ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

繕い裁つ人

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  全面的に我が地元神戸を中心とする阪神間でロケされた映画「繕い裁つ人」を観てきました。
 池辺葵さんの原作漫画はどちらかというと静かにさらさらとストーリーが流れ、あまり波乱もないままに主人公の市江さんと藤井君が結ばれるということもなく終わってしまいましたし、三島有紀子監督は原田知世さん主演の「しあわせのパン」を撮った人ですが、あの映画も静かなほのぼの系映画でしたから、一体どんなストーリーになるのかちょっと心配していました。

 大体予想通り、ゆるめのほのぼの系映画でしたが洋裁を扱っているだけに、静かでありながら華やかなところもある映画でした。神戸ロケ満載で、神戸どうぶつ王国(旧花鳥園)での夜会、旧グッゲンハイム邸での結婚式はよかったです。

『 2015年 日本映画、配給:ギャガ

スタッフ;
監督: 三島有紀子
原作: 池辺葵
脚本: 林民夫
製作: 横澤良雄、水口昌彦
衣装デザイン: 伊藤佐智子

キャスト
中谷美紀三浦貴大片桐はいり黒木華杉咲花余貴美子中尾ミエ、他

中谷美紀の主演で、町の仕立て屋と常連客たちとの織りなす日々を描いた池谷葵の同名人気コミックを実写映画化。神戸の街を見渡す坂の上にある仕立て屋「南洋裁店」。初代の祖母から店を継いだ2代目店主・市江が手がけるオーダーメイドの洋服は大人気だが、昔ながらの職人スタイルを貫く手作りのため、量産はできない。市江はデパートからのブランド化の依頼にも興味を示さず、祖母が常連のために作った服を直し、たまに新しい服を作るという日々に満足していたが……。共演に三浦貴大片桐はいり杉咲花中尾ミエ伊武雅刀余貴美子ら。監督は「ぶどうのなみだ」「しあわせのパン」の三島有紀子

(映画.com より)』

 ほぼ原作通り、祖母から洋裁店を受け継いだ市江さんは近所でも評判の腕の立つ仕立て屋さんです。初代の志乃さんが偉大だっただけに、頑なにそのスタイル、やり方を貫き、仕立て直しと生活のために志乃さんデザインの服を少数作成してナイーフという店に卸し売りする以外の仕事は引き受けません。

 一方神戸大丸に勤めている藤井君は、市江さんの仕事にほれ込み、なんとかブランド化したいと足繁く南洋裁店に顔を出しますが、「頑固爺」のような市江さんににべもなく断られ続けています。

 「本当は自分のデザインする服を作りたいんじゃないですか、一歩踏み出すのが怖いんじゃないですか?」

と迫ってみても、内心はどうあれ、市江さんは動じません。藤井君も市江さんの仕事と周囲の熱い信頼、夜会での集まった人たちの幸せな笑顔を見るうちに、自分が間違っているのでは、と思い始めます。 

 このあたりの演出は淡々と進みますので物足りない方もあるかと思います。ただ、市江さんの仕事場とその仕事風景は丁寧に撮ってあり、それだけでも見ごたえがありますし、川西市旧平賀邸を使った洋裁店のセットは見ものの一つです。原田知世さん主演の「さよならCOLOR」を始め数多くの映画やNHKの「あまちゃん」など数多くの映画やドラマの衣装を手がけてこられた伊藤佐智子さんが手がけた衣装デザインも素晴らしい。志乃さんのデザインブックもおそらく彼女の絵だと思いますが、男の私でも見ていてワクワクしました。

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 それ以外にも神戸の風景がいっぱい出てくるのでジモティには楽しめますし、藤井君が市江さんのお母さんが毎回出すお団子を本当は嫌いなのにお付き合するところ、市江さんがいろいろ言われてフラストレーションがたまると喫茶店に行ってホールのでかいチーズケーキをパクパク食べるシーンなどはユーモラスで楽しめます。

 そして何といっても見ものは夜会。我々には花鳥園の方が名前のなじみが深いですが、ポートアイランドにある神戸どうぶつ王国のフラワーフォレストを使用した華やかでいてシックな舞踏会、室内楽の演奏は出色の演出でした。

 旧グッゲンハイム邸は撮りようによってはもっと幻想的に撮れるのにと思わないでもなかったですが、まあ狭いところですからあれくらいが限界なのかもしれません。ここで藤井君の妹(黒木華)の結婚式が行われるのですが、この妹さんが下半身不随で車椅子という設定。
 原作でも妹さんは出てきますがそのような設定ではありません。洋服にまつわる取ってつけたようなエピソードがあるだけで、恋人に関しては何の説明もなしのいきなり結婚式。シーンとしてはよかったですが、商売柄実際に下半身不随の方の結婚生活の苦労を知っているものとしては、ちょっと安易だなあと思わずにはいられませんでした。

 まあそれはともかく、市江さんが初めて自らデザインしたウェディングドレスを着た妹からブーケトスの替わりの風船を渡された藤井君。二人の運命やいかに?......それは観てのお楽しみです。

 中谷美紀さんは相変わらず所作が綺麗ですし、仕事着のカラーのあるブルーの服を着た凛とした姿はとてもよかったです。漫画の市江さんよりカッコよすぎますが、まあそれは映画。
 逆に痩身のイケメンであるはずの藤井君を演じるのは三浦貴大君。すっかり実力派の中堅俳優になりましたが、ちょっとイメージが違うかな。でも誠実で奥手なところは合っていたかもしれません。藤井君の妹を演じていた黒木華さんはやっぱり可愛いですね。

 周りを固める余貴美子片桐はいり中尾ミエ伊武雅刀等はもう安心してみていられますが、演技し過ぎない程度に抑えた演出はよかったと思います。残念だったのは志乃さんが出てこなかったこと。宮本信子さんあたりにやってほしかったかな、と思います。

 というわけで、飛びぬけて凄い映画というわけではないのですが、洋裁に疎い私でも楽しめた佳作だと思います。

評価: C: 佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)