ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

生賴範義展 @ 明石市立文化博物館

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 明石市立文化博物館で催されている「生賴範義(おおらいのりよし)展」を観てきました。生賴氏は昨年惜しくも逝去されましたが、我々の世代にはSF系の本や雑誌、特に平井和正小松左京の文庫本表紙のイラストが強く印象に残る名イラストレーターです。

 その実力は平井和正氏をして「ウルフガイ犬神明)のイメージは彼のイラストがあるから全くぶれることが無かった」と言わしめ、小松左京氏をして「このイラストは本当に日本人が描いたのか?」と驚かせ、ジョージ・ルーカスが映画スター・ウォーズのイラストを熱望したというほどです。

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 それほどの世界的イラストレーターですが、明石市ご出身で、当地で太平洋戦争時空襲に見舞われたとは知りませんでした。その故郷明石での展覧会でしたが、独特の画風、遺した作品のジャンルの広さに圧倒されました。

『 明石市が生んだ世界的イラストレーター生賴範義(おおらい のりよし)。本展覧会では、映画「スター・ウォーズ」「ゴジラ」のポスター、平井和正幻魔大戦」、吉川英治宮本武蔵」の小説のイラスト、有名人の肖像画、レコードジャケット、商品広告等、1962年にイラストレーターとしての活動を開始し、2011年に病に倒れるまでの50年間に、彼が遺した奇跡とも言える数の作品の中から、特に代表的な作品を展示します。
ジョージ・ルーカスが、映画「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」のイラスト製作を熱望し、作家 小松左京が「これが日本人の描く画なのか?」と、その作品を見て驚嘆したという、生賴範義にしか描けない圧倒的な世界観を、是非体験してください。(公式HPより) 』

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 もう通い慣れた明石市立文化博物館ですが、1階にデンと据えられた巨大な「生賴タワー」にいきなり圧倒されました。 書籍662点、レコード11点、箱1点が、四面に渡ってずらーっと並べられています。生涯で2500点以上の作品を手がけられたと言われていますので、これでもほんの一部なんですね。

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 私が彼の作品を強く意識したのは平井和正の「アンドロイドお雪」が最初でした。その文庫本もちゃんとありましたし、正式な作品も2階に展示されていて嬉しかったです。

 1階の第一会場には「SFアドベンチャー」の表紙を飾ったあの有名な女性画群が並んでいます。聖書やギリシャローマ神話から多くの題材が選ばれていますが、嬉しいことにこの会場は写真撮影OK。何枚か撮影させていただきました。

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( イヴ、1980.6、リキテックス、クレセントボード)

 一作目の「イヴからしてもう人目で生賴さんと分かる画風です。濃厚で重厚な配色、精緻でリアルな人物像と背後に配された幻想的な風景。
 これほどの絵は何で描かれているのだろう、と昔不思議に思ったことがありましたが、今頃になってようやく分かりました。リキテックスというアクリル絵の具で、クレセントボードというイラスト専用の厚紙ボードに描いておられたんですね。キャンパスもありましたし、白黒のものはペン、インクで描かれているものもありましたが、殆どが「リキテックスxクレセントボード」でした。

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(ヴィクトリア、1984.12)

 上はリキテックス、クレセントボードの完成品、下はその下図です。デッサンも見事なものでした。

 2階は残念ながら、というか、当然というか、主要作品群で写真撮影は禁止。平井和正小松左京スターウォーズゴジラ等々の見事な作品群を堪能させていただきました。

 平井氏の作品ではやはり「ウルフガイ」、「幻魔大戦」「アンドロイドお雪」「超革命的中学生集団」、小松氏では「日本沈没」の壮大な大都市沈没図、「復活の日」「果てしなき流れの果てに」「ゴルディアスの結び目(これは小松氏の個人的なたっての依頼だそうです)」「虚無回廊」などが懐かしかったですし、印象に残りました。また、小松左京氏の肖像画もありましたが、小松氏は自らの葬儀の遺影に指定したそうです。

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(この写真はウェブから拾ってきたものです、中央が原田芳雄さん)

 その他の人物像では、白黒のペン、インクで描かれた映画「浪人街」の原田芳雄さんが素晴らしかったです。

 

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(ポストカード)

 そして何と言っても迫力があったのは、ゴジラですね。ゴジラの凶暴な面をもう一度前面に押し出した東宝の新シリーズでしたが、その凶暴性と迫力を見事に表現したゴジラに息を呑む思いでした。

 最後の展示は、いかにも意志の強そうな生賴氏の自画像(油彩)でした。

 SFファンならずとも一見の価値ありと思います。5月29日まで催されています。是非どうぞ。

2016.5.12 追記

 ブログのお仲間のtakiさんが本展覧会をご覧になり、塗料のプロとしての感想をFacebookに書いておられます。takiさんの了承を得て転載させていただきます。

「 画材はクレセントボードにリキテックスとありますが、どちらも商品名。
リキと省略されて呼ばれることもあるアクリル絵具の代名詞でしたが今は昔ほどの勢いはないです、というか画材市場全体が尻すぼみ状態ですが。
作品からは、生来画伯はアクリルの性質を知り尽くした画家だったと思いました。

ぱっと見には微妙なグラデーションで肌やメカの質感を見事に表現しているように見えますが、近くで見るといずれもドライブラシとかハッチングのような技法です。
速乾性のアクリルでは微妙なグラデーションは非常に難しい反面、すぐに乾いた上からどんどん重ねていけるという性質を巧みに活用していると思います。だからケタ違いに多くの作品を制作できたのでしょう。

 こうした技法は初期の人物画の点描法を発展させたのではないかと思いました。有名人のポートレイトも気味が悪いくらいにたるんだ皮膚の触感が出ていますが、これも微妙なグラデーションではなくハッチングの類でした。
一見、油絵のようなこってり感があるようで、その実は薄い層をどんどん重ねていて、決して厚塗りではありません。

 メカの精緻な描写、題材の思いもよらないような組み合わせ、強烈な色彩構成、そしてなんといっても強烈に迫りくる臨場感と重量感など、一度見たら忘れられない画風です。」