4月は水泳などで忙しく、映画に飢えておりました。「セッション」と「バードマン」だけは観たいと思っていたのですが、今日ようやく究極のドラマー学生しごき映画「セッション」を観てきました。トレイラーでもその一端は垣間見えましたが、プロの菊地成孔氏が酷評して映画評論家の町山智浩氏が反撃、ネットで盛大に炎上するという場外乱闘にまで及んで話題になっている映画ですが、まあとにかく凄い映画だったのは間違いありません。
『 原題: Whiplash
2014年 アメリカ映画 配給:ギャガ
スタッフ
監督、脚本: デイミアン・チャゼル
撮影: シャロン・メール
音楽: ジャスティン・ハーウィッツ
キャスト:
マイルズ・テラー、J・K・シモンズ、メリッサ・ブノワ、ポール・ライザー、オースティン・ストウェル、他
2014年・第30回サンダンス映画祭のグランプリ&観客賞受賞を皮切りに世界各国の映画祭で注目を集め、第87回アカデミー賞では助演男優賞ほか計3部門を受賞したオリジナル作品。世界的ジャズドラマーを目指して名門音楽学校に入学したニーマンは、伝説の教師と言われるフレッチャーの指導を受けることに。しかし、常に完璧を求めるフレッチャーは容赦ない罵声を浴びせ、レッスンは次第に狂気に満ちていく。「スパイダーマン」シリーズなどで知られるベテラン俳優のJ・K・シモンズがフレッチャーを怪演し、アカデミー賞ほか数々の映画賞で助演男優賞を受賞。監督は、これまでに「グランドピアノ 狙われた黒鍵」「ラスト・エクソシズム2 悪魔の寵愛」などの脚本を担当し、弱冠28歳で長編監督2作目となる本作を手がけたデイミアン・チャゼル。
(映画.comより)』
冒頭暗闇の中にドラムのスティックがリズムを刻む音が聞こえてきて「Whiplash」という題名が浮かび上がります。
徐々に明転すると、そこがドラムの練習室であることが分かり、二人の主人公が早速対面します。一人はバークリーを髣髴とさせる音楽院一年生の、バディ・リッチに憧れるジャズドラム志望の主人公ニーマン。もう一人は音楽院で一番のジャズバンドを率いる鬼教師フレッチャー。
フレッチャーはニーマンに興味を覚えた風も無くすぐに姿を消しますが、後日いきなり彼の所属する教室に入ってきて、自分のバンドのサブドラマーに採用します。
喜ぶニーマンですが、その喜びも束の間、しごきに次ぐしごき、特訓に次ぐ特訓の日々。文字通り血の滲む努力とフレッチャーの罵詈雑言に耐え抜いて一旦は正ドラマーになれたかに思えたニーマンですが。。。そこからは互いの目まぐるしい反撃合戦で噂の「最後の10分」になだれこみます。
鬼教師曰く、「チャーリー・パーカーが『バード』になれたのは若造の頃にステージで失敗してジョー・ジョーンズにシンバルを投げつけられたからだ、そこでなあなあで『Good Job』と言われていれば彼はバードには絶対なれなかった」
それも一理あるでしょうが、累々たる犠牲者を出しながら一人の天才プレーヤーを作る時代はもう終わったと80年代にすでにW村上(龍、春樹)が言ってたと思います。次に述べるキーセンテンスとなる台詞で出てくるウィントン・マルサリスなどは典型的な秀才タイプでしかも良い教育者です。彼のようなジャズミュージシャンが現在のジャズ界を引っ張っているのです。
それに差別用語やフォーレターワーズを連発するような人間が教師に相応しいとも思えません。
しかしそんな彼にも人間的な一面がある、というシーンがあります。レッスンの前にあるCDを皆に聞かせて曰く
「これは、ある男の演奏だ。入学したものの、リード奏者としてはものにならないといわれていたやつを俺がバンドに入れて鍛えた。彼はウィントン・マルサリスのバンドに採用され第一奏者にまでなった。その彼が今日事故で死んだ。辛く悲しいことだ。」
鬼の目にも涙です。
が、奴はそんなに甘くない。このシーンをしっかり覚えておいてください。
ちなみに原題の「Whiplash」とは映画中の練習曲の名前ですが、鞭打ち=しごきのダブルミーニングでしょう。そのしごきの凄絶さを演じきったJ.K.シモンズがアカデミー助演男優賞に輝いたのはまあこの映画を観れば当然かと思います。
主演のマイルズ・テラーにはおそらくボディ・ダブルのプロドラマーがいるのでしょうけれども、それにしても壮絶な熱演でした。ただ、ドラム以外の演技は今ひとつかな。そして1985年生まれの若き才能、デイミアン・チャゼルに拍手。
最後の演奏は泣く子も黙るジャズスタンダードの名曲デューク・エリントンの「Caravan」、じっくり堪能してください。
評価: C: 佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)