ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

サンバ

Samba

 新年一番の映画はなんにしようかなあ、と考えたらやっぱりホッコリする映画がいいよなあ、と思って選んだのが「サンバ」。

 レダノ+ナカシュの脚本・監督コンビが「最強の二人」で好演を見せた黒人俳優オマール・シーを再び起用した作品です。そのことからしても予告編を観てもコメディタッチだろうと思ったのですが、「最強の二人」が実話に基づいた物語だったのにどこか絵空事ぽかったのとは逆に、こちらはオリジナル脚本でありながらフランスが抱える社会問題をリアルに描いています。タッチは確かにコメディっぽいですが、予想外ににシビアなストーリーで正月から厳しい現実社会を考えさせられる羽目になりました(苦笑。

 

『 2014年 フランス映画  配給:ギャガ、原題: Samba 

監督:エリック・トレダノ オリビエ・ナカシュ

キャスト:
オマール・シー 、シャルロット・ゲンズブール、タハール・ラヒム、イジア・イジュラン他

日本でもミニシアターを中心に大ヒットを記録したフランス映画「最強のふたり」のエリック・トレダノオリビエ・ナカシュ監督と主演のオマール・シーが再タッグを組み、国外退去を命じられた移民の青年が、その状況下でも笑顔やユーモアで人々を明るくしていく姿を描いたドラマ。料理人になることを目指し、アフリカからフランスへやってきた青年サンバは、ビザの更新手続きをうっかり忘れたことから、国外退去を命じられてしまう。拘束されたサンバに対して手を差し伸べた移民協力ボランティアの女性アリスは、どんな時も笑顔を忘れないサンバに興味を抱き、彼のために尽力する。サンバの不思議な魅力にひかれ、陽気なブラジル移民や破天荒な学生など、さまざまな人が周囲に集まってくるが、ある日、サンバの身の上に思いがけない出来事が起こり……。サンバを助ける女性アリスにシャルロット・ゲンズブール。』

 冒頭シーンからしてフランス社会のヒエラルキーを象徴的に描いています。ビートの効いた音楽に合わせて踊っているフランス人たち、ホテルでの結婚披露宴と分かります。その中心にカメラが寄っていくと新婚夫婦のケーキカット。そのケーキはすぐホテルの正装したスタッフキッチンに運ばれていき、厨房が映し出されます。慌しく働く厨房のスタッフが映し出され、その動線が奥にいくに連れ単純作業となり、最後は黒人ばかりの皿洗い場。そこでサンバオマール・シー)が働いています。

 最底辺の労働者、と言ってしまえばそれまでですが、それでも職があるだけまだまし。故郷のセネガルへも多少の送金ができていました。が、ビザが切れていることをうっかり忘れていて、国外退去命令が。。。

 何とかのがれたいともがけばもがくほど泥沼にはまってしまい、身動きの取れなくなってしまうサンバ。気のいい移民仲間の自称ブラジル人、ウィルソンタハール・ラヒム)も実はわけありで正体を隠しています。そんなこんなで移民社会の現実があからさまに描かれていきますが、一方の支援協会で担当してくれる白人女性アリス(シャルロット・ゲンズブール)だってブラック企業に15年間勤めて「燃え尽き症候群」で不眠症、病気休暇中。

 フランスと言えば日本人憧れの国の一つですが、現実はかくも厳しい。

 脚本自体はよく練られていて、ストーリーは面白いですし、主人公が犯したふとした過ちが大変な事態を引き起こす伏線もよく考えられています。前回に引き続き陽気な黒人を演じるオマール・シー、殆どノーメークに近い素顔を晒して燃え尽き症候群の女性を熱演するシャルロット・ゲンズブールセルジュ・ゲンズブールジェーン・バーキンのお嬢さんですが、良い俳優になりましたね)、わけありの偽ブラジル人を演じるタハール・ラヒムを始めとする俳優陣の演技も見事。
 ピアノを主体とした静かなマイナー調のBGMや、時にはさまれるスティーヴィー・ワンダーの「To Know Is To love You」やボブ・マーレーの「Waiting In Vain」も良いスパイスとなっています。

 でも、ラストがどうかなあ、と。公開中ですので詳細は避けますが、半分以上自らの責任で人が一人死んでいるのに、あのハッピーエンド的な二人の姿はどうなんだろう?と考え込んでしまいました。
 きれいごとは言ってられない社会だと言われればそれまでのなのですが、観る者の心にしこりを残すラストでした。

 評価: B: 秀作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)