ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

「志村ふくみー源泉をたどる」展@アサヒビール大山崎山荘美術館

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(painted in #Waterlogue ASAHI Beer Villa Museum of Art )

 今日は家内と娘と三人で車を飛ばして、天王山にあるアサヒビール大山崎山荘美術館で催されている紬織の人間国宝志村ふくみさん(90)の歩みを振り返る企画展を観てきました。 

  一度噂に高い美術館の建物を見学したかったこと、家内が志村ふくみさんの紬いだ着物などを是非見たいと思っていたこと、現在神戸新聞に連載されている原田マハさんの「リーチ先生」の主要登場人物であるバーナード・リーチ富本憲吉等の陶芸作品などがみられること、常設展示のモネヴラマンククレーなどの作品が見られること、さまざまな思惑が全て一致して、半日の家族旅行と相成りました。

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大山崎山荘入り口の娘と家内)

 大山崎山荘は大正から昭和初期に実業家・加賀正太郎が別荘として自ら設計した英国風の山荘です。加賀正太郎は現在放映中のNHKドラマ「マッサン」のニッカウヰスキーの創業にも参画し、晩年に同社の株を深い親交のあったアサヒビール初代社長・山本爲三郎に託しました。その縁でその後加賀家の手を離れた山荘をアサヒビール株式会社が京都府大山崎町と協力して復元整備、1996年春に「アサヒビール大山崎山荘美術館」として蘇らせました。

 かの有名な天王山中腹に位置する絶好のロケーションにある山荘は、英国のスチューダー・ゴシック風の上棟を持ち、その建物自体が芸術品でした。中は重厚な木造建築で、階段にあるステンドグラスがとても綺麗でしたが、残念ながら撮影禁止でした。

 新しくコンクリート打ちっぱなし(と言えば安藤忠雄氏設計)の「地中館」が併設されていますがここはモネの睡蓮などの常設展示室となっています。今日はモネの「睡蓮」が3点と「アイリス」が1点、その他にはクレーの「大聖堂(東洋風の)」、ヴラマンクの「花瓶の花」、ルドンの「女の顔」、シャガールの「春の恋人たち」が展示されていました。どれも興味深かったですが、滅多に見ることのできない「黒の画家」と言われたオディロン・ルドンの作品を見られたのは収穫でした。

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( 神戸新聞平成27年2月5日記事 )

 さて、前置きが長くなってしまいましたが、今回の本命である志村ふくみさんの展示です。志村ふくみさんはおん歳90歳、染織の世界で独自の道を開拓した紬織の人間国宝でいらっしゃいます。その歩みを振り返ると言うことで志村さんの着物や帯の名品はもちろん、志村さんの師匠で創作のルーツとも言える「草木染復興の先駆者」青田五良(ごろう)氏の今まで知られることのなかった仕事にも光が当てられていました。

『  人間国宝・志村ふくみ氏は、染織の分野で独自の道を開拓し、90歳となった今なお第一線で活躍しています。草木の自然染料で糸を染め、手機で色彩豊かに織りあげた作品の数々は、私たちを魅了してやみません。志村氏が本格的に染織の道に入った1955年からちょうど60年目を数える2015年、長い創作の歩みを振り返りそのルーツをたどります。
 1941年、志村氏は母の小野豊から初めて機織を習ったことが発端となって織の世界へ導かれます。小野は、思想家・柳宗悦のすすめで、染織家・青田五良から指導を受けていました。とりわけ、青田から教えられた天然の植物染料による発色の美しさは、小野をとおし娘である志村氏に伝わり、素晴らしい成果が生み出されることとなります。
 本展では、志村氏の原点となった1950年代後半の初期作品から初公開となる最新作まで、創作の60年をご紹介いたします。また、青田、小野の貴重な染織作品をご覧いただくとともに、志村氏の活動の出発を後押しし支えた、木漆工芸家・黒田辰秋、陶芸家・富本憲吉らの名品も同時に公開し、志村ふくみ氏の魅力とその源泉に迫ります (公式HPより) 』

 志村さんのモットーは「いのちを頂いて色にする」、ですから使われていた染料は全て自然染料、藍やクチナシ、紅花、蘇芳、茜、紫根など、その原料や染糸も展示されていました。そしてそれらを用いて織られた着物は

「 ほっとするような温かみのある優しい色合いで一度は着てみたい (家内談) 」

と思わせるような素晴らしいものでした。私が印象に残ったのは「源氏物語」を題材にした「明石」の青、昨年と言いますから89歳にして驚くほど繊細でモダンな作品「フローラ」など。織物の難しいことは私には分からないのですが、家内は驚くほどの手間がかかっている、と申しておりました。

 その他、帯などのデザインにはスクエアに区切られた色の配置がまるで先日「チューリヒ美術館展 」で見たモンドリアンを思わせるものもありました。それもそのはず、志村さんは今なおクラシック音楽やジャズ、文学はもちろんのこと、クレーカンディンスキーらの抽象画にも興味をもたれているそうです(神戸新聞より)。

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(拙宅にある幅30cmの機織機)

 その志村さんを直接教えたのは母・小野豊さんですが、その母を指導したのが青田五良氏でした。青田氏の作品も今回展示されており、家内は椅子の下に敷いてあった裂織(さきり)の敷物が素晴らしい、あんなのが作りたい、と申しておりました。

 さてその青田氏は柳宗悦氏らが提唱した民芸運動にかかわり、「上賀茂民芸協団」を設立、安易な化学染料でなく植物染料による技法を研究し草木染復興に尽力されました。

 その縁で今回は柳宗悦バーナード・リーチ富本憲吉河井寛次郎濱田庄司らの陶芸作品が展示されており、丁度今新聞連載が、リーチ先生と富本憲吉が陶芸にのめり込み自らの窯を造るところにさしかかっていますので、とても興味深かったです。富本氏の作品はさすがと唸らせるものでしたし、リーチ先生の絵は意外に純朴でシンプル。また漢字を意匠にしているところなども面白かったです。

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( 美術館より三川(木津、宇治、桂)と対岸を望む )

 最後に喫茶室で一服しましたが、テラスより望む眺望が素晴らしかったです。そしてそのテラスにリーチ先生と富本先生作のタイル画が飾ってあり、入って得したな、と思いました。

 というわけで、なかなか充実した半日旅行でした。