ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

天才スピヴェット(2D)

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 一風変わった名作「アメリ」を撮った監督ジャン=ピエール・ジュネの新作が「天才スピヴェット」です。彼が初めて3Dを採用したことで話題になっていますが、私はもう3Dは飽きたし目も疲れるので2Dで十分。というわけでいつものごとく、シネ・リーブルで観てきました。

 感想を一言で言うと

「まあまあ面白かったし、それなりのメッセージ性も感じたけれど、予告編のほうが良かったかな」

ってとこでした。そう言えば今日の予告編も魅力的でしたね。私の大好きなキーラ・ナイトレイの主演作であったり、ビル・エヴァンスと共演したことで知られるスウェーデンジャズ・シンガーモニカ・ゼタールンドの映画であったり、「最強の二人」のオマール・シーの新作であったり、女性戦場カメラマンの葛藤を描く映画であったり、どれも見たいですねえ。

『 2013年、フランス・カナダ合作、 配給:ギャガ

原題:L'extravagant voyage du jeune et prodigieux T.S. Spivet

監督、脚本、製作総指揮:ジャン=ピエール・ジュネ
原作:ライフ・ラーセン

キャスト:カイル・キャトレット、ヘレナ・ボナム・カーター、ジュディ・デイビス、カラム・キース・レニー、ニーアム・ウィルソン 他

アメリ」のジャン=ピエール・ジュネ監督が自身初の3D映画として、ラルフ・ラーセンの冒険小説「T・S・スピヴェット君 傑作集」(早川書房刊)を映画化。気持ちがバラバラになってしまった家族を元に戻そうと奮闘する、天才少年の葛藤や成長を描いた。米モンタナに暮らす10歳の少年スピヴェットは、天才的な頭脳の持ち主。しかし、時代遅れなカウボーイの父と昆虫の研究に夢中な母、アイドルになりたい姉という家族に、その才能を理解してもらえない。さらに弟が突然死んでしまったことで、家族は皆、心にぽっかりと穴が開いていた。そんなある日、スミソニアン学術協会から権威ある科学賞がスピヴェットに授与されることになる。家族に内緒で家出をし、数々の困難を乗り越えて授賞式に出席したスピヴェットは、受賞スピーチである重大な真実を明かそうとするが……。

(映画.comより)』

  舞台は長閑で風光明媚なモンタナ。主人公は若干10歳の少年T.S.スピヴェット。彼は科学に関しては天才的な頭脳を有していますが、一方で旅の準備などの手順が上手くできなかったり、ノートの色によって内容を区別し絶対に妥協しないなど、ちょっと変わった面もあります。このあたり、サヴァン症候群を思い浮かべてしまいますが、そのことには触れられていません。

 まあこのあたりは昆虫の研究に没頭するあまり夫と不仲になったり、触ると必ずトースターが燃えて壊れたりする、という母親の遺伝という設定なんででしょう。

 そして彼には二卵性双生児の弟レイトンがいますが、性格はまるで異なっていて彼は完全なアウトドア派。これは生粋の西部男、というか、異常なまでの西部劇マニアの父の遺伝が明らか。でもこの双子はとても仲がよく、いつも一緒に遊んでいます。

 家族はもう一人姉がいますが、彼女はアイドルになることしか頭に無い。とは言え、この両極端な二人ずつに囲まれてただ一人緩衝材的役割をになっています。

 このあたりの家族5人のクロストークと視線の相関図が途中で出てきますが映画のホームページにもありますので是非ご覧ください、一見の価値ありです。

 というわけで、それなりに幸せに見えた家族に悲劇が襲います。レイトンが父親に与えられた銃の暴発で亡くなってしまい、音波の研究のためその場にいたT.S.は大変なショックを受けてしまいます。

 そんな折りも折り、不可能といわれる永久機関(正しくは磁気が消失するまでの400年間動き続ける)を開発してしまい、スミソニアン学術協会から最優秀発明賞受賞の連絡が入ります。スミソニアンの担当者は、まさか10歳の少年とは最初は気づきもしませんがそのあたりのどたばたはまあ見てのお楽しみ。

 とにもかくにもそんな家庭事情で自分の研究なんか全く興味のない家族を説得できるとはとても思えず悩むT.S.君。彼はついに一大決心をして一人でモンタナからワシントンDCを目指します。
 で、いかにもハリウッドらしい偶然と協力者と理解者とT.S.君の知恵で着いてしまうのですね。このあたりの旅路の情景は荒唐無稽ではあるものの、この映画一番の魅力であることは確かです。3Dでもこの部分に力を入れているようです。

 そして授賞式での故レイトン君に関する感動的なスピーチ。これでハッピーエンドかと思いきや、ジャン=ピエール・ジュネはそれほど甘くありません。彼を利用しようとする大人たちのどたばた劇を辛辣に描きます。

 でも最後は家庭の再生というハッピーエンドを用意しています。このあたり甘いといえば甘いですが、商業映画としてはまあこんなものでしょう。

 ジャン=ピエール・ジュネ監督が描きたかったのは、10歳の子供に平気で銃を与えるアメリカ合衆国という国への強烈な反感、子供だろうがなんだろうが利用できるものは何でも利用して自分の保身と出世を図る大人の醜さ、ついでに視聴率のためならなんでもするアメリカマスコミへの皮肉、そしてまだなお残る市井の人々のチョットばかりの良心とアメリカ風の心意気、あたりなんだろうと思います。

 わかるのはわかるんですが、あまり感動が無いのは、平凡で抑揚の少ない脚本に一因があるように思いました。

 俳優陣にもそれほどインパクトがありません。唯一、スミソニアン博物館次長で野心の塊みたいな女性役を演じたジュディ・デイヴィスくらいですかね。そういえば恥ずかしながら、母親役が、拙ブログで絶賛し続けている個性派女優へレナ・ボナムカーターだと、最後のクレジットまで気がつきませんでした。まあそれ位地味なメイクで地味に演じていたということです。

 それにしてもそのヘレナが壊し続けるトースター。天才T.S.スピヴェット君なら壊れないトースターを作ってあげられそうなものですが、そういうことには関心のないのがやっぱりサヴァン

 というわけで期待したほどではありませんが、まあまあ面白いジャン=ピエール・ジュネロードムービーでした。

評価: C: 佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)