ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

さよなら、タマちゃん / 武田一義

さよならタマちゃん (イブニングKC)

 最近のコミックス・レビューといえば「Billy Bat」「聖☆おにいさん」「もやしもん」の繰り返しで新味がないなあと思っていたところ、この作品がNaverまとめにマンガ大賞2014ノミネート作品の一つとして紹介されており、興味を惹かれて買ってみました。

 武田一義さんという「GANTZ」で有名な奥浩哉氏のアシスタントをされていた方のデビュー作です。素朴なタッチの絵でご自身の闘病生活をほんわかとしたユーモアで包んで描いており、じんわりと心に沁みる佳品でした。
 自分の職業にも関係あるだけに、そうか、大部屋ではこういう人間ドラマが繰り広げられているのか、といろいろと参考にもなりました。

『いつか漫画家になる事を夢見て、漫画家アシスタントとして日々を暮らしていた35歳の主人公。そんな彼に突然襲ってきた癌という大きな試練。睾丸の癌に冒され、片タマを失った主人公が、家族や他の入院患者との出会いをコミカルな絵でリアルに描ききる。後が無いのはわかってる。でも諦めるには早すぎる!夢を掴むための闘病記! (AMAZON解説より) 』

 まず何といっても題名が秀逸です。タマちゃんというのは男性のあのタマちゃんなんですから。

 漫画家のアシスタントをしていた武田さんが35歳にして、突然タマちゃんのできもの、睾丸がん、正確には精巣腫瘍がみつかり、しかも肺転移までしているという不幸な現実を突然突きつけられます。睾丸だけであれば、爆笑問題田中さんのように手術のみで済みますが、転移しているのなれば化学療法も必要なので入院は長期にわたり、抗がん剤の副作用にも苦しむことになります。

 何度も何度も折れそうになる心、言いようのない苛立ち、嘔吐や味覚障害の辛さ、自分の職業にとって一番大切な手の痺れ、そして死の恐怖、それらを乗り越え、ついに腫瘍が消失し退院。その最初から最後までを入院中の下書きや記憶を丁寧に辿りつつ、25回にわたり雑誌に連載した作品の単行本化が本書であり、その前の奥さんの手術のこともプロローグとして収録されています。

 そんな長く辛い闘病生活を支えてくれたのは、先生、看護師さんたちはもちろん、同室の患者仲間のじいさんたち、武田さんを待ってくれるという奥先生とそのスタッフ、そして誰よりも大切な奥さんだったと素直に感謝している。多くを語らなくともそのことが絵を通して素直に読者の心にしみこんできます。

 それは作者の素直でまじめで飾ることのない人柄がなせる業であろうと思います。それこそがこのマンガを数ある闘病記の中でも、多くの読者の共感を呼ぶ秀作にしていると思います。そして自身のように運良く治癒して帰れる人ばかりではないことに対する率直な思いも。。。

 久しぶりに良いマンガに出会えて、久しぶりにマンガでじんわりと泣かせてもらいました。ありがとう、タマちゃん、じゃなかった、武田さん。奥様といつまでも幸せにね。

 ちなみに武田さんのことは原田知世さんがナレーションをつとめる「生きるを伝える」という番組で昨年末に放送されたそうです。HPにバックナンバーがありました。是非どうぞご覧ください。