ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

心が叫びたがってるんだ。

Kokosake

 以前レビューしたあの花こと「劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」のスタッフが再結集した劇場版完全新作オリジナルアニメーション映画第二弾 ココサケこと「心が叫びたがってるんだ。」を観てきました。

 一言、とっても良かったです。ええ歳したおっさんが何のぼせてんだと言われそうですが、言葉に傷つき言葉を上手く伝えられず、それでも何かを掴もうともがいていたあの頃を描くこの作品、芸術としての普遍性とアニメとしての娯楽性を両立させ、確実に人の心を動かす力を持っています。

 アニメだろうが実写だろうがそんなことは関係ない、良いものは良いんだ!と、心が叫びたがってるんだ。

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(シネリーブル神戸にて)

『 2015年 日本映画 A-1ピクチャーズ製作 アニプレックス配給

スタッフ:
原作: 超平和バスターズ
監督 :  長井龍雪
脚本: 岡田麿里
キャラクターデザイン・総作画監督: 田中将賀
音楽:  ミト(クラムボン

声の出演 : 水瀬いのり内山昂輝雨宮天細谷佳正

心の殻に閉じ込めてしまった、誰にも言えない気持ち。
でも、本当は、素直な気持ちを叫びたいんだ。

お喋りを封印されてしまった女の子、順。彼女はとっても元気な女の子だが、子供時代にうっかり話してしまった<ある事>がきっかけで、家族がバラバラになってしまう。
そして突然現れた玉子の妖精に、二度と人を傷つけないようにお喋りを封印されてしまう。
その事件以来トラウマを抱え、目立たないように生きてきた順だったが、ある日「地域ふれない交流会」の実行委員に任命され、なんとミュージカルの主役に抜擢されてしまう…。

(シネリーブルHPより) 』

 あの花と同じく、「言葉」の持つ力と危険性の両面がメインテーマ。前作の超平和バスターズの集団群像の年齢を高校2年生に引き上げ、家庭問題、高校生活、恋愛、そしてクライマックスのミュージカルなどの諸相を、秩父市の美しい街並みを背景に学生たちをうまく溶け込ませて質の高いアニメーション画像を作り上げています。

 まずは冒頭から前半で主人公4人の性格や悩みを巧みに描写します。

 おしゃべりでおしゃまな少女だった自分の一言が家庭に思わぬ波乱を呼び、離婚して出ていく父に心ない一言を投げかけられ、現れた卵妖精の呪いにより言葉を封印されてしまった成瀬順

 自分の中学進学で両親が揉め、それが尾を引いて離婚、両親とも家を出ていき祖父母に育てられ、本音を言わなくなった坂上拓実

 坂上拓実の中学時代の彼女でありながら、クラスでディスられていた拓実を「彼氏じゃない」と言ってしまった事を今も引きずっている優等生仁藤菜月

 超高校級の投手として万年三回戦止まりの高校の期待を一身に背負いながら肘を痛めてしまい、やさぐれてしまった田崎大樹

 この4人を故意かアトランダムな選択かはわからないけれど「地域ふれあい交流会」の委員に選び、ミュージカルをやらせようと画策するクラス担任の音楽教師城嶋一基

 そして周囲の野球部員、チアリーダー部員、DTM同好会などの同級生。

 城嶋のうまい誘導にも乗せられ、順の原作、拓実の作曲でオリジナルのミュージカルをすることになる展開の中に、4人の葛藤をうまく織り込みつつ進行する中盤。大きな波乱はないものの丁寧に描いており諸処にじわっと来るシーンも用意されていて秀逸です。

 そして後半クラス全体がようやく乗り気になりミュージカルの準備に入るあたりから加速がつき始めますが、拓実を好きになっていくと、まだ拓実が好きな菜月、本音を語らない拓実の三人の間に波風が立たないはずがありません。

 ミュージカル当日に失踪する順。果たしてミュージカルは成功するのか?

 アニメのストーリーとしては王道とも正統とも言えるアニメーション草創期から変わらぬ展開ですが、きっちりと練られた脚本と、凝ったエンディングのミュージカルの魅力で最後まで見る者をスクリーンに引きつけて離しません。

 ミュージカル終了後の4人の処理の雑さが少し残念でしたが、クオリティの高い作品ではあったと思います。

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(左:公式パンフレット、右:入場記念プレゼントの映画中のミュージカル「青春の向う脛」のパンフレット)

 ミュージカルを中心軸に据えていますので、音楽も多彩。父の影響でピアノが弾けて、過去のミュージカル映画やクラシックにも造詣が深い拓実がDTM同好会(といっても三人ですが)でウダウダしているという設定も秀逸。

 当然音楽もベートーヴェンの「悲愴」や「虹の彼方に」、「80日間世界一周のテーマ」、「スワニー」、「サマータイム」、「グリーンスリーヴス」、ブルグミュラーの「アラベスク」などなどが次々とミュージカル中のオリジナル曲のモチーフとなり、クラシックや映画音楽ファンには十分楽しめます。

 そしてオーディオファイルもにやりとできるシーンがあります。主人公の男子高校生の今は不在の父の部屋に何とあの名機Diatone DS-V5000が置いてありました!セッティングはひどすぎたけど(w。オーオタがスタッフにいるようですね。

 と言うわけで、高校生が主人公のアニメであるが故に敬遠していてはもったいない。どの年齢層にも是非見ていただきたい傑作です。と言いたいところですが、最後の処理の雑さが残念なので秀作としておきます。

評価: B:秀作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)