先日拙宅を訪問していただいたuenoさんからお招きを頂き昨日行ってきました。もう三度目の訪問になりますが、その都度新しい発見があり倦む事がありません。
今回はSACD/CD PlayerをエソテリックのX-01からK-01に変更されてどう音が変わったかが一番の聴き所だと思っておりましたし、確かにその音の変化を感じ取ることができたのも収穫でした。
しかし常々
「私はオーディオマニアではありません」
と公言されている通り、「Il Mare」というuenoさんの美学の結晶である「音楽空間」を楽しむことが何よりの愉悦であり、またuenoさんの歓待に対する訪問者の作法であるとあらためて感じました。
ではまずuenoさんのメインシステムを紹介します。
SACD/CD Player: Esoteric K-01
Integrated Amplifier: Mark Levinson No.383L
Loudspeaker: System X ( Self-made )
以前にも記した事がありますが、部屋を機器類で煩雑にしたくないという潔さが際立つシンプルなシステムは部屋の左隅にコンパクトにまとめられています。ケーブル類は殆どが銀単線で自作されておられますが、とても美しい仕上げです。もちろんシンプルな中にも細部にまでこだわりがあり、例えばコンセントはWattaGate 381でベースはカーボンにしてあったりします。
スピーカーはオーディオファイルには有名な自作スピーカーSystem X。何度見てもその美しいフィニッシュには見惚れてしまいます。
第一回目の訪問では壁から十分離してやや内振りにセッティングされ、ニアフィールド・リスニング・スタイルでした。
第二回目の訪問では一転して壁際にセッティングされていましたが、これは当時ホームシアターを追求されておられての位置換えでした。
そして今回は、丁度その中間あたりにセッティングされていました。個人的には直接音と間接音のブレンド感が今までで一番しっくりきました。今回私の好きなフュージョンに合わせていただいたのかもしれませんが、ヴァイオリン協奏曲でもソリストの直接音主体の音とオケの間接音主体の響きのマッチングも素晴らしかったです。
さて当日は予定よりも早く着いてしまいましたが、もう万全の準備をしてお待ちいただいておりました。ライトを少し落としたいつもの清潔感溢れるシックな部屋へ通していただくと、System Xから低音量で弦の音が流れていました。もうその音の妙なること。もうやられたな、という感じです。
しばし、本職にされている木工のこと、新調されたマエストロ作のヴァイオリン「Strad 1717(il MARE)」のこと、買い換えられたK-01のことなど、色々と楽しく雑談させていただきました。
そうそう、Stereo誌付属だったアンプはずっしりと重量感のあるステンレス製の筐体や本格的なターミナルを与えられ、これに拙宅のDP-700並みのウッドケースが奢られる予定です。あとでこのアンプの音も聞かせていただくはずだったのですが、メインシステムの音があまりにも素晴らし過ぎて忘れてしまいました、残念!
さて、そのuenoサウンドですが、System Xの箱鳴りのしない頑強な筐体に収められた優秀なFostexのユニットから放たれる、音離れの良い清潔で節度のあるハイレベルな音は健在でした。それに加え、K-01がより一層の柔らかさ、しなやかさももたらしていました。筐体前面に誇らしげに刻まれた「VRDS NEO」のロゴが、より進化した音を象徴しているように思いました。それにしてもEsotericも随分音作りが変わったものですね。
まあオーディオファイル的に分析するとこんな感じですが、
「音楽」を鳴らす空間としての「Il Mare」自体が成熟している
ということを何よりも強く感じました。壁に用いられているパイン材など部屋の内装自体が、uenoさんの好みの音に馴染んできて絶妙に心地よく響くようになったのではないでしょうか(勝手な思い込みかもしれませんが)。
では、当日聴かせていただいたソフトを紹介したいと思います。HPの日記では随分悩まれていたそうですが、素晴らしいセットリストを用意してくださいました。
1:Yoko Fujita(vn),Keiko Ogura(p) : Stradivarius on GOLD CD Meditation from Thais
まずはヴァイオリン。ただ一言、美しい。最初の数旋律で息を飲みました。ご自身も弾かれるだけあって、ヴァイオリンの再生には一切妥協なくチューニングしておられると常々感じておりましたが、ただでさえ美しい旋律を持つタイスの瞑想曲をそれもストラディバリで演奏されているとはいえ、これだけの再生をされると言葉もありません。
敢えて注釈をつけると、先ほども述べたようにエソテリックの音も随分柔らかくしなやかになり、今までのような輪郭をくっきり描く再生から、超微粒子の点描的に描くように変化した印象を受けました。uenoさんがK-01を選ばれた理由が良く分かる演奏でした。
続いては弦の4重奏。LinnのHPから無料で提供されるハイレゾ音源をCD-Rに焼いたものを聴かせていただきました。K-01はこのような普通のCD-Rでも難なく再生できるようで羨ましいです。音も解像度が高く品位があり四種の弦楽器の演奏が手にとるように把握できる素晴らしいプレイバックでした。
ここでもやはりフォーカスはヴァイオリンに当たっており、ピラミッドバランスと言うよりはやや細長い二等辺三角形的なバランスでなっている印象を受けました。uenoさんの好みで低域を締め気味にしておられるのですが、もちろんダブル・ウーファーはボトムまで十分低音域を出しており、制動の利いた質のよい音でした。
3: Sarah Chang: Bruch・Brahmas Violin Conceros #4: Brahms Violin Concerto in D op77, 1st mvt
拙宅でも先日聴かせていただいた、ヴァイオリン協奏曲です。サラ・チャンのヴァイオリンはとても情熱的で激しく、好き嫌いは分かれるかもしれませんが素晴らしい名演だと思います。
彼女の完璧なテクニックに裏打ちされたダイナミックなソロの直接音と、バックのオケの奏でるアンサンブルの間接音を活かしたふくよかな響きとの対比がとても素晴らしく、長い楽章があっという間でした。
拙宅では残響が長く、ディナのEsotar 2がややきつめの音ですので、残念ながらこれだけの演奏をお聞かせする事はできませんでした。
4: Pat Coil: GOLD #5 Trail Of Angels
続いてはフュージョン。先日頂いたLPの中にPat CoilのSheffiled labでの録音盤がありその演奏の素晴らしさと好録音に驚いたのですが、今回は高音質CDで彼のベスト盤GOLDを聴かせて頂きました。
かけていただいた曲は美しいバラードで、パットの流麗でスムーズなピアノ演奏が素晴らしかったです。ライル・メイズの同級生で彼に勝るとも劣らないテクニックの持ち主なのでライルの都合の悪い時にはパット・メセニー・グループで代理で弾いていた事もあるそうで、そのつながりか、このアルバムにもスティーブ・ロドビーなど錚々たるメンバーが参加しています。
そのバックのメンバーの演奏の巧さもきっちりと表現されており、フュージョンの演奏にあわせてセッティングを詰められたことがよく分かりました。K-01の厚い中低域の表現力も印象的で、このあたりマーク・レヴィンソンとの相性もぴったりですね。
5: Thom Rotella Band
続けてフュージョンをもう一枚。これはdmpの高音質盤です。トム・ロテラというギタリストは初めて知りましたが、どちらかというとウェストコースト系な、明るくて爽やかな演奏がとても心地よかったです。調べてみると、やはりLAで活躍しているギタリストでリー・リトナー系のサウンドが持ち味の方のようです。
6: James Newton Howard & Friends
続いてはシンセサイザーの演奏を聴かせていただきました。これもSheffiled labの高音質盤です。ジェームズ・ニュートン・ハワードという方は数多くの映画音楽を手がけているプロデューサーで、そのコネクションでこのアルバムを製作したようです。クレジットを見ると、彼とポーカロ兄弟を中心に製作されており、そのせいかTOTOっぽい感じもしました。多重録音されたシンセのハーモニーが美しく、その中でジェフ・ポーカロのドラムの音が立っていたのが印象的でした。
7: The Rippngtons featuring Russ Freeman Life in the Tropics $4 Be Cool
これはオーディオファイルにも人気のリッピントンズ。所謂スムーズ・ジャズ系ですが、かけていただいた曲はラス・フリーマンのギターよりも、サックスのデイブ・カーズが前面に出た楽しい曲。とても心地よいサウンドでリラックスさせていただきました。
8: Dream Theater: Images and Words #2: Another Day
最後にプログレを聴かせていただきました。
「System Xはあまりプログレは得意でない」
と前置きされた上で聞かせていただいたのがドリーム・シアター。彼らの傑作のひとつ「Images and Words」の二曲目でしたが、美しい旋律が印象的なDTの「静」の部分を代表するような曲なので、System Xにもあっておりまるでクラシックのように聴こえました。
この後休憩。しばし歓談の後、新旧二振りのヴァイオリンの音色を聞かせていただきました。ヴァイオリン演奏の実際もレクチャーしていただき、とても勉強になりました。
私のCD:
1: Elinor Frey and David Fung: Dialoghi #6: J.S.Bach / Sarabande
ヴァイオリンはuenoさんが用意してくださるだろうから、ということでチェロのアルバムを持参しました。以前拙宅を訪問していただいたjazzaudiofanさんからたくさん頂いたCDのうちの一枚でYarlung Recordsという聞き慣れないレーベルです。
若手演奏家を支援して世に出していくことを目的として設立されたそうで、このようなレーベルをご自身のオンラインショップ「Eastwind Import」で積極的に世に出していきたいとおっしゃっておられました。その言葉通り、このエリノア・フライという若手女性チェリストの演奏はとても素晴らしく、気に入っています。
バッハのサラバンドを聴かせていただきましたが、おそらくマイク一本で余計なイコライジングをかけていないライブ録音のチェロの音色がおそろしくリアルです。スピーカー間の広い空間にすっとチェロの姿が立ち上がるようで、素晴らしい再現力に感動しました。
2: 水越けいこ: 美しい日々 #2: Full Moon
ボーカルは私の好きな水越けいこをかけていただきました。1998年のメルパルクホールでのライブですが、二曲目のFull Moonは冒頭の水越さんのアカペラが素晴らしい佳曲です。
その冒頭のアカペラの息遣い、唇の動きの微妙なニュアンス、ここまでの情報が入っていたのかと鳥肌が立ってしまいました。K-01のVRDS NEOの凄み、フォステクスのユニットの優秀さ、いろいろな事を考えましたが、とにかく拙宅ではとても鳴らせない音をあっさりと出されてしまい、正直なところ凹んでしまいました。
3: Bob James and David Sunborn: Quartette Humaine #9: Deep In The Weeds
以前拙ブログで紹介したボブ・ジェームズの新譜で全曲アコースティックというボブにしては珍しいアルバム。ラスト曲でノリのいいDeep In The Weedsを選んだのですが、グルーブ感溢れるとても楽しい演奏を聴かせていただきました。サンボーンのサックスは良く鳴っているし、ジェームス・ジナスのベース・ソロもばっちり決まっていました。
4: David Bowie: The Next Day #1: The Next Day
最後はお遊びでロックを一曲。これも以前紹介しましたが、10年ぶりに新譜を出したボウイのアルバムからタイトル曲を。ロックは苦手、というのはもちろん承知でかけていただいたのですが、それなりに結構アグレッシブな演奏を楽しませていただきました。
というわけで楽しい時間はあっという間に過ぎ、名残を惜しみつつ帰路につきました。uenoさん、どうもありがとうございました。