ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

プーシキン美術館展@神戸市立博物館

Sn3n0109_2
 先日観た映画「ルノアール 陽だまりの裸婦」の半券を持っていくと値引きしてもらえる、というコラボ企画に乗らない手はないと思い、雨の休日の朝から神戸市立博物館で開催されている「プーシキン美術館展 フランス絵画300年」に出かけてきました。

 ルノアールの「ジャンヌ・サマリーの肖像」が目玉だと言うことで、また印象派か~、とあまり期待せずに出かけたのですが、題名に「300年」とある通り、よくもまあこれだけ集めたもんだ、というくらい幅広い年代の様々な絵画があり、結構楽しむことができました。ちなみに音声ガイドを水谷豊さんが担当されておられたので利用しました。杉下右京さんが薀蓄を語っているようでなかなか良かったです。

 さて、これだけの欧州絵画の傑作群をロシアに集めたのは、18世紀にはかの有名なエカテリーナ2世、大貴族ニコライ・ユスーポフ公爵、そして19世紀には企業家セルゲイ・シチューキンイワン・モロゾフ等。特にシチューキンとモロゾフの存在は別格的で「伝説のコレクター」と呼ばれています。今回の展覧会は彼等の偉業を知ることに意義があるといっても過言ではないかもしれません。

Photo

 という硬い話はさておき、この博物館で展覧会を鑑賞した後のいつもの楽しみは、名物喫茶「エトワール」で一休みすること。ご高齢の上品で気さくな御婦人が取り仕切っておられるお店で、今日も元気で働いておられました。大抵その時に開催されている展覧会の図録を置いてあるので、今回も美味しいコーヒーを飲みながら復習しておりました。

 その図録から気になった作品を携帯カメラで撮っていたら、いつのまにか17枚にもなっていました。折角ですから展示順に紹介したいと思います。何分図録の携帯撮りですので、実際の絵の魅力を伝えることは不可能ですが、気になるものがあれば今の時期であればネットで簡単に見つけられると思います。

「 知る人ぞ知る、フランス絵画の宝庫ロシア。17世紀古典主義の巨匠プッサンにはじまり、18世紀ロココの代表ブーシェ、19世紀のアングル、ドラクロワ、ミレー、印象派やポスト印象派のモネ、ルノワールセザンヌゴッホ、そして20世紀のピカソマティスまで――。プーシキン美術館のコレクションの中核をなすフランス絵画の質の高さは、フランス本国もうらやむほどのものです。
本展では、選りすぐりの66点で、フランス絵画300年の栄光の歴史をたどります。なかでも、ルノワール印象派時代最高の肖像画と評される≪ジャンヌ・サマリーの肖像≫は、最大の見どころです。
「ロシアが憧れたフランス」の粋を、どうぞお楽しみください。

(公式HPより)」

 展示は時代ごとに四章に分けられています。では第一章から見ていきましょう。

第一章: 17-18世紀 古典主義、ロココ

 宗教画だギリシャ神話だといいながら画家は結局裸の女を好んで描くむっつりスケベ、とどこかの映画だか本だかで揶揄されていた古典主義ですが、まあその通り、裸婦のオンパレードでした(w。でもまあ勿論見るべき絵はあります。

Photo_2
ユピテルカリスト: フランソワ・ブーシェ、oil on vanvas,1744

 18世紀ロココ芸術を代表するブーシェの作品。ロココ美術の愛好者ユスーポフ公爵が1811年にサンクトペテルブルクのオークションで入手したそうです。確かに周囲から一頭地を抜く作品でした。

Photo_3
手紙を持つ少女: ジャン=バティスト・グルーズ oil on canvas, after 1770s

 何で手紙を読むだけでこんなエロティックなポーズをとらねばならんのだと文句をつけたくなるような絵画ですが、その少女の表情が尋常ではない。恍惚としているのか呆けているのか。その視線に強く惹きつけられる点では、今回の目玉ルノアールの作品に負けないものがありました。

第二章: 19世紀前半 新古典主義ロマン主義自然主義

 ここが意外と良かったです。見もの満載。

Photo_4
聖杯の前の聖母: ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル oil on canvas, 1841

  新古典主義の巨匠アングルによる、聖母像の傑作。聖母の色使いが見事で周囲の陰翳から見事に浮かび上がっています。

Photo_5
マムルーク: オラース・ヴェルネ oil on canvas, after late 1830s

 このようなオリエント風の絵画がもてはやされた時期があったようです。作品群の中でいいアクセントになっていました。

Photo_6
難破して: ウジェーヌ・ドラクロア oil on canvas, ca.1840-47

 ドラクロアもこの時代にあって革新的な作品を生み出した画家ですが、この作品もその一つ。船の上の二人がやっていることは、死人を海に投げ出す作業。このような人間の内面を抉り出すような題材が描かれる時代にさしかかっていたことを示す象徴的な一枚です。

Photo_7
イタリアの街角; アレクサンドル=ガブリエル・ドゥカン oil on canvas,1849

 イタリアの街角の貧しそうな女性を描いた一枚。バルビゾン派に通じるところがあると思いますが、こういう庶民を描く時代が到来していた時代だったのでしょう。今から見るとなんということのない一枚ですが、妙に印象に残りました。これを買い付けた画商の慧眼に感服します。図録から撮った写真がモノにならなかったのでネットから拾ってきました、悪しからず。

Photo_8
ナイルの渡し船を待ちながら: ウジェーヌ・フロマンタン oil on canvas, 1872

 夕日がナイル川に落ちようとする、静かな日没の情景。その独特の空気感を宿した一枚。フロマンタンは画家でもあると同時に小説家でもあっただけに、一枚の絵に物語の一シーンを見ているようで、今回の作品群の中でもとりわけ強い印象を受けました。何々派というところから離れて強い存在感を場の周囲に与えていました。

Photo_9
突風: ジャン=バティスト=カミーユ・コロー oil on canvas, mid 1860s-early 1870s

森の風景を得意としたコロー、これは突風に大きく揺れる木々の表現が見事。

第三章: 19世紀後半 印象主義、ポスト印象主義

 いよいよ印象主義、ポスト印象主義が登場。マネ、モネ、ルノアールドガセザンヌゴッホロートレックと百花繚乱のコーナーでしたが、まあ「もういい加減見飽きた感」が否めず。そんな中でもあまり知らない画家の絵に興味を惹かれるものがありました。

Photo_10
夜明けのパリ: ルイジ・ロワール oil on canvas, late1880s-early1890s

 なんと言うことのないパリの街角を描いた風景画なのですが、雨の後なのでしょうか、街が濡れている質感が妙に印象に残る一枚でした。

Photo_11
ジャンヌ・サマリーの肖像 : ピエール=オーギュスト・ルノアール oil on canvas 

  いくら大家の絵は見飽きたとは言ってもこの一枚を外すわけにもいかないでしょう。印象主義時代のルノアールの傑作。モデルはコメディ=フランセーズの女優さんでルノアール婦人の紹介だったそうですが、ルノアールがこのモデルに惚れ込んでいることがひしひしと伝わってくる一枚(想像ですが)。ピンクを基調とした色彩は「幸福の画家」の真骨頂と言えましょう。ちなみにこの絵を買い付けたのがモロゾフ氏でした。

Photo_12
医師レーの肖像: ヴィンセント・ファン・ゴッホ oil on canvas, 1889

  有名な耳切事件を起こした直後、彼の神経症を治療した医師に感謝の気持ちで送った一枚。でもその医師レーは気に入っておらず、安値で売り払ってしまったとか。もったいない(笑。まあ冗談はともかく、さすがゴッホと唸らせる肖像画です。

Photo_13
ケレスの勝利(田園の祭り、夏): ケル=グザヴィエ・ルーセル oil on canvas, 1911-1913

  この印象派群の一画に何でこんな絵が、と不思議に思った一枚。とりわけ明るい派手な色使いが異彩を放っておりました。ルーセルという画家は初めて知りましたが、ナビ派の画家だそうです。道理で知らないはず、ナビ派自体よく知らないもの(苦笑。勉強になりました。

第4章: 20世紀 フォーヴィスムキュビスム、エコール・ド・パリ

ああいい加減疲れてきた(^_^;)。でも私にとってはここからが好みの画家のオンパレード。頑張っていきますか。皆様も今しばらくのお付き合いをお願いします。

Photo_19
カラー、アイリス、ミモザ: アンリ・マティス oil on canvas, 1901-04

  先日紹介した原田マハの「ジヴェルニーの食卓」にも登場したアンリ・マティス。さすが「色の魔術師」と呼ばれただけの事はある、他を圧倒する色彩感覚。3種類の花の色彩、葉の緑、敷物の青のコントラストが見事。この下手な写真では伝えられないので是非実物をご覧ください。

Photo_15
扇子を持つ女: パブロ・ピカソ oil on canvas, 1909

今回の作品群の中でも突出したインパクトを与える一枚。やっぱりピカソは凄いわ、といつもピカソの出展があると思うのですが、やっぱり今回も例外ではありませんでした。

 それまでに例を見ない構図で描かれた女性のこちらを見つめる尋常ならざる気迫は、当時のピカソの気迫そのものだったのではないでしょうか。「扇子を持つ女」は3枚ありますが、その中でも傑出した一枚でキュビズムの何たるか、その核心に迫る一枚。

Photo_16
マジョルカ島の女: パブロ・ピカソ gouache and watercolor on cardboard

 またまたピカソ。「青の時代」から「バラ色の時代」へ移りかわるころの作品です。青への強い思い入れが見てとれる一枚ですが、前の作品と違いデッサンの描線が透けて見えるほどあっさりとした色使い。何を描かせても凄いのがピカソだと脱帽するしかありません。これらピカソの作品を蒐集したのがシチューキンでした。

Photo_17
詩人に霊感を与えるミューズ: アンリ・ルソー oil on canvas, 1909

 原田マハの「楽園のカンヴァス」の主人公アンリ・ルソー。彼のこの絵もまた強烈なインパクトがありました。日曜画家として誰の影響も受けずに絵を描き続けたルソー。そして彼を理解し応援したピカソ。そのピカソの紹介でマリー・ローランサンアポリネールと知己を得て描かれた一枚。マリー・ローランサンは異様なプロポーションで描かれていますが、これでもルソーはローランサンの顔や手の長さを計測してから描いたそうです。デッサン無視かよ、と突っ込みたくなりますが、いかにもルソーという絵になっている不思議。更にはバックの風景と前面の花の色彩がルソーらしさを際立たせています。

Photo_18
少女の顔:モイーズ・キスリング、oil on canvas, 1924

 これだけ錚々たる絵画群の中でも異彩を放っていたのが エコール・ド・パリの画家キスリングの少女の絵。憂鬱そうな顔の左右に陰翳を持たせて描かれた三つ編みのおさげ髪の少女は一体何を思っているのでしょうか?とても不思議な気分にさせられる絵でした。また、額縁が随分ボロボロでその意味でも異彩を放っていました。プーシキン美術館に収まるまでいろんな紆余曲折があったのかと思いきや、なんとキスリング自身の選択だったそうです。

 この膨大な作品群の掉尾を飾ったのはシャガールの「ノクターン」。しめやかな締め方にキュレイターの感性が光ります。

 というわけで長のお付き合いありがとうございました。エルミタージュ美術館に勝るとも劣らない、ロシアに集められた300年の絵画蒐集の結実を観ることのできる企画です。12月まで開催されていますので関西の方は是非どうぞ。ちなみにこの次は「ターナー展」だそうで、これも楽しみです。

11月11日追記: 何故かこの記事に限ってスパムコメントが集中するのでコメント不可にしました。