ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

エヴァの告白

Immigrant
 もう今年も早3月ですね。2日は午後から朝日会館で某講習会があったので、午前は同会館の地下にあるシネ・リーブル神戸で今年初めての洋画を見てきました。

 以前トレイラーで見てとても気になっていた「エヴァの告白」です。私の好きなマリオン・コティヤールが主演、ホアキン・フェニックスジェレミー・レナーといった名優が共演しているとなれば見ない手はありません。
 HPを見ますと、なんとジェームズ・グレイ監督が

マリオンの放つ美に圧倒されたグレイ監督が、彼女のために書き下ろした

作品だそうです。

 その期待通りにマリオン・コティヤールは全編を通して冷たい炎を発し続け、その炎に焼き尽くされるかのようにホアキン・フェニックスジェレミー・レナーが破滅していく様は圧巻でした。

 そしてそれにもまして見事だったのがカメラワークと映像美。特にラストシーンの完璧なフレームワークは深い余韻を観るものに与えます。私はその見事さに圧倒されてしばらく身じろぎもできずエンドロールを眺めていました。

 というわけでその後の午後のお勉強は虚脱状態でした(笑。

『  原題: The Immigrant
2013年 アメリカ・フランス合作  配給: ギャガ

監督: ジェームズ・グレイ
脚本: ジェームズ・グレイリチャード・メネロ

キャスト:マリオン・コティヤールホアキン・フェニックスジェレミー・レナー、アンジェラ・サラフィアン

マリオン・コティヤールホアキン・フェニックスジェレミー・レナーの豪華共演で、希望を抱いて新天地アメリカへと渡った女性が過酷な運命に翻弄され、それでも生きるためにある罪を犯してしまう姿を描いた人間ドラマ。監督は、「リトル・オデッサ」「裏切り者」のジェームズ・グレイ1921年、戦火を逃れてポーランドからアメリカへと移住してきたエヴァは、病気の妹が入国審査で隔離されてしまい、自身も理不尽な理由で入国を拒否される。強制送還されそうになったエヴァは、彼女の美しさに見惚れたブルーノという男に助けられるが、ブルーノは移民の娘たちを働かせ、売春を斡旋する仕事を生業としていた。厳格なカトリック教徒から売春婦へと身を落としたエヴァは、彼女に思いを寄せるマジシャンのオーランドに救いを求めるがそれもかなわず、やがてある罪を犯す。
(映画.comより) 』

 カメラワークの見事さは冒頭から堪能できます。原題の「The Immigrant」(移民)というタイトルロールが終わった後、すぐに大写しになるのがニューヨークのシンボルである「自由の女神」。その大写しからカメラが引いていくと、画面右隅に黒い影が出てきます。さらに引いていくとそれが船上の人影であることがわかります。見事なカメラワークで、いやがうえにも物語への期待が高まります。

 そして1920年禁酒法時代のニューヨークの映像は落胆した主人公の目を通してみた街の色なのでしょうか、寒色系で描かれ、時にはセピア風にさえ彩度を落として荒涼感を醸し出しています。米仏共同制作ということですが私の好みの欧州映画の印象の強い映像でした。

 さて、マリオン・コティヤール演じる主人公エヴァは妹マグダとともに戦火のポーランドを逃れてニューヨークにたどり着くのですが、結核を患っていたマグダはエリス島の病院へ強制収用されてしまい、自身は理不尽な理由(これは終盤に明らかになります)で強制送還を命じられます。そこを賄賂を使って助けてくれるのがホアキン・フェニックス演じるブルーノという男。純粋の好意からのはずもなく、エヴァはこの男の下で身を売る踊り子として働かされることになります。
 冒頭の自由の女神像はこの姉妹にとっての憧れの新天地の象徴であったわけですが、エヴァが踊り子として着せられる衣装がなんとこの自由の女神を模したもの。この自由と娼婦という皮肉なダブルミーニングは見事な演出だったと思います。

 さて、そこへ割り込んでくるのがブルーノの幼馴染のいとこで今は犬猿の仲のドサ回り手品師のオーランド。エリス島での慰問興行の際にエヴァがこのオーランドからもらった一輪の白いバラが次のシーンでは薄汚れて枯れています。
 たった二ヶ月の間にエヴァが移民してきたばかりの敬虔なカトリック教徒から、完全に娼婦に身を持ち崩した事を端的に示していて見事な演出です。

 そして物語はこのエヴァを娼婦として働かせながら惚れてしまったブルーノと、一目惚れしてしまったオーランドとの間の軋轢、エヴァの戸惑いを丁寧に描いていきます。

 このあたりのエヴァの二人の男の間で揺れ動く心理、堕ちていく女のやるせなさを動作や表情の一つ一つで表現してみせる、「エディット・ピアフ 愛の賛歌」で息を呑むような見事な演技を見せてオスカーを獲得し、いまや欧州を代表する女優となったマリオン・コティヤール

 そしてブルーノ役の、故リバー・フェニックスを兄に持ち、最近ではジェームズ・グレイ監督との連作で信頼も厚く、いまや堂々たる風格を持つ名優となったホアキン・フェニックス

 さらにオーランド役の「ハート・ロッカー 」で迫真の演技を見せたジェレミー・レナー

 この3人の丁々発止の火花が散るような演技対決は見ごたえ十分でした。

  マリオン・コティヤールのための映画と言い切ったジェームズ・グレイ監督が彼女の真骨頂を発揮させるべく用意していたのは、教会での懺悔のシーンでした。懺悔を聞いた神父から

「その男(ブルーノ)と別れれば魂は救済される」

と告げられたエヴァ

「私は地獄に落ちます」

と泣き声で神父に告げる台詞の哀れさ見事さ。それを盗み聞きしていたブルーノは彼女を自由にして妹マグダをエリス島から助け出してやる決意を固めますが、それも当然だろうというほど説得力のあるシーンでした。

 ところがここにまたオーランドが絡んできて事態は最悪の方向へ向かいます。警官に追われボコボコにされたブルーノは最後の力を振り絞り、エヴァとエリス島へ渡りついにマグダと引き合わせることに成功します。

 そして冒頭に述べた見事なラストシーン。エヴァとブルーノが隠れていたエリス島の病院の物置の壁をカメラは捉えますが、そのフレームの左半分には小窓があり、そこから船で島を離れる姉妹が見えます。そして右半分には古びた姿見の鏡があり、その鏡に映るブルーノの後姿の痛々しさ。そこには姉妹とブルーノの行く末が暗示されていて心の奥底から感動がこみ上げてきました。

 というわけで最後のほのかな明かりが見えるものの全体を通しては暗い映画ではあるのですが、とにかく一見の価値のある映画です。洋画、特に欧州映画のファンにはぜひ観ていただきたいですね。

評価: A: 傑作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)