今日は家内と神戸市立博物館 で催されている「チューリヒ美術館展」にでかけてきました。今年は日本とスイスの国交樹立150年だそうで、神戸市立博物館で「チューリヒ美術館展」が、兵庫県立美術館で「ホドラー展」が現在開催されています。で、まずチューリヒ美術館展に。
チューリヒ美術館は国公立ではなく、ヨーロッパでも最も古いチューリヒ芸術協会により経営されているそうです。そのコレクションは素晴らしく、滅多に見ることのできない画家セガンティーニ、ホドラーやココシュカの絵は面白かったですし、印象派からシュールレアリスムまでの代表的芸術家の絵画彫刻のコレクションも良質で、代表作といっていいものばかり。驚くほど充実していたので気に入ったポストカードを全部買うと目録が買えてしまうので、目録を買ってしまいました。
ちなみに下記に掲載する絵は全て目録を撮ったものです。
残念だったのはスイスの国民的画家と言われるアンカーの作品がなかったこと。大ファンである家内も残念がっていました。
目玉作品は黒柳徹子さんがTVで宣伝されていた、2ⅹ6Mあるモネの「睡蓮の池、夕暮れ」でした。さすがに有無を言わせぬ圧倒的迫力。妻子を相次いで亡くし、おまけに画家の命である目も白内障で衰え、気力を失っていたモネがクレマンソーの励ましでたどり着いた世界はまるで抽象画のようですが、モネはおそらくそういうつもりではなかったでしょう。もはや睡蓮とは分からない、ただ色彩と光がそこにある。モネの真髄。
(Salvador Dali: Woman with Head of Roses, Oil on Panel, 1935)
個人的にはカンディンスキー、アウグスト・ジャコメッティ、モンドリアン、クレー、キリコ、エルンスト、マグリット、ダリ、タンギーあたりのアブストラクト~シュルレアリスムの絵画が充実たことが嬉しかったです。
特にダリの作品「バラの頭の女」にはシュルレアリスムを脱した、ある種のロマンチシズムを感じ、彼にこのような作品があったことに驚きました。
『スイスが誇る美の殿堂チューリヒ美術館のコレクションを、日本で初めてまとめて紹介します。出品されるのは幅6メートルにおよぶモネの大作やシャガールの代表作6点に加え、ホドラーやクレーといったスイスを代表する作家の珠玉の絵画、さらにはマティス、ピカソ、ミロといった20世紀美術の巨匠の作品など、これまでなかなか来日の実現しなかった印象派からシュルレアリスムまでの傑作70点以上。スケッチや習作がほとんどない、まさに「すべてが代表作」といえるラインアップです。
世界的な金融都市でもあるチューリヒの富と、スイスの人々の美への慧眼を象徴するようなチューリヒ美術館展は、日本とスイスの国交樹立150年を記念する展覧会でもあります。
(公式HPより) 』
では、展示順にいくつか気に入った作品を紹介します。
I: セガンティーニ
( Giovanni Segantini: Vanity、Oil on Canvas, 1897)
セガンティーニはイタリア出身でスイス・アルプスの風景を描いた作家だそうで、チューリヒ美術館は屈指のコレクションを誇るそうです。幻想的な作風でこの「虚栄」ではスイスアルプスを遠景に裸婦と悪徳の象徴であるドラゴンが描かれていて印象的でした。
II: ホドラー
ホドラーについては「ホドラー展」を観にいく予定ですのでここでは割愛します。
III: モネ
クロード・モネについては何の説明も要りませんね。超大作の睡蓮の他にも「積み藁」「国会議事堂、日没」などの得意としたモチーフが展示されていました。
( Auguste Rodin: Matyr, Bronze, 1885 )
このコーナーには他にもドガの「競馬」、ロダンの彫刻なども展示されています。
IV: ポスト印象派
( Vincent van Gogh: Hopllyhocks, Oil on Canvas, 1886 )
ゴッホは「サント=マリーの白い小屋」が大々的に宣伝されていますが、この「タチアオイ」も大作です。まだ具象的で赤と緑のコントラストが見事な作品でした。
セザンヌは定番中の定番「サント=ヴィクトワール山」が展示されていました。いかにもセザンヌ、としか言いようのない作品です。
(Henri Rousseau: Portrait of Mr. X(Pierre Loti)
素朴派ルソーの作品は彼らしいポートレイト。Mr.Xはピエール・ロティであると言うのが定説ですが、エドモン・フランクというフランスのジャーナリストであるという説もあるそうです。
V: ナビ派
最近ナビ派を目にすることも多くなりました。今回はボナール、ヴァロットンの二人の6点が展示されていました。
( Pieere Bonnard: Black or Woman with Dog, Oil on Cardboard, 1907 )
ボナールのパートナーマルトと愛犬ブラックを描いた微笑ましい一枚。ナビ派の中でもとりわけ私的な空間を大切にしたボナールならではです。
ヴァロットンでは「日没、ヴィレルヴィル」の海辺の光景が印象に残りました。
VI: ムンク
ムンクの作品が4枚。「造船所」がいかにもムンクらしい輪郭の太い作風で良かったです。
VII: 表現主義
( Ernst Ludwig Barlach: The Fugitive, Wood, 1920 )
キルヒナー、ベックマンの作品と並んで飾られていた、ドイツを代表する表現主義彫刻家バルラハの彫刻「難民」が目を惹きました。斜めに傾いた木彫に描かれる戦乱を逃れる二人の人間。根源的な人間の哀しみを見る思いがしました。
( Max Beckman: Actresses, Oil on Canvas, 1946 )
ベックマンの作品ではこの「女優たち」が目を引きました。平然と本を読む女と顔を隠す女が並列で描かれた面白い構図です。
VIII: ココシュカ
( Oskar Kokoschka: Portrait of Adele Astaire, Oil on Canvas, 1926 )
オーストリア人作家ココシュカの作品の蒐集もこの美術館ならではだそうです。紹介されることの稀な画家ですから、初めて見る作品ばかりでした、精神を病んだ時期もあったようでそれが表に出ているような作品もありました。そうでなくても従来の技法から脱した大胆な筆致が特徴であったようで、この作品もデッサンがおかしいんじゃないかと思うほど大胆な表現をしていますね。ちなみにフレッド・アステアの姉であったアデル・アステアがモデルだそうです。
IX: フォービズムとキュビズム
( Pablo Picasso: Big Nude, Oil on Canvas, 1964 )
いよいよ好みの範疇に。 マティス、ヴラマンク、ブラック、ピカソと美味しいところがずらり。マティスの「バルビゾン」やヴラマンクの「シャトーの船遊び」、そしてやっぱりピカソ。「大きな裸婦」はさすが。
X: シャガール
(Marc Chagall: Above Vitebsk, Oil on Canvas, 1922 )
シャガールも6点。いずれも代表的なモチーフばかりで充実しておりました。
XI: 抽象絵画
( Auguste Giacometti: Chromatic Fantasy, Oil on Canvas, 1914 )
一際充実していたのはこのアブストラクトとクレー、シュルレアリスム。アブストラクトではカンディンスキーやモンドリアンに混じって、この金箔まで使ったきらびやかな色彩の作品が目を惹きました。あとで展示されている彫刻家アルベルトと兄弟のアウグスト・ジャコメッティの「色彩のファンタジー」という作品です。
( Piet Mondrian: Composition of Red, Blue and Yellow, Oil on Canvas, 1930 )
いかにもなモンドリアンの作品。黒の枠が全体を引き締めています。
XII: ジャコメッティ
( Alberto Giacometti: Spoon Woman, Bronze, 1926/7 )
彫刻家ジャコメッティが一コーナーを占めています。5つのブロンズ像と親交のあった伊内原伊作の肖像画が一点。独特の細長い人物造型に混じってこの作品、その名も「スプーン型の女」、まさにその通り。
XIII: クレー
( Paul Klee: Super-Chess, Oil on Canvas, 1937 )
( ( Paul Klee: Puppets, Oil on Canvas, 1930 )
私の大好きなクレーの蒐集も充実、4点が展示されています。「スーパーチェス」「深淵の道化師」「操り人形」「狩人の機のもとで」すべて傑作、文句無し。
XIV: シュルレアリスム
( Max Ernst: The Whole City, Oil on Canvas, 1935/6 )
( Rene Magritte: The Sixteenth of September, Oil on Canvas, 1956 )
もう素晴らしい作品ばかりでため息が出ます。キリコ、マグリット、エルンスト、ミロ、タンギー、そして上に挙げたダリ。エルンストの描く丸い月は証明に照らされて光っていましたし、マグリットの大木の前に描かれた三日月も素晴らしい。
最後はミロのその名も「絵画」で締めましょう。
( Joan Milo: Painting, Oil on Canvas, 1925 )
長文のお付き合いありがとうございました。次はホドラー展、ちょっとまだ予定が立たないのですが是非行きたいと思っています。