ルーツサウンドさんでTADの試聴会があったのでちょっと顔を出してきました。TADは気になるメーカーではあるのですが、新しく出た小型SPを聴く機会がなかったので興味津々でした。
いろいろなソースを聴かせていただきましたが、スケールの大きさと情報再生の正確さが両立した、そしていかにもパイオニアの流れを汲んでいるなあと思わせる活気に満ちた溌溂としたサウンドでした。以前私が使っていたWilson Audio Cub2とほぼ同じくらいの大きさで音の傾向も似ているところがあり、より好感が持てました。
All TAD Sytem:
TAD-D1000Mk2 (SACD PLAYER)
TAD-C2000 (CONTOROL AMPLIFIER)
TAD-M2500 (POWER AMPLIFIER)
TAD-CE1 (SPEAKER)
プレイヤー、プリ、パワーもオールTAD、いずれも150万円以上のクラスのハイエンド機でディスクの情報を余すことなく緻密に正確にSPに伝えます。私がアキュユーザーでなくてまだ機器類が発展途上だったら、もう迷わずこの三台にしますね。もし海外のガレージメーカーだったらこれ三台で1000万はいくんじゃないか、と思わせるほどのコストパフォーマンスを感じました。
またS/N比の良さからくる弱音部の静寂感や音の濁りのなさはボードも大きく貢献していると思います。実はこのTADボード、ウェルフロートボードの素材MDFをフィンランドパーチに変更したもの。ウェルフロートボードに比べるとずいぶん高いのがつらいところなんですが、音の品位の高さは魅力的でやっぱり欲しいなあ、と思いました。
ちなみにパワーアンプはDクラスアンプで全く発熱しないので放熱板がありません。軽くできそうなものなんですが、我が家に来たアキュのP-7300に近い43㎏という重量があります。90kgのアルミ塊から削り出しの頑強な筐体にするとこの重量になるそうで、これはもうアキュに負けず劣らずのこだわりを感じました。
さて注目の小型スピーカーTAD-CE1、今回は特徴的なサイドバスレフのアルミ外板がピアノブラックフィニッシュでした。これは新しく追加されたバージョンだそうです。
上部ユニットはTADお得意の同軸2wayで、蒸着ベリリウム3.5cmツイーターとマグネシウム製の14cmミッドがなんと250Hz-100KHzという広帯域をカバーしています。このユニットによる揺るぎのない完璧な音像定位は本当に見事なもので、しかもスケールが大きい。低域から超広域まで伸びきった驚異のfレンジの広さも圧倒的。TAD独自のベリリウムツイーターは超広域まで伸びきっており、若干きつさを感じますが、この辺りは好みの問題でしょう。
250Hz以下を受け持つウーファーもサイドバスレフと相まって18㎝とは思えないほどの迫力です。特筆すべきは筐体の頑強さともあいまったクリアな低音であることでしょう。迫力と押し出しは大型ウーファー並みでありながら音程が安定しているのはすごいな、と思いました。以前私が使っていたCub2も強靭な筐体とバーチカルツインで同様の低音を出していましたがこのSPはワンウーファーですから、いかにTADのユニットが優れているかよくわかりました。
ただ、ソースによっては若干ですが上の同軸ユニットとの音の質感の違いが気になるところもありました。この辺りは自分の好みのソースで試聴が必要だと思いますが、それにしてもこのスピーカーも値段からは考えられないほどの高品位な実力機だと思います。TADもハイエンドで手の届かないメーカーというイメージを払拭できるところまで来ていますね。
ちなみに専用スタンドは日本の地震対策として五角形の大きな底面を持っています。だから小型SPとは言え結構なスペースが必要です。
ではいくつかのソースのインプレを。
まずは挨拶代わりのヒラリー・ハーン。シベリウスのVnコン第三楽章です。冒頭のオーケストラの低音部の押し出しと迫力が、Dolonさん宅で聴かせていただいたAvalon Diamondでの再生と同じくらいのバランスで押し寄せてきたのには驚きました。オケの再生の緻密さと定位はユニットの優秀さが、そして押し出し感は筐体とサイドバスレフが貢献しているものと思われます。
ヒラリーのヴァイオリンは正確無比な再生。一切曖昧なところのない見事なプレイバックでした。その分、このシステムの個性であるとかクラシック向けと言った柔軟な音作りにはなっていません。ただひたすらCDに入っている情報を忠実に余さず再生するシステムであると思います。あとはベリリウムの超広域まで伸びたツイーターの音を気持ちいいと感じるか若干きついと感じるか、個人の好き嫌いの問題だと思います。
TADにはノリのいいジャズが似合うだろうと、ボブ・ジェームズの「カルテット・ヒューマン」をかけてもらいました。予想通り四人が楽しくて仕方がない、という感じでノリノリで演奏しているのが目に見えるようでした。定位がいいのでプレイヤーの位置がびしっと決まっていますし、唸り声や息遣いまで鮮明に聴こえるS/N比の良さも素晴らしい。敢えて言うと、ジナスのベースが上下のユニットで若干質感が違うような気がしました。ソロをとっている時には気にならなかったので錯覚かもしれませんが。
ピアノ好きとしてはやはりピアノを一曲。トーマス・エンコの摩訶不思議な世界。極端なオンマイクで録りながら音がフワーッと空間に拡散していくさまがよく捉えられていました。音の質感は拙宅のサファイアとも、DolonさんのAvalonで聴かせていただいたものとも違う、力感を感じさせる骨太の音でした。特にサファイアの細身で寒色系の音とはかなり違います。本当にピアノの音はスピーカーごとに見事に違ってくるので不思議です。
ちなみにルーツさんから「一体こんなソースどっから探してきたんですか?」と質問されてしまいました。いいのはいいんだけれど、どんなジャンルの人が弾いているのかが見当もつかない演奏、というのがこの曲を聴いた方の大体の反応ですね。
持ち込みの最後はボーカル、ギターとグルーブ感を確かめるべく、フライド・プライドの「Burnin' Up The Carnival」を。シホのハイテンションの歌唱、横田さんの見事なギター、シーラ・Eのパーカッション、手拍子のリズムなど、感激の再生でした。今回のベストだったと思います。やっぱり明るくて溌溂とした音楽に向いているな、と感じました。
TADの方に聴かせていただいたソースでは、大植さんがミネソタ時代にリファレンスレコーディングに録音した「火の鳥」「春の祭典」がよかったです。キース・ジョンソン独特の端正な録音とも相まって見通しもよく、各楽器のバランスも良く再生されていました。グランカッサやティンパニの低音はずんと腹にこたえるほど。
というわけで、アキュ党からTAD党に代わるわけではないけれど、日本のメーカーがこれだけ頑張っているのは嬉しかったです。心配なのはパイオニア100%出資の子会社なんですが親会社がオンキョー・パイオニアとなってしまったこと。今後どうなっていくのかはまだ見通しがつかないそうです。是非残してほしいブランドです。