ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

東京美術展探訪(3) マグリット展 @ 国立新美術館

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Sky Bird、左:、Postcard、右:Latte'art 2Fカフェにて)

 ルーブル美術館を観終わって二階へ上がり、先ずはカフェで一休み。上記写真のようなラテアートがあったので注文してみました。青い鳩の部分は砂糖でできていました。

 そしていよいよ本命の「マグリット展」へ。Dolonさんご夫妻から「マグリットの説明を全部読んでいると半日かかる」と言われていたので、どんだけ~、とか思っていましたが、なんと131点の展示が!

『 ルネ・マグリット(1898-1967)は、ベルギーの国民的画家であり、20世紀美術を代表する芸術家。言葉やイメージ、時間や重力といった、私たちの思考や行動を規定する“枠”を飛び超えてみせる独特の芸術世界は、その後のアートやデザインにも大きな影響を与え、日本でも高い人気を誇ります。日本におけるマグリットの展覧会は、1970年代以降何度か開かれてきましたが、本格的な回顧展は2002年以来、実に13年ぶりとなります(東京では13年ぶり、京都では44年ぶり)。

 ベルギー王立美術館、マグリット財団の全面的な協力を得て、世界10か国以上から代表作約130点が集まる本展に、どうぞご期待ください。(HPより) 』

 ルネ・マグリット(1898‐1967)は、ベルギーの国民的画家であり、20世紀美術を代表する芸術家で、シュルレアリスムの巨匠。しかし、最近では「だまし絵展」などでその作品を見かける程度で、これだけまとまった数の作品を見る機会は滅多にありません。彼の「イメージの魔術師」としての本分を知るのにはまたとない機会でした。

Magritte

左上:「Threatning Weather」
左中:「Golconda」
左下:「Memory」
右上:「The Lovers」
右中:「The Glass Key」
右下:「The Ready-Made Bouquet」

 会場は5つの章に分けられており、彼のキャリアとその変遷を順番に見ていくことのできる正当な配置となっていました。各章ごとに印象に残った作品を挙げていきます。

第1章:初期作品 / Early Works(1920−1926)

「水浴の女」「心臓の代わりに薔薇を持つ女」

 未来派、抽象、キュビスムなど、当時の新しい芸術動向が次々と反映されていますが、彼独特の画風とはことなりややあっさりとしています。

第2章:シュルレアリスム / Surrealism(1926−1930)

「深淵の花」「恋人たち(絵葉書The Lovers)」「一夜の博物館」「巨人の時代」「呪い」

 ジョルジョ・デ・キリコの作品「愛の歌」(1914)に感銘を受け、シュルレアリスムへと傾倒した時代の作品群。既に明快で濃厚で具象的でリアルな油絵のタッチは完成されてきていました。

 シュルレアリストマックス・エルンストに代表されるようにとても能弁です。マグリットもその例に漏れず、各絵画には難解な、時には詭弁とも思えるような自らの説明があります。

 それに惑わされていると却って絵画としての本質を見抜けないので、あくまでも絵画をじっくりと観察し絵画自体の出来具合を自己評価した上で彼のコメントを参考にする、程度の見方がいいのではないかと思います。

第3章:最初の達成 / The First Accomplishment(1930−1939)

「人間の条件」「永遠の明証」「自由の入口で」   

 現実にはありえない不条理な情景を描き出すことによって、日常的なイメージのなかに隠された詩的な次元を明らかにするという、マグリット独自の芸術が完成された時期です。

 しかし当時はそういった創作だけでは食べていけず商業的な作品美術も手がけていました。

第4章:戦時と戦後 / War and Post-War(1939−1950)

「シェヘラザード」「不思議の国のアリス」「記憶(絵葉書The Memory)」

 マグリットは、直接的に戦争の惨禍を描くことはほとんどありませんでしたが、作風は劇的に変化します。印象派を思わせる、明るく優しい画風の「ルノワールの時代」(1943-47)は、ナチスがもたらす恐怖や暗黒に対するアンチテーゼと言われています。続く「ヴァーシュ(雌牛)の時代」(1947-48)は、けばけばしい色彩と粗野な筆致を特徴としますが、この変化には当惑の眼差しが注がれるばかりでした。

 というわけでマグリットらしくないと言えばらしくない絵画もありましたが、彼らしい筆致で生々しい血を連想させるような「記憶」のような優れた作品もありました。また「シェヘラザード」「不思議の国のアリス」など代表作と言ってよい作品もこの時期に生まれています。また、今回のハイライトの一つと言える「光の帝国II」も1950年に産まれています。

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 この「光の帝国II」は真っ青な青空の下、街灯の灯いた夜の街を描くというだまし絵的でありながらも幻想的な美しい世界が描かれていて目を惹きました。

第5章:回帰 / The Return(1950−1967)

「光の帝国II」「ゴルコンダ(絵葉書のGolconda)」「自然の驚異(絵葉書Threatning Weather)」「夜会服」「傑作あるいは地平線の神秘」「「レディ・メイドの花束(絵葉書The Ready-Made Bouquet)」「「ガラスの鍵(絵葉書The Glass Key)」「再会」「現実の感覚」「白紙委任状」「「空の鳥(冒頭写真)」

 最後の章はマグリットの本領がいよいよ発揮されたキャリアの絶頂期と言えましょう。50代を迎えた彼は、1930年代に確立した様式に回帰し、日常的なモティーフを用いながら、その相互関係をずらしたり反転させたりすることによって、矛盾に満ちた不条理の世界を描出した作品を次々と制作し続けました。有名な岩や雲のモチーフをはじめとして、「空の鳥」や「白紙委任状」などの、だまし絵展にもたびたび出品される作品群はこの時期に作成されています。

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白紙委任状)

 何れも画風や発想は独特ではありますが、しっかりとしたデッサン、リアルな造形、クリアで明快な色使い、絵画としての基礎がしっかりしていてこその面白さなのだ、ということを実物を見て再確認しました。

 というわけで、絵画としての美しさと発想とコメントのユニークさの乖離がもたらす眩暈のような感覚を楽しめる、「シュルレアリスト」にして「イメージの魔術師」のほぼすべてが網羅されたとても充実した企画でした。