ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

ルノアール 陽だまりの裸婦

Renoir
 以前シネリーブル神戸で予告編を観て気になっていた「ルノアール 陽だまりの裸婦」を観てきました。

 もちろん主人公は印象派の巨匠ピエール=オーギュスト・ルノアール (1841-1919)。彼のひ孫で、写真家としても活躍するジャック・ルノワールが執筆した画家ルノワールの伝記的小説が原作となっています。
 第一次大戦が暗い影を落とす時代で、ルノアール自身も決して幸せではなかった晩年を描いた映画なのですが、

私の絵に暗い色はいらない

という彼の信念そのままの様な明るく美しい映像美が光る映画でした。

 彼が晩年を過ごした、コート・ダジュールの海岸に面する丘一つを買い取ったかのような広大な自宅の風景の美しさ、ルノアール父子2人を魅了してしまったモデルのアンドレ役のクリスタ・テレの裸身の美しさが強く印象に残り、いかにもフランス映画的な映像だなと感心していましたが、意外なことに撮影はウォン・カーウァイ監督作品や、2010年の日本映画「ノルウェイの森」などを担当した台湾出身の撮影監督リー・ピンビンでした。そう言えばノルウェイの森のカメラワークにも似ていたような(汗。

『 原題: Renoir
2012年 フランス映画 PG12指定
配給: クロックワークス、コムストック・グループ

スタッフ
監督: ジル・ブルドス
原作: ジャック・ルノワール
脚本: ジェローム・トネール、ジル・ブルドス
撮影: マーク・リー・ピンビン

キャスト
ミシェル・ブーケ: ピエール=オーギュスト・ルノワール
クリスタ・テレ: アンドレ
バンサン・ロティエ: ジャン・ルノワール
トマ・ドレ: ココ・ルノワール
ロマーヌ・ボーランジェ: ガブリエル

印象派を代表する画家で、日本でも高い人気を誇るピエール=オーギュスト・ルノワールの晩年を描いたドラマ。南仏コート・ダジュールを舞台に、自由のきかない手で懸命に創作を続ける晩年のルノワールと、後に仏映画界の巨匠となる息子ジャン・ルノワール、そして、父子2人のミューズとなったモデルのアンドレが織りなすドラマや、画家ルノワールの最高傑作「浴女たち」誕生に秘められた真実を描き出していく。ルノワールのひ孫で、写真家としても活躍するジャック・ルノワールが執筆した画家ルノワールの伝記小説が原作。ウォン・カーウァイ監督作品などで知られるリー・ピンビンが撮影を担当。

(映画.comより) 』

 

 晩年のルノワールは名声も富も得ていましたが、おそらく重度のリウマチ性関節炎を患っており、体の自由が利かず、椅子に座ったまま使用人の女性四人にアトリエまで運んでもらわねばならないほどでした。手の節々は瘤のように膨れ上がり、ガーぜで手と絵筆を縛り付けないとキャンパスに絵を描くこともできません。
 そして最愛の妻を亡くしたばかりで、その上長男ピエールと次男ジャンが戦地で負傷したとの報告に心を痛めています。三男のクロードはまだ思春期に入ったばかりで同居していますが、学校には行かず怒ってばかりの父に反発しています。

 そのような傷心の日々に、突如亡き妻に彼のモデルになるよう頼まれたと言って現れた

「太陽の光を吸い込むような理想の肌」

を持つ美女アンドレ(愛称デデ)。彼女の裸身の魅力にルノワールは、再び創作意欲を掻き立てられ、晩年の傑作「浴女たち」の完成につながっていきます。

 そんな束の間の幸せな状況にさざなみを立てるのが、戦地で銃創から左足に壊疽を起こし療養に帰ってきた次男ジャンの存在です。性に目覚め始めたばかりのクロードは鼻にもかけないデデでしたが、端正な顔立ちと優しい心の持ち主であるジャンには心惹かれていきます。父の創作を手伝いデデには一歩引いたところで接していたジャンも次第に彼女に惹かれていき二人は深い仲になってしまいます。

 というとルノワール、クロード、ジャン父子とデデのどろどろした恋愛劇になるのかと言えばさにあらず、特に過激な愁嘆場もなく淡々と四人の日常が描かれ、それぞれの心情は観ているものが推測するしかありません。まるで一昔前の日本映画の侘び寂びのようで、これを洋画でやられるとあっさりし過ぎて物足りない感もありましたが、これもフランス映画の一つの有りようなのでしょう。

 ルノアール反戦思想もそれほど激烈には描かれず、戦争場面も出てきません。むしろ療養の終わったジャンは戦闘機に乗る快感にまた復員を志願してしまいます。まあ、こういう形で反戦を静かに訴える方法も有りだとは思いますが。

 というわけで、映画自体としてそれほど楽しめるわけではなかったですが、ルノワールの絵が好きな私としては彼のデッサンや創作風景が興味深かったです.特に、完璧なプロポーションを誇るデデ役のクリスタ・テレがジャンに

「この人はいつも私を太った女に描くのよ」

と話す場面には妙に納得してしまいました。「浴女たち」をはじめ彼の晩年の作品の裸婦像はみんな太っていますからね。

 とにもかくにも、伸びやかで明るい晩年の絵画に隠された、不自由な体で激痛に耐えながら、暗い時代だからこそ自分だけは黒は一切使わず明るく美しい色で美しい絵を描こうとした彼の信念には感服するものがありました。

 さて、そのルノアールを演じたのは名優ミシェル・ブーケ。あごひげを伸ばし、醜く節くれだった手をはじめ醜く老いさらばえたメイクで往年の面影はありませんでしたが、迫真の演技でルノアールを演じきっていました。

 そしてルノアール親子を魅了するデデ役のクリスタ・テレ。彼女の陽光の下での裸身は本当に美しかったです。よくこれほどのモデルを探し出してきたものです。ちょっとハスキーな声も蠱惑的で、あばずれで野心的な本質もよく演じていました。

 というわけで、ルノアールの伝記的映画としては面白く観ることができましたが、内容的にはあっさりし過ぎて今一つかな、という印象でした。印象、と言えば「印象派」の画家については殆ど語ることのないルノアールですがティツィアーノのことは誉めていました。ルネサンス期のイタリア人画家であまりその絵を見る機会はありませんが、見たくなってしまいました。

評価: C: 佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)