりのうた」で好演していたマーク・ラファロ、「バードマン」での活躍がまだ記憶に新しいマイケル・キートン、「シャーロック・ホームズ」で活き活きとした演技を見せていたレイチェル・マクアダムスと私の好きな役者さんばかり。

 ということで期待度は高かったのですが、う~ん、これでアカデミー賞かな?とちょっと首を傾げてしまいました。結局これがほとんどノンフィクションであるという事実がキリスト教社会には衝撃が強かったのかな、と思いました。

『 原題: SPOTLIGHT
2015年 アメリカ映画 配給 ロングライド

スタッフ

監督: トム・マッカーシー
脚本: ジョシュ・シンガートム・マッカーシー
撮影: マサノブ・タカヤナギ
音楽: ハワード・ショア

キャスト: マーク・ラファロマイケル・キートンレイチェル・マクアダムス、リーブ・シュレイバー、ジョン・スラッテリー、ブライアン・ダーシー・ジェームズ

新聞記者たちがカトリック教会のスキャンダルを暴いた実話を、「扉をたたく人」のトム・マッカーシー監督が映画化し、第88回アカデミー賞で作品賞と脚本賞を受賞した実録ドラマ。2002年、アメリカの新聞「ボストン・グローブ」が、「SPOTLIGHT」と名の付いた新聞一面に、神父による性的虐待と、カトリック教会がその事実を看過していたというスキャンダルを白日の下に晒す記事を掲載した。社会で大きな権力を握る人物たちを失脚へと追い込むことになる、記者生命をかけた戦いに挑む人々の姿を、緊迫感たっぷりに描き出した。第87回アカデミー賞受賞作「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」で復活を遂げたマイケル・キートンほか、マーク・ラファロレイチェル・マクアダムスら豪華キャストが共演。 (映画.comより) 』

 冒頭テロップで「これは事実に基づいた物語である。」と文章が入ります。直後の映像で性的虐待を行ったカトリック神父(priest)が警察から引き取られていくシーンがさらりと流れます。警察も腫れ物に触る感じ、というよりは常態化しているので逮捕起訴ははじめからあきらめている感じです。

 そして場面転換して舞台はボストンの三大新聞社ボストン・グローブの社内に切り替わります。編集長の交代があり、新任のユダヤ教教徒の有能な編集長が赴任してきます。そして「SPOTLIGHT」というグローブ紙の目玉であるスクープ欄を担当するチームに、カトリック神父による児童への性的虐待を取材するように命じるところから物語りは動き始めます。

 そのチームのヘッドがマイケル・キートン、有能な部下にマーク・ラファロレイチェル・マクアダムスたち。取材が進むにつれ、性的虐待を行っていた神父は複数であることが分かってきます。最初は守秘義務を盾に口を閉ざす弁護士たちから、徐々に13人20人と驚くべき人数を聞き出し、俄然組織ぐるみの隠蔽である可能性が高まってきます。

 さらにはカトリック系の療養院のセラピストから、独身を貫かねばならない神父にはそのような性癖をもってしまう確率がもっと高いことを知らされ、計算してみるとなんとボストンで90人はいる、という衝撃の可能性を示唆されます。そこで病気療養等の理由で早期に転任した神父を徹底的に洗い出してみるとなんと87人、殆ど一致する数字が出てきます。

 チームは方針を変え、カトリック教会の組織犯罪としての追求をはじめます。

 これ以上ネタバレは控えますが、実を言うとそこからが問題。

 事実に基づいているとは言っても映画ですから、どんなハラハラドキドキの組織的妨害や暴力、カトリック信者のバッシング等々が待ち受けているかと思いきや、記者たちは多少の取材拒否は受けるものの大した危機感も感じず暴力やバッシングに会うわけでもなくサクサクと取材は進んでしまいます。
 それが滞ってしまうのは、あの世界を揺るがせた大事件の報道に追いまくられたからってのは事実ではあるんでしょうけれどおいおいそれはないんじゃない、って感じ。

 カトリックの腐敗の実態やレイプに関しての直接的な映像はなく、被害者の苦しみも断片的に取材場面を通してしか描かれず、結局新聞社がスクープ取りに血眼になっている姿だけが目立ってしまった感が否めません。まあ、そういう映画なんだといわれればそれまでなんですが。結局最後のテロップが一番衝撃的、というのは映画としてどうかな、と思ってしまいました。

 というわけで、癖のある記者を演じたマーク・ラファロ、過去に何か秘密があるキャップを渋く演じたマイケル・キートン、熱意と正義感に満ちた女性記者を演じたレイチェル・マクアダムスをはじめとする俳優陣はよく頑張っていたと思いますし、監督賞を獲ったトム・マッカーシー の演出も良かったとは思いますが、脚本に一工夫欲しかったです。アカデミー作品賞に値する映画であることは否定しませんが、残念ながら個人的にはそれほど感動も驚きも無い映画でした。

評価: C: 佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)