ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

紙の月

Kaminotuki

 

 10年に一度の傑作映画「八日目の蝉」の原作者角田光代。彼女の原作で又新たな傑作が生まれました。

 その原作とは「紙の月」。以前拙ブログでレビューした際に触れましたが、この作品は原田知世様主演でドラマ化されNHKで放映されました。原田知世ファンの私から見てもとてもよくできたドラマでしたから、映画化は必然だったと思います。

 事前情報では、主演が宮沢りえ。悔しいけれど原田知世ができない領域に踏み込んだ演技ができる人です。このキャスティングには納得せざるを得ませんでした。監督は近年の邦画の中でも傑出していた「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八。おまけに私の地元神戸市でのロケ。原作とはかなりストーリーは改変されていると聞き及んでもいましたが、それでも観ない訳にはいかないでしょう。

 というわけで封切り早々観てまいりました。う~ん、参りました。

  宮沢りえ!惚れてまうやろ~!!!(古


 冗談はさておき、もうその演技、素晴らしすぎて言葉もでません。いや、演技という次元を超えています。それは何も美しさや性愛表現だけではなく、全ての表現力において深みを増しており、映画館の大スクリーンのアップに耐える真の「主演女優」だけが持つオーラを全編を通じて放ち続けていました。

 実は書いてしまうのがもったいなさ過ぎてどこにもレビューせず、DVDを買って置いてある宮沢りえの作品が一本あります。ここにもう一本、また宝物の映画ができました。

 ラストに流れる曲はヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコの「ファム・ファタール」、日本映画界においての「運命の女」は今確実に宮沢りえです。

『2014年 日本映画 配給:松竹

スタッフ
監督; 吉田大八
原作: 角田光代
脚本: 早船歌江子

キャスト: 宮沢りえ池松壮亮大島優子田辺誠一近藤芳正 他

「八日目の蝉」や直木賞受賞作「対岸の彼女」など多数の作品で人気を誇る作家・角田光代のベストセラーで、テレビドラマ化もされた「紙の月」を、「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八監督が映画化。宮沢りえが7年ぶりに映画主演を務め、年下の恋人のため顧客の金を横領してしまう銀行員の女性を演じた。バブル崩壊直後の1994年。夫と2人で暮らす主婦・梅澤梨花は、銀行の契約社員として外回りの仕事に従事し、その丁寧な仕事ぶりで周囲にも評価されていた。一見すると何不自由ない生活を送っているように見えた梨花だが、自分への関心が薄い夫との関係にむなしさを感じていた。そんなある日、年下の大学生・光太と出会った梨花は、光太と過ごすうちに顧客の預金に手をつけてしまう。最初は1万円を借りただけのつもりだったが、次第にその行為はエスカレートしていき……。2014年・第27回東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、最優秀女優賞と観客賞を受賞した。 

映画.comより』

 TVドラマではタイに逃げた梅澤梨香のシーンで始まりましたが、映画はキリスト教系の女学校の生徒の聖歌のコーラスが流れる中、少女時代の梅澤梨花が、教室に一人残り、募金先の子供からの手紙と写真を前に一万円札を5枚並べるシーンから始まります。

 その写真には左頬にケロイドの跡がある少年の顔が映っています。最後にその伏線は回収されますが、まあそれは置いておきましょう。

 原作では梅澤梨香以外の四人のサイドストーリーがあり、TVドラマでは膨らみすぎるので三人に絞っていました。映画にするにはそれでも多すぎるだろうとは思っていましたが、見事にばっさりと全て削り取られました。
 唯一「今時の」不倫もすれば上司の不正にも手を貸し、最後にはちゃっかり実家へ帰って結婚しちゃう同僚が、買い物中毒の女性役を思い出させる程度でした。この女性を演じた大島優子はなかなか良かったです。

 閑話休題、学生時代の募金に端を発する、原作にあった

「そうして梨花は、ようやく、自分の身に起きたすべてのことがらが、(中略)、自分を作り上げたのだと理解する。私は私の中の一部なのではなく何も知らないこどものころから、信じられない不正を平然とくりかえしていたときまで、善も悪も矛盾も理不尽もすべてひっくるめて私という全体なのだと、梨花は理解する。」

というテーマに絞って深化させた早船歌江子の脚本は上手かったと思います。

 そしてそのために用意した新たなキャラクター、勤続25年、仕事のために「徹夜したことが無い」くらいのプロ意識を持ち、かえって煙たがられているベテラン銀行員。それを演じるのがこれも演技力に定評のある小林聡美。彼女も実に上手かった。

 最後は宮沢りえ小林聡美の演技対決に収斂していくのですが、監督吉田大八の見事なまでの演出にこれまた脱帽です。

 詳細は避けますが、追い詰められた宮沢りえが椅子で銀行の壁のガラスを叩き割るシーン。続いて小林聡美

「あなたも一緒に行きますか?」

と尋ねる時の鬼気迫る表情。最後の最後に逆転をくらい呆然とする小林聡美

 今年見た邦画の中でも傑出した演出と演技でした。

 また、音楽も聖歌ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコの「ファム・ファタール」の対比が見事でした。映画のHPには「ファム・ファタール」と特別映像がありますので、興味のある方はぜひどうぞ。

 一方でちょっと残念だったのは、深みにはまる相手の池松壮亮に「もうここから出してください」と言わせなかったこと、夫の田辺誠一との心のすれ違いの描き方がドラマよりあっさりしていたこと、タイロケが付け足し程度であったこと。
 

 最後に一言。当然宮沢りえのヌードシーンは出てきますが、男性ファンが期待するほどの露出はありません。

 というわけで、本年の邦画の中でも傑出した一本でしょう。傑作です。

評価: A: 傑作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)