ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

ターナー展@神戸市立博物館

Sn3n0026
(正面玄関右横のポスター、作品は「チャイルド・ハロルドの巡礼ーイタリア」)

 神戸市立博物館で先日紹介した「プーシキン美術館展」に続いてまた魅力的な展覧会が催されています。イギリスの風景画の巨匠「ターナー展」です。今朝は小降りの雨でしたが、2月から3月にかけて忙しくなるので、本日観てまいりました。

「 英国最高の巨匠、世界一のテートコレクション 待望の大回顧展!

 風景画の可能性と、英国絵画の地位を飛躍的に高めたターナーは、その生涯を通じて自身の絵画表現を追求し続ける求道者でした。本展覧会は、世界最大のコレクションを誇るロンドンのテート美術館から、油彩画の名品30点以上に加え、水彩画、スケッチブックなど計約110点を展示し、その栄光の軌跡をたどります。 ここでは、5つのテーマを切り口にして、ターナーの人生と作品の魅力について紹介していきます。(公式HPより)」

 

Sn3n0027
(正面玄関左横のポスター:
右:スピットヘッド:ポーツマス港に入る拿捕された二隻のデンマーク
左:ヴェネツィア、嘆きの橋)

ターナーと言えば精密で美しい風景画や、うねる波頭もダイナミックな海洋画のイメージが強いですが、意外に波頭渦巻く海洋画は少なかったです。後年になると、後年のモネの「印象」のような輪郭をぼかせリアリズムから脱した実験的な作品も描いていて、自分の知らなかったターナーの晩年を知ることができました。

 自分の知らないターナーと言えば、作品No1「自画像」と、No.110「J.M.W.ターナーの肖像」(ボガースによるリトグラフ)とのギャップにはビックリ。若い頃のダンディーでハンサムな自画像と、「誰だこの冴えないチビで太っちょのおっさんは?」と思わせる姿の落差には、巨匠も苦労がしのばれました。

 さて、博物館の2、3階を使って展示されている絵は113点と膨大なもので、その他にもターナーが旅行の際に持ち歩いていたスケッチブックや、実際に使っていたパレットや絵の具入れなどが展示されていました。

 スケッチブックは大きな手帳くらいの大きさしかなくて、しかもその小さなページいっぱいを使って微細克明に風景が描かれていました。それを拡大コピーすればそのまま作品になるくらいのレベルまで描きこんであったのにはさすがターナーと感心しきりでした。

 また、絵の具のチューブがまだ開発されていない頃は豚の膀胱が使われていたそうで、その豚の膀胱を使った絵の具入れの珍しさに見入ってしまいました。原田マハさんの「ジヴェルニーの食卓」では、チューブが開発されるまではポンプを使って絵の具を出していたと書いてありましたが、こういう方法もあったのですね。

 閑話休題、展示は10セクションに分かれています。

•初 期
•「崇高」の追求
•戦時下の牧歌的風景
•イタリア
•英国における新たな平和
ヨーロッパ大陸への旅行
ヴェネツィア
•色彩と雰囲気をめぐる実験
•後期の海景画
•晩年の作品

もう初期の頃から風景画のレベルは恐ろしく高く、敢えて言うと水彩画から油彩に変わっていく過程の努力が垣間見える程度で、早熟の天才であったことが窺えます。

 見ものは公式HPにある通りで、一通り挙げてみますと

《バターミア湖、クロマックウォーターの一部、カンバーランド、にわか雨》

《スカボロー(版画集「イングランドの港」のための原画)》

《スピットヘッド:ポーツマス港に入る拿捕された二隻のデンマーク船》

《オレンジ公ウィリアム三世はオランダを発ち、
荒れた海を越えて1688年11月4日にトーベイ上陸》

《平和―水葬》

《ヴァティカンから望むローマ、ラ・フォルナリーナを伴って回廊装飾のための絵を準備するラファエロ

ヴェネツィア、嘆きの橋》

ヴェネツィア、月の出
(「大運河とジュデッカ」スケッチブックより)》

《レグルス》

《湖に沈む夕陽》

《グリゾン州の雪崩》

といったあたりです。

 今日はカタログを写メできなかったのですが、特に印象に残ったものは

・「バターミア湖」の虹

・S&Gのスカボロフェアで馴染み深いイギリスの海辺の町「スカボロー

・海洋画の代表作「トーベイ上陸

たそがれのヴェニス

・Modern Jazz Quartetの名作「No Sun In Venice」のジャケットで有名なベネツィアの連作(残念ながらジャケットの絵はテート美術館収蔵ではないので展示されていません)

Sn3n0032

・船上のともし火と、幻想的な銀灰色の夜景との対比が印象的な、晩年の代表作「平和―水葬」。友人の画家デイヴィット・ウィルキーの実際の葬儀をもとにしており、前景に黒い海鳥を配しているのは「Mallardマガモ)」と自分のミドルネーム「Mallord」をかけたもので、自分の悲しみを海鳥に託したという説があるそうです。切なくも美しいエピソードですね。

・後年のモネの「印象」を思わせる、輪郭線の全くないぼやけた水平線上の夕日が印象的な「湖に沈む太陽

などでした。いずれもリンク先にありますので是非ご覧ください。

Sn3n0030_2

 観たあとはいつものように2Fのエトワールで休憩。ターナー展にちなんで英国王室御用達のテーラーズ・オブ・ハロゲイトの紅茶ヨークシャー・ゴールドとシフォンケーキのセットが特別メニューとして用意されており、折角ですからそれをいただきました。紅茶はポットでサーブされ、砂時計で5分間待つという雅趣溢れるもの。残念ながら杉下右京さんのような薀蓄は語れませんが、とりあえず美味しかったです(苦笑。