ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

ブルージャスミン

Bluejasmine

 

 メリル・ストリーブの後を継ぐ演技派俳優はこの人だろうと言われているのがケイト・ブランシェット。そのケイトが見事オスカーを射止めた「ブルージャスミン」が公開されたので早速シネ・リーブル神戸で観てきました。
 もう何回もリーブルでトレイラーを見ていたせいか既視感ありまくりでしたが、ウッディ・アレンらしい最後のひねりに唸らされてしまいました。

『 2013年 アメリカ映画  配給:ロングライド 、原題:Blue Jasmine

スタッフ:
監督、脚本: ウッディ・アレン

キャスト:
ケイト・ブランシェットサリー・ホーキンス、アレック・ボールド、ピーター・サースガード、ルイス・C・K et al

 ウッディ・アレン監督が初タッグとなるケイト・ブランシェットを主演に、上流階級から転落したヒロインが再起をかけて奮闘し、苦悩する姿を描いたドラマ。ニューヨークの資産家ハルと結婚し、セレブリティとして裕福な生活を送っていたジャスミンは、ハルとの結婚生活が破綻したことで地位も資産も全て失ってしまう。サンフランシスコで庶民的な生活を送る妹ジンジャーのもとに身を寄せたものの、不慣れな仕事や生活に神経を擦り減らせ、次第に精神が不安定になっていく。それでも再び華やかな世界へと返り咲こうと躍起になるジャスミンだったが……。第86回アカデミー賞でブランシェットが主演女優賞を受賞。共演にアレック・ボールドウィンサリー・ホーキンスピーター・サースガードら。

(映画.comより) 』

 実を言うとウッディ・アレンの作品はあまりにも彼の才覚が勝ちすぎたり、ユダヤ人としての(コンプレックスとまでは行かないまでも)意識が強すぎたりする面があって、あまり好きではありません。
 今回も「Blue Jasmine」という一見とても美しい題名にこめられた皮肉や、同じ青のついたジャズ・スタンダード曲「Blue Moon」をテーマ曲としてチョイスする、あまりのセンスの良さがかえって鼻につく気がしていました。

 じゃあなぜ観に行ったんだ、と言われると辛いのですが、実は手厳しい映画批評で知られる前田有一氏が

「 最近のウディアレンの映画というと、皮肉の効いた大人向けラブコメまたは器用なミステリ、といったイメージが強い。毎年1本ずつ発表し続けているが、たしかに上手いとはおもうが正直、ぬるめの作品続きで欲求不満なファンも多かったのではないか。

(中略) さて、そんなアレン作品だがこの「ブルージャスミン」は違った。こんなに強烈な才気が78歳のアレンに残されていたとは、うれしい驚きである。本作は、近年のウディ・アレンコメディに欲求不満だった人、そもそもアレン映画とはそういうものだと思いこんでいる人に是非見てほしい、切れ味鋭い人間ドラマの傑作である。 」

絶賛(なんと90点!)していたから、ケイト・ブランシェットの演技を楽しむついでに本当かどうか確かめてみよう、と思ったわけです。あと、家内との待ち合わせに丁度いい98分と言う上映時間だったから(^_^;)。

 さてさて、ケイト演じるセレブから無一文に転落したジャスミン。そのジャスミンと言う名前にしても本名のジャネットでは平凡すぎるからという理由で改名したもの。
 想像通り、無一文で妹(と言っても里子同士)に転がり込んでも気位だけは高く、平気で嘘をベラベラしゃべり続け、ブルーカラー層を馬鹿にするかと思えば、パニック障害で呼吸苦になるわ、安定剤をひっきりなしにほおばるわ、アルコール中毒だわ、もうこんな女とだけは付き合いたくないと思わせる嫌な女。再びセレブ妻に返り咲くためにつかまりそうになる政治家志望の金持ちがかわいそう、とさえ思えるほど。

 それにしても演じるケイト・ブランシェットの上手いこと。長台詞のこなし方はもちろんのこと、セレブ時代のブロンドの美女から段々と落ちぶれて病的になっていく間のやつれ方、特に顔の変化。もちろんメイクの妙もありますが、それ以上に表情の表現力が凄い。そして媚び方、八つ当たりの仕方、そして絶望の果ての独り言をしゃべり続ける虚ろな眼。

 彼女のインタビューを読むと

「最初にアレンから声がかかったときは、この役をどう演じたらいいかわからず途方にくれてしまった」

と語っていますが、ウディがケイトを苛め抜こうとして逆に簡単に返り討ちにあってしまった、という感さえします。こんな平凡そうな映画で?、と訝っていましたがオスカーも納得の演技でした。

 さて、そんなジャスミンが抱えている心の病の真の原因。それがラスト近くで明らかになり、何故、妹や実の息子をはじめ周囲の人間が覚めた目線で彼女を見ていたのかが、明らかとなります。ウッディ・アレンお得意のヒネリが、今回は残酷なまでに見事な切れ味を見せました。

 そして彼女が度々口にする、亡き夫との出会いの曲「Blue Moon」。名コンビRogers and Hartの名曲ですが、歌詞を調べると最後の一節はハッピーエンドとなっています。

Blue Moon now I'm no longer alone
    Without a dream in my heart
    Without a love of my own

これが何とも言えず、悲しいですね。ウッディ・アレンの音楽の使い方はいつもながら、鼻につくほど見事です(笑。

 以上、題名のセンスの良さだけで見にいくと痛い目にあってしまいますので、ご注意を。というわけで決して万人にお勧めできる映画ではありませんが、ウッディ・アレンのファン、ケイト・ブランシェットのファンにはたまらない映画だと思います。

評価: C: 佳作
((A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)