先日佐藤泰志の原作を紹介した映画「そこのみにて光輝く」が昨日公開されましたので、早速観てきました。池脇千鶴の演技に期待しておりましたが、彼女のみならず綾野剛、菅田将暉の三人が期待以上の熱演を見せてくれたのですが、原作がかなり改変されており、落としどころに(原作を読んだ人からは)賛否両論ありそうな映画となっていました。
『 2014年 日本映画 配給:東京テアトル R15+
スタッフ
監督: 呉美保
企画: 菅原和博
製作: 永田守、菅原和博
原作: 佐藤泰志
脚本: 高田亮
芥川賞候補に幾度も名を連ねながら受賞がかなわず、41歳で自ら命を絶った不遇の作家・佐藤泰志の唯一の長編小説を、綾野剛の主演で映画化。「オカンの嫁入り」の呉美保監督がメガホンをとり、愛を捨てた男と愛を諦めた女の出会いを描く。仕事を辞めブラブラと過ごしていた佐藤達夫は、粗暴だが人懐こい青年・大城拓児とパチンコ屋で知り合う。ついて来るよう案内された先には、取り残されたように存在する一軒のバラックで、寝たきりの父、その世話に追われる母、水商売で一家を支える千夏がいた。世間からさげすまれたその場所で、ひとり光輝く千夏に達夫はひかれていく。しかしそんな時、事件が起こり ……。
(映画.comより) 』
冒頭、安アパートでパンツ一丁で眠りこける綾野剛演じる達夫を、足元からなめまわすようにカメラが這い上がっていきます。綾野剛ファンにはたまらないでしょうが、男の私としては、いささか暑苦しさを感じる立ち上がりでした。
そこから序盤~中盤が長い長い。菅田将暉演じる拓児は溌剌としていて、彼の出てくるシーンは見飽きないんですが、達夫と池脇千鶴演じる千夏が暗い上に二人の恋愛がイライラするほど進展しないので、いったいこの話はどうなるんだ?とフラストレーションが募ってしまいます。
後半になってようやく達夫と千夏の心が通じ合い、二人の見せるラブシーンもなかなかのものです。。。が、
原作からストーリーがかなり改変されているので、先が見えないまま終盤へ突入し、そう来るかよ、というちょっと安易な展開へ。原作では達夫が耐えに耐えて千夏を手に入れるのですが、ネタバレしない程度に説明しますと、拓児の血気が先走ってしまいます。
原作では拓児は絶妙な狂言回し役に徹しているのですが、この映画では前面に立ってしまい、達夫と千夏の恋愛が半歩引いたところに下がってしまった感が否めません。
おまけに、これは原作でも出てきて千夏一家を悩ませる、脳梗塞でぼけて寝たきりになってしまったにもかかわらず性欲が異常亢進してしまった父親がうっとうしい位執拗に描かれます。
というわけで、落としどころがつかめないまま、拓児も千夏も瀬戸際まで追い込まれ、達夫が辛うじて最悪の結末は回避させるのですが、そこで唐突に話が終わってしまいます。
エンディングテーマはなかなか良い演奏であったと思いますが、だからといって良い余韻が残ったかというと、ちょっと難しいところですね。
とりあえず出演陣は主役三人をはじめ、高橋和也、火野正平、伊佐山ひろ子等々、良い演技を見せてくれたと思います。
特に目立ったのは仮釈放中の血気盛んだけど人懐こい若者を演じる菅田将暉。TVドラマ「泣くな、はらちゃん」での麻生久美子のバカ弟役が印象に残っていますが、今回は確実にステップアップしていました。
ヌードが話題になっている池脇千鶴ですが、「ジョゼと虎と魚たち」で10年前にもう脱いでますからね、その辺の度胸は据わったものでした。売春で一家を養う30前の女という設定の、絶妙に崩れかけた裸をさらしての演技はさすがだな、と思いました。
惜しむらくは、これらキャストの熱演を上手くまとめ切れなかった監督呉美保の演出・編集と高田亮の脚本。特に綾野剛が暗すぎて、映画が寒色系一色に染められてしまいました。函館という街ももう少し原作の意図を汲んだ雰囲気を取り入れてほしかったと思います。
ということで、原作を先に読まなかったほうが良かったかもしれませんが、評価はイマイチでした。
評価: D: イマイチ
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)