ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

さよなら渓谷

Sayonarakeikoku
 HAT神戸の109シネマズでキネ旬ベスト10特集をやっており、休日の今日は8位真木よう子が主演女優賞を獲得した「さよなら渓谷」を観てきました。徹頭徹尾暗くて重くて救いのない映画でしたが、真木よう子の主演女優賞は納得の演技でした。

 ちなみにキネ旬2013年第87回ベスト10は下記の通りです。ペコロスは近日上映予定で原田貴和子、知世姉妹が出ておられるので是非観たいと思っております。

1位: ペコロスの母に会いに行く
2位: 舟を編む
3位: 凶悪
4位; かぐや姫の物語
5位: 共喰い
6位: そして父になる
7位: 風立ちぬ
8位: さよなら渓谷
9位: もらとりあむタマ子
10位: フラッシュバックメモリーズ 3D

『 2013年 日本映画、 配給:ファントム・フィルム  R15+

監督: 大森立嗣
プロデューサー: 森重晃
原作: 吉田修一
脚本: 大森立嗣
撮影: 大塚亮

キャスト
真木よう子大西信満鈴木杏井浦新新井浩文 他

真木よう子が「ベロニカは死ぬことにした」以来7年ぶりに単独主演を飾り、吉田修一の同名小説を映画化した人間ドラマ。緑豊かな渓谷で幼児殺害事件が起こり、容疑者として実母の立花里美が逮捕される。しかし、里美の隣家に住まう尾崎俊介の内縁の妻かなこが、俊介と里美が不倫関係にあったことを証言。現場で取材を続けていた週刊誌記者の渡辺は、俊介とかなこの間に15年前に起こったある事件が影を落としていることを知り、2人の隠された秘密に迫っていく。俊介役は「赤目四十八瀧心中未遂」「キャタピラー」の大西信満。「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」「まほろ駅前多田便利軒」の大森立嗣監督がメガホンをとり、監督の実弟大森南朋も週刊誌記者・渡辺役で出演。

(映画.comより)』

 冒頭タイトルロールが消えて画面が暗転し、次第に明るくなって映し出されるのは安アパートで扇風機をかけながら睦み合う男女。主人公の真木よう子大西信満です。いきなりの濃厚な濡れ場にただならぬ雰囲気が漂っていますが、そこへ隣の女のノックの音。留守中の宅配の受け取りを頼まれて濡れ場もチョンで、しばし話はだれるかと思いきや、アパート周囲にたむろするマスコミが騒ぎ始め警察が登場、その隣の女が我が子殺しで逮捕されるという衝撃の展開。そしてそれに巻き込まれた主人公夫婦(内縁ですが)の衝撃の過去が徐々に明らかになっていく。 

 このあたりの序盤の展開はなかなか良かったと思いますが、いかんせん暗くて重くてホッとできるところがどこにもないという展開、長回しを多用しているのはいいですが、ワンシーンの台詞が少ないため間が持たない印象が否めない中盤、そしてようやく二人の間に陽がさしたか、と思う間も無く待ち受ける辛いラストシーン。

 原作が「悪人」の吉田修一とあって、予想できない展開ではありませんでしたが、主人公二人の普通ではあり得ない関係は決して後味の良いものではありません。
 二人の間に横たわる底が見えないような深淵、それを越えて二人を結びつけているものは果たして愛だったのか、それとも男の贖罪意識と女の復讐心の不思議な一致だったのか?
 それが本作の主要テーマだとは思うのですが、この後味の悪さは実際に起こった事件を題材にしているところにあります。現在黄金期を築いているT大学ラグビーの歴史上最大の汚点といっていい集団暴行事件。その被害者がこの映画を観たらどう思うだろうか?そう考えるとますます落ち込むというか腹立たしくなってくるというか。。。

 それにしてもキネ旬最優秀主演女優賞を獲った真木よう子の演技は確かに見事なものでした。物怖じしない大胆で濃密な濡れ場、被害者として病んでいる時のげっそりと痩せて苦しんでいる姿、同居する男への複雑な感情表現。あたかもスクリーンの向こうにいる観客を挑発しているかのようで、「そして父になる」の母親役とは全く違った女優魂を見せつけてくれました。

 相手役である「赤目四十八瀧心中未遂」「キャタピラー」の大西信満も、大森立嗣監督の弟である演技派大森南朋真木よう子に負けじと火花の出るような演技で対抗していましたが、さすがに若干のタジタジの感が否めませんでした。

 また、「さよなら渓谷」というくらいでロケ地の奥多摩秋川渓谷の美しさをカメラは見事にとらえていました。つり橋が出てきてなんか既視感があるな、と思っていましたが、そう言えば真木よう子は「ゆれる」にも出ていたのでした。

 ということで「悪人」の方がまだ救いがあったな、というくらいの絶望感で幕を閉じる上に、実際に起きた事件をもとにしてこんなストーリーを作ることが許されるのか?という疑問まで抱いてしまう映画でしたが、俳優の演技と監督の演出、カメラワークには見所のある映画ではあったと思います。特に真木よう子の今後には注目ですね。ちなみにエンドロールで椎名林檎作の主題歌まで歌っています。

評価: C: 佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)