ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

デュフィ展@あべのハルカス美術館

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( 「電気の精」、1952-3、一筆箋のカバー、以下写真はすべてクリックで拡大できます)

 連休最後の17日に大阪日帰りツアーに出かけてきました。目的は3つです。

1:  デュフィ展あべのハルカス美術館

2:  こども展大阪市立美術館 

3:  落語家と行くなにわ探検クルーズ

 家内と3に行こうという話になり、予約の電話を入れてみると16時しか空いてないとのこと、それなら以前から見たいと思っていた二つの美術展を先に行こうということになりました。  

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 デュフィは以前から見たいなあと切望していたのですが、なかなかあべのまで行く機会がなく、今回はクルーズツアーのついでということで、まさに「渡りに船」でした。(ちなみに9月28日までです)。
 と同時に、初めてのあべのハルカスでもあったのですが、いやあ混んでました、凄い人気ですね。

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 あべのハルカス美術館は、そのあべのハルカス16階ワンフロア全体を占めており、前に展望テラスもあって明るくてとても素敵です。

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(「regates」, 絵葉書)

 さて、待望のラウル・デュフィの作品群です。なかなかまとめて見る機会がなかったのですが、今回は存分に堪能することができました。
 彼の作品は単純化された線と原色の大胆な色使いで単純に見ていて楽しい、という印象がありましたが、後半はまさにそのような絵画のオンパレード。特に南仏の風景や、オーケストラや音楽家へのオマージュ、一筆描きのような花の絵などは期待通りでした。

 一方でアポリネールの詩集への挿絵やテキスタイル、椅子などの室内装飾などなどいろいろな方面で活躍されていたことには驚きました。

 順序が逆になりましたが、簡単にHPを参考におさらいしておきますと、 ラウル・デュフィ(1877-1953)は、ピカソマティスなどとともに20世紀前半にフランスで活躍した画家です。1937年に開催されたパリ万国博覧会のための装飾壁「電気の精(冒頭写真)」に代表されるような、明るい色彩と軽快な筆さばきで描く独自のスタイルを築きました。

 本展は、デュフィが1899年に故郷のル・アーヴルから国立美術学校で学ぶためにパリに出てきたころから晩年に至るまでの作品を紹介する回顧展で、20世紀初めのパリでフォーヴィスムキュビスムによって造形の革新を試みる動向のただなかに身を置きつつ、また様々な分野を横断しながら自らの独創的表現の探求を続けたデュフィの歩みを辿っています。

 購入した絵葉書を参考に簡単にその足跡をたどってみましょう。

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(「マルティーグ」 oil on canvas,1903、絵葉書)

 繰り返しになりますがデュフィと言えば単純化された線と大胆な面の色彩を思い浮かべますが、勿論初期にはこのようなきっちりとした風景画も描いています。ただ、ゴッホのタッチを思わせる空の表現や、波に途切れる水面の風景の描写などに当時のポスト印象主義の様々な要素が取り入れられているように思われました。

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アポリネールの「動物詩集」より「ラクダ」、木版画、1911、絵葉書)

 さて、デュフィは1907年から1911年までの4年間、木版画の制作に力を注ぎました。.たとえばギヨーム・アポリネール動物詩集あるいはオルフェウスのお供たち』の挿絵のために、登場人物であるオルフェウスや動物を描いた40点もの木版画を制作しましたが、今回はそのうち32点も展示されていました。

 このラクもなかなかユニークな意匠ですね。このような、言わば隠し絵のような意匠の動物画が多数ならんでいてなかなか面白かったです。

 また、デュフィの絵画の特徴である、輪郭と色彩のずれは、木版画の着色の際に線とずれてしまうことが往々にしてあるところから着想したのだそうです。その意味でもこの時期の木版画作成は彼の基礎を築いた時期だったと思われます。

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(「チャーリー・チャップリン」、グアッシュ、レリーフプリント、紙、 絵葉書)

 デュフィはまた、1909年ファッション・デザイナーのポール・ポワレとの出会いによりファッションの世界にも積極的にかかわるようになります。今回、テキスタイルのデザイン画や実際に使われたドレスの写真などが展示されていました。写真はチャップリンをデザインの中に上手く組み込んでありますね。

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(「馬に乗ったケスラー一家」 oil on canvas、1932, 絵葉書)

 1920-30年代は彼の画風がほぼ確立されていく時代です、水彩、油彩、グアッシュ等々の作品にいかにもデュフィ、という作品が増えていきます。

 その中でもこの絵は代表作の一つ。石油会社の創業者ジャン・バティスト=オウグスト・ケスラーの注文による、家族の集合肖像画デュフィの作品に特徴的な澄んだ青色の背景には、木々が装飾的に描かれ、画面を活気づけています。高さ約2m、幅約2.7mのこの大作は、圧倒する存在感を放ちます。ちなみに解説によると博覧会用に描かれ展示された作品をケスラーは気に入らず拒否したため、新たに描き直した作品だそうです。

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(「ニースの窓辺」 oil on canvas,1928、絵葉書)

 デュフィと言えば南仏の風景ですが、これはその中でもとても好きな特に一枚です。両側の窓からニースの海辺の風景が見え、中央の鏡には室内が写っていて構図的にも素晴らしい。自由なデッサンと大胆な色使いで楽しく見ていられる一枚です。以前にも一度見ているのですが、見飽きることがありませんでした。

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(「オーケストラ」 oil on board, 1942、絵葉書)

 デュフィの晩年は多発関節炎に悩まされたそうで、究極まで単純化された対象の輪郭にはそのような事情もあったようですが、それを自分の個性に昇華させたところがデュフィの真骨頂でしょう。特に花の水彩画などにはその自由な画風が溢れていて素晴らしかったです。

 そしてもう一つの大きなテーマが「音楽」。教会で音楽を教えていた父、ピアノ教師やフルート奏者の兄弟といった、音楽愛好家の家族の中で育ったラウル・デュフィは、音楽をこよなく愛し、好きな作曲家へのオマージュを表したり、オーケストラの演奏者をコンサートホールの空間の中でダイナミックに描くなど、デュフィの作品の多くは音楽をテーマにしています。今回そのような作品をたくさん見ることができました。

 ちなみに彼の描くオケの指揮者は親交のあったシャルル・ミュンシュだったそうです。この「オーケストラ」の指揮者もおそらくはミンシュでしょうね。

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(「クロード・ドビュッシーへのオマージュ」 oil on canvas, 1952、絵葉書)

 音楽家へのオマージュ作品はバッハ、モーツァルトドビュッシーなどがありどれも素晴らしかったですが、とくにこのドビュッシーへのオマージュは素晴らしかったです。

 一見何でもないような絵に見えますが、青、黄、緑、青のグラデーションが美しい色彩、ピアノと花と絵のある単純でいて見飽きない部屋の構図、いずれも魅力的で、いつまでも見ていたい魅力に溢れていました。

 実はグッズ・ショップにこれの版画が売っていてかなりそそられたんですが68000円というプライス・タグに泣く泣くあきらめました。

 というわけで、期待通りのデュフィ、知らなかったデュフィ、様々な作品群を楽しめ、よりデュフィが好きになれた素晴らしい展覧会でした。あべのハルカス美術館も見ることができたし、とても満足して次の「こども展」に向かいました。