昨年10月に国立国際美術館で催されていた「貴婦人と一角獣展」の記事を書きましたが、その中世芸術の白眉と言われる「貴婦人と一角獣」の6枚のタピスリーを主題とし、ジョルジュ・サンドという魅力的な人物を主人公にした原田マハさんの美術小説です。
「楽園のカンヴァス」「ジヴェルニーの食卓」と、キュレーターとしての美術に対する造詣と愛情を注ぎ込んだ優れた美術小説を立て続けに発表されていただけに楽しみにしていました。実物を見てきたのもこの本の予習としての意味もありました。が、今回はいささか肩透かしを食らってしまった感が否めませんでした。
『 「それが、それだけが、私の唯一の望み──」
ある一つの望みを未来に託し、ジョルジュ・サンドは永遠の眠りにつく。その昔、彼女は滞在していた古城で美しいタピスリーに魅入られた。そこに描かれた貴婦人が夜ごとサンドの夢に現れ、震える声で語りかける。「お願い、ここから出して」と──。「貴婦人と一角獣」に秘められた物語が今、幕を開ける。
『楽園のカンヴァス』で山本周五郎賞を受賞したアート小説の旗手・原田マハの書き下ろし。中世ヨーロッパ美術の最高傑作「貴婦人と一角獣」の謎に迫る。/「貴婦人と一角獣」のカラー図版掲載。/ジョルジュ・サンドの短編も収載。
(AMAZON解説より) 』
とりあえずはまず長所を挙げてみましょう。
1: 造本がしっかりしておりかつ装丁が美しいので、「本」としての価値がある。
2: 6枚のタピスリーのカラー写真をはじめとしてタピスリーの図版が多く美術書としての価値がある。
3: 滅多に読むことのできないジョルジュ・サンドの著作や日記が収録されている。
これだけでも1300円を出して買う価値はあると思います。
が、問題は肝心の原田マハさんの小説です。正直なところ一冊の本として出すだけの内容ではない、と思いました。三章という構成からは中篇と呼ぶべきなのでしょうが、内容は「ジヴェルニーの食卓」の各短編よりも薄い、と言わざるを得ません。掌編、という程度だと思います。
そういう意味では1300円は高いです。
ちなみに三章を一言で説明すると
第一章: ジョルジュ・サンドの葬礼
第二章: ジョルジュ・サンドとタピスリーの出会い
第三章: ジョルジュ・サンドの「わが唯一の望み」
と言ったところでしょうか。完結した構成となっており、随所に原田マハさんらしい美的感覚の優れた描写はみられますが、物語としてはあっさりし過ぎていて、感動させるだけの深みに欠けます。ジョルジュ・サンドを彩ったショパンをはじめとする著名な男性たちも影が薄すぎます。アマゾンのレビューにもありますが、NHKの番組のために急いで書き下ろした感が否めませんでした。
続編が出るという話もありますが、完結した構成から考えて話が続いていくという構成は考えにくい。これを種本として話を膨らませる形になるのでしょう。とりあえずはそれを楽しみにしたいと思います。