( Monet: The Cliff at Aval, Etretat, Sunset 1883, Oil on Canvas )
「テルマエ・ロマエ II」を観たあと、すぐそばにある兵庫県立美術館 まで足を伸ばして、現在開催中の「夢見るフランス絵画」展を観てきました。印象派もフランス絵画もいい加減見飽きた、なんて普段から嘯いてますが、結局観にいっちゃうんですよね。
今回も有名な画家の作品がほとんどで、「代表作」ばかりではないにしても「代表的な作風」の作品ばかりで安心して鑑賞できました。中にははっとするような素晴らしい初見の作品もありました。
『 ある収集家によるフランス近代絵画のコレクションから名品71点をご紹介します。 モネ、セザンヌ、シスレーといった印象派の画家の描く美しい大地の眺め、ルノワールの描く豪奢な室内とそこでくつろぐ人物、モディリアーニ、キスリング、藤田嗣治などエコール・ド・パリの画家たちの哀歓に満ちた女性たち、ヴラマンク、ユトリロらの描く孤独な路上の風景、ルオーの絵に見る人生の重さ、シャガールの画面から強くたちのぼる人生の喜びなど、このコレクションには、今なおわたしたちがフランスに抱く夢と憧れがつまっています。
これらの作品は、さまざまな「豊かさ」でもってわたしたちを魅了する一方、描かれたものの背後にある、見えない、そして言葉にしがたい「感情」にも、わたしたちを出会わせてくれることでしょう。どうぞ、春一番の風とともに、お楽しみください。(公式HPより)』
( Renoir: Gabrielle with Jewels, Oil on Canvas c1908-10 , Postcard )
それにしても「ある収集家」とは誰なんでしょう?今回の展示だけでも全71点、それもフランス絵画歴史上燦然と輝く有名な画家ばかり。そして先ほども述べたように代表的な作風の傑作ばかり。
モネの積み藁や睡蓮、ルノワールの裸婦、セザンヌ独特の風景画、ブラマンクの傑作「赤い屋根の風景」や花瓶、小磯良平にも影響を与えたデュフィの南仏の風景、ユトリロの白の時代の街、ローランサン独特のパステル調の女性像、キスリングの花などなど、信じられないくらいの贅沢な蒐集ぶり。
また、この収集家は花瓶の花が好きだったらしく、多くの花瓶の花を描いた絵画が飾られていました。そのような中でも、ひときわ目を惹いたのが(今回の展示の中では)あまり有名でないアンドレ・ドランの「花瓶の花」。一際素晴らしい作品でした。厚塗りの花の美しさと、背景の沈み込むような黒の対比が見事でした。県立美術館お得意のメール絵や絵葉書になっていないのがとても残念でした。
閑話休題、その71点は三部に分けて展示は構成されていました。順番に印象に残った作品をあげてみます。
第一章: 印象派とその周囲の画家たち
( Cezanne: Large Pine and Red Earth(Belluvue) c1885 Oin on Canvas )
やっぱりフランス絵画といえば印象派。ちなみに原田マハの「ジヴェルニーの食卓」などを読んでいかれると、より楽しむことができます。
ポール・セザンヌ(Paul Cézanne)1839-1906
「大きな松と赤い大地」 文句なし、これぞセザンヌという傑作
アルフレッド・シスレー(Alfred Sisley)1839-1899
「四月の森」 シスレーの風景画好きなんですよね、これ一点でも観にきてよかった。
クロード・モネ(Claude Monet)1840-1926
「睡蓮のある池」 晩年のモネの執念を感じる睡蓮連作。いったい何枚の睡蓮を見続けてきたかわかりませんが、やはりマチエールの力感が桁違いに凄い。
(Monet: Water Lily Pond, Oil on Canvas 1919 )
ピエール=オーギュスト・ルノワール(Pierre-Auguste Renoir)1941-1919
「タンホイザーの舞台(第一幕)、(第三幕)」 ルノアールといえば以前紹介した映画「陽だまりの裸婦」に描かれているようになんと言っても裸婦像ですが、今回はこのタンホイザーの舞台を主題に描かれた二作が目を惹きました。
ピエール・ボナール(Pierre Bonnard)1867-1947
アルベール・マルケ(Albert Marquet)1875-1947
「ナポリ湾」 印象派というよりはフォーブ風の画家ですが、ヴェズヴィオ火山を遠景に見るナポリ湾の風景にはそのフォービズムの萌芽が見て取れるようでした。
第二章: 革新的で伝統的な画家たち
ジョルジュ・ルオー(Georges-Henri Rouault)1871-1958
「ピエロ」 ルオーもフォービズムに属する画家とされていますが、本人は流派など無視し孤高の道を選んだ人でした。ピエロ像もルオーらしい太いタッチと暗い色彩で独特のオーラを放っていました。
モーリス・ド・ヴラマンク(Maurice de Vlaminck)1876-1958
「ルイ・フィリップ様式の花瓶」
「雪の道」
「赤い屋根のある風景」
「踏み切りのある風景」
この収集家はことのほかヴラマンクがお好きなようだったようで、彼の作品だけで10点もありました。「赤い屋根の風景」に見られるような独特の陰鬱な枯れ枝の描き方がいかにもヴラマンク、という感じです。
ラウル・デュフィ(Raoul Dufy)1877-1953
「ニースのホテルの室内」 南仏といえばマティスとともにこの人を思い浮かべます。この絵もなんということは無いニースのホテルの室内とバルコニーから見える海を描いているだけなんですがさすが「色彩の魔術師」といわれただけのことはあるデュフィならではの色使いです。
アンドレ・ドラン(André Derain)1880-1954
「花瓶の花」 上にも述べたように今回最も魅入られた作品。この作品のためにもう一度出かけてもいいかな、と思っています。
第三章: エコール・ド・パリの画家たち
( Utrillo: Monmartre Neighborhood in the Snow, Oill on Canvas, c1943, Postcard)
モーリス・ユトリロ(Maurice Utrillo)1883-1955
「アミアンの大聖堂」 謎の収集家さん、ユトリロもお好きだったようで11点もありました。独特の白の色使いと几帳面な長方形の線で構成された代表的な作品が多く展示されていましたが、この大聖堂の絵はことのほか微細に丁寧に描きこまれており、彼の信仰心の厚さも垣間見る思いでした。
( Modigliani: Young Woman with Rose, Oil on Canvas, 1916 )
アメデオ・モディリアーニ(Amedeo Modigliani)1884-1920
「バラをつけた若い夫人」 モディリアーニといえば「モンパルナスの灯」のジェラール・フィリップを思い出してしまいますが、バラをつけた若い夫人も儚げな印象を与えます。アヌーク・エーメ演じる恋人ではないと思うのですが、何となくあの映画を思い出していました。
( Laurencin: Girl with Flowers, Oil on Canvas, Postcard)
マリー・ローランサン(Marie Laurencin)1883-1956
「花を持つ乙女」
「花と乙女たち」
ローランサンといえばパステル調の色彩とお人形のような女性像、周囲を彩る花々。そのイメージそのままの作品群でした。
( Fujita: Girl, Oil on Canvas, 1955, Postcard)
藤田嗣治(Léonard (Tuguharu) Foujita)1886-1968
「北那覇」
「人魚」
「少女」
ムッシュ・レオナール・藤田の作品群は、今回の展示の中でも一際異彩を放っていました。特に「人魚」の言いようの無い美しさと不気味さの共存は鳥肌物。好き嫌いのはっきり分かれる作品ではないかと思います。うえの「少女」も一種独特の不気味さが漂っていました。ちょっと驚いたのは「北那覇」。藤田にしては普通の風景画なのですが、フランス絵画で沖縄の風景に出会えるとは思いませんでした。
マルク・シャガール(Marc Chagall)1887-1985
キスリング(KISLING)1891-1953
「百合」
「魚のある生物」
「若い女性」
( Kisling: Lillies, Oil on Canvas,1947 )
掉尾を飾るのはキスリング。エコール・ド・パリの代表的な画家で、モディリアーニやユトリロとは異なり、幸福で長い創作生活を送った画家だけにその作風は時代によってさまざまに変遷しています。
今回も7点の作品が展示されていました。「百合」のような鮮やかな色彩の作品もあれば、「魚のある静物」のように皿に盛られた沢山の魚のてかり・ぬめりをありのままに描ききった静物画もあり、更には下に掲載する「若い女性」のように肌の質感とアーモンドのような目がキスリング独特の雰囲気を醸し出す肖像画もあり、十分に彼の作品を楽しめました。
( Kisling: Girl, Oil on Canvas, 1939, Postcard )
6月1日まで開催されていますので、ご紹介した画家に興味のある方は気軽に出かけてみてください。