ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

高村薫:「21世紀の空海」 終了す

Takamurakuukai

 神戸新聞連載の高村薫21世紀の空海」が第24回「終着点(下)」をもって本日終了しました。最終回は「空海」とい密教体系を築いた天才的僧侶がいかにして「弘法大師という民間信仰の対象へと変質して行ったが総括されています。難解な連載でしたが、高村薫独特の語り口の本日の文章を読んですっと腑に落ちる感覚がありました。

空海の入定後、百年を経ずして東寺が空海その人の肖像を祀り始めたとき、あるいは(中略)入定留身説が作られたとき、僧空海の残像は消滅したと言えるだろう。そして、入れ替わりに弘法大師という霊験あらたかな超人の伝説が現れ、民衆の間に広がってゆくのだが、その過程は空海の築いた真言密教の体系が一握りの学侶の専有となり、現世利益と儀礼の陰に隠れてゆく過程と軌を一にする。」...

「最後に、仏教史において比類のない密教の体系を一人で築き上げ、一人でそれを体現した上に、入定後は弘法大師に姿を変えて1200年生き続けているのは、間違いなく人間離れした存在だと断言したいと思う。筆者は今、弘法大師空海がやがてほんとうに神格になる日が来ると想像している。」

 これだけ濃い「空海」についての文章を読んだのは司馬遼太郎先生の「空海の風景」以来ではないかと思います。 

 開創1200年、世界遺産となり世界中から注目されている高野山。海外の仏教徒からみれば異常なまでに変質している日本独特の仏教や「弘法大師」伝説を説明しても、「それが仏教なのか?」という本質的な質問が返ってくるだけではないでしょうか。
   そんな時必要なのは当時最先端の「密教」をほぼ完全な形で日本に輸入し、体系化した天才僧侶「空海」についての正しい知識だと思います。本として出版されれば是非ご一読ください。