ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

グラスホッパー

Grasshopper

 元旦はファーストデイ、料金1100円ということでまずは映画に行ってきました。去年見逃して残念なことをしたなあ、と思っていた「グラスホッパー」がまだ神戸国際松竹で一日一回だけですがやっていたので、観てきました。

 いやあ、久しぶりにガツン!と来る邦画に出会えました。今年を振り返るシリーズを書く前に見たかった(笑。浅野忠信が何と言ってもいい、彼本来の凄みを十二分に引き出した演出、お見事でした。そして吉岡秀隆を初めて良いな、と思いました。私の好きな麻生久美子さんにも久しぶりにスクリーンでお会いできて良かったです。しかし、あの山崎ハコさんがあんなメイクで登場するとは、、、(^_^;)。

 原作とはかなりストーリーは乖離していましたが、映画ならではの魅力を引き出した演出と俳優陣の熱演に拍手を送りたいと思います。

『 2015年 日本映画 配給:KADOKAWA、松竹、PG12

スタッフ
監督: 瀧本智行
原作: 伊坂幸太郎
脚本: 青島武
撮影: 阪本善尚
音楽: 稲本響

キャスト
生田斗真浅野忠信、山田涼介、麻生久美子、波瑠、菜々緒村上淳、宇崎竜童、吉岡秀隆石橋蓮司金児憲史佐津川愛美山崎ハコ 他

 人気作家・伊坂幸太郎のベストセラー小説を、生田斗真浅野忠信、山田涼介(Hey! Say! JUMP)の豪華共演で映画化。「犯人に告ぐ」「イキガミ」、生田主演の「脳男」などで知られる瀧本智行監督が、再び生田主演作でメガホンをとった。仕組まれた事故により恋人を失った教師・鈴木は、復讐のため教員としての職を捨て、裏社会の組織に潜入する。しかし、復讐を遂げようとした相手は「押し屋」と呼ばれる殺し屋によって殺されてしまう。押し屋の正体を探ろうとした鈴木だったが、自らの嘘がばれ、組織から追われる身になってしまう。ハロウィンの夜に渋谷のスクランブル交差点で起こった事故をきっかけに、心に闇を抱えた3人の男の運命が交錯していく様を描いた。 (映画.comより) 』

 私は基本的には暴力映画、ヤクザ映画は嫌いなんですが、伊坂幸太郎原作となると話は別。もちろん原作は読んでいます。なにしろ殺し屋がゾロゾロ出てくる話なので当然殺人も暴力シーンも伊坂作品の中でも多いほうだと思いますが、小説として読むと伊坂流のユーモアと韜晦がまぶされて残酷さが巧みに抑制されていました。

 が、実写化となると、やはりすごいものが有りました。ハロウィンの夜の狂騒の渋谷スクランブル交差点で起こる凄惨な事件から始まり、次から次へ起こる事件、殺人、事件、殺人、暴力、殺人、そして。。。
 短いカット割りでテンポ良く話が進むのでグイグイ映画の世界にのめりこんでいけますが、それにしても凄惨なシーンも満載です。PG12は妥当だろうな、と思います。また、原作から改変されている部分も多いので、伊坂ファンには不満もあると思いますが映画として成立させるためには仕方ないところかな、と思います。

 とにかく映画としては緊張感が最後まで持続して最後にどんでん返しが待っているので面白い。表立った殺し屋は「(自殺屋)」「(ナイフ使い)」「槿(あさがお)(押し屋)」だけなんですが、彼らの周りにも暴力をいとわない連中や思いもかけない殺し屋がいたりして、二重三重の伏線が張られています。

 そして何と言っても三人の殺し屋の個性が光っています。父のDVに耐えかねて殺したことをきっかけに人の心を操り絶望させる事ができるようになり殺し屋となった自殺屋、人間狂気のような存在でありながら耳鳴りに悩まされ蜆の吐く泡に心の救いを求める(ただ、原作では耳鳴りがするから蝉というわけではありません)、平凡なサラリーマンにしか見えない押し屋、それぞれの個性が対照的であり、復讐劇という単純なストーリーに見応えのある多様性を付与しています。

 そして演じる俳優も見事でした。次々と依頼された相手を自殺に追い込んでいく凄みと死んだ人間が見え苦悩する内面を見事に演じた浅野忠信、凶器のような若者のふとした瞬間に見せる優しさ人間らしさを上手く演じた山田涼介、平凡な人間が殺し屋というギャップを目で顔の表情で演じて見せた吉岡秀隆、それぞれ見応えがありました。もし「今年を振り返るシリーズ2015」を書く前に見ていたら、表彰が変わっていたかもしれません。

 そして主人公の生田斗真の熱演、詳しくは書けませんが上手く二面性を表現した麻生久美子佐津川愛美、そして悪役ながら惚れ惚れとする圧倒的なボディラインと長い脚はさすがモデル出身の菜々緒癖のある演技はお手のものの村上淳、そして悪役のボスならこの人、安心して監督も任せられる石橋蓮司と、キャスティングもはまっていました。

 そして個性の強い彼らを上手く使いきった監督瀧本智行の手腕、伊坂幸太郎のベストセラーと言う高いハードルをクリアして映画用脚本を書き上げた青島武、殺人シーンや暴力シーンを始め、渋谷のスクランブル交差点の雑踏を見事にカメラに収めた阪本善尚、とスタッフもそれぞれに良い仕事をしています。

  スクランブル交差点で命を落とした婚約者の遺品から失われていた婚約指輪は最後に意外なところから戻ってきます。その意味するところを深読みすればいくらでもできるのですが、このあたり原作とは少々異なっていているので観客の想像に任されます。その点賛否両論があると思いますが、一本の映画として私は好意的に評価したいと思います。

 惜しむらくは押し屋が淡々と語るトノサマバッタの群集相の話が分かりにくいこと。肝心の題名ですから、原作どおりにもう少し詳しく語ってほしかったですが、話の改変がそれを不可能にしてしまったところだけが不満と言えば不満でしょうか。

評価: B: 秀作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)