ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

キャプテンハーロック

Herlock
 私の世代には忘れがたいアニメ・ヒーロー、「キャプテンハーロック」が何故か今頃フルCGのアニメーションになって戻ってきました。いろいろなネットニュースなどを見ると、東映

「ハリウッド以上のCGクオリティで海外進出を狙う」

心づもりがあるようです。そこで日本のアニメで世界にも知られているキャラクタの一人、キャプテンハーロックに白羽の矢が立ったのでしょう。そのせいか、元々の綴りは「Captain Herlock」でしたが、今回は海外で通用している「Harlock」となっています。その意気込みが功を奏したのか、ヴェネチア映画祭において3D版がジェームズ・キャメロンに絶賛され、海外からの配給オファーが相次いでいるそうです。

Arcadia_pass
(全国先着30万人限定海賊認定カード、って多過ぎないか^^;)
 というわけで、期待半分怖いもの見たさ半分で観てきたのですが、若者言葉で言わせてもらえば、う~ん微妙
 実写にして無残な結果を招いた「Space Battleship ヤマト」の轍を踏まなかったのは良かったと思いますが、モーション・キャプチャを活用したフルCGはやはり何とも言えぬ違和感が拭えませんし、福井晴敏まで起用してあの脚本はなんなんだ!?というストーリー、主要キャラクタに声優でなく人気俳優を起用する安易な観客動員策、う~んどうだかなあ、という感じでした。まあ、蒼井優ちゃん目的で行った私が言っても説得力がありませんが。

『 2013年 日本映画 東映

監督: 荒牧伸志
原作総設定: 松本零士
脚色: 福井晴敏
脚本: 福井晴敏、竹内清人

キャスト
小栗旬: キャプテンハーロック
三浦春馬: ヤマ
蒼井優: ミーメ
古田新太: ヤッタラン
福田彩乃: トリさん

 松本零士原作で1978~79年にTV放送されたアニメ「宇宙海賊キャプテンハーロック」を、総製作費3000万ドルをかけて新たに描くフルCGアニメーション。「APPLESEED アップルシード」の荒牧伸志が監督、「亡国のイージス」「機動戦士ガンダムUC」の福井晴敏が脚本を手がける。宇宙全域に散らばった人類が地球帰還をめぐって争った「カム・ホーム戦争」から100年後の世界。元宇宙艦隊大佐で現在は広域指名手配犯として恐れられる宇宙海賊キャプテンハーロックを暗殺せよとの密命を帯びた青年ヤマは、ハーロックが駆る宇宙海賊戦艦アルカディア号への潜入に成功する。新人乗組員として正体を隠し、ハーロック暗殺の機会をうかがうヤマだったが、やがてハーロックの目的とアルカディア号の正体、そして人類の希望たる地球に隠された秘密を知る。

(映画.comより) 』

 冒頭に

「遠い遠い未来の話かもしれないし、遠い過去の話かもしれない」

と、一体どっちやね~ん、と突っ込みたくなるようなキャプションが出ますが、要するに今回は完全オリジナルストーリーで、一般に知られた宇宙海賊キャプテンハーロックの物語より以前のエピソードと位置づけられています。
 したがって今回は台場正クイーン・エメラルダスは登場しませんが、ミーメヤッタランケイ、ついでにトリさん等のアルカディア号の主要乗組員は同じです。ケイは大分原作とは印象が違いますが。また、ハーロックの盟友であったトチローの設定も原作と同じです。

 が、オリジナルストーリーだけあって、ハーロックとミーメ及びアルカディア号の設定が

あっと驚く

というか、

ファンなら必ず茫然とするであろう

こと確実なほど変えられています。まだ公開されたばかりであまりネタバレさせてはいけないので詳しくは書きませんが、FFシリーズばりに

ダークマター

というとっても怪しげなエネルギー源をアルカディア号が持っており、それを扱えるのは異星人であるミーメのみ。おまけにハーロック自身がそのダークマターの力で不死身の肉体となっており、その年齢は既に100歳を超えているという設定。う~ん、どうなんだか。

 おまけにそのダークマターの力でハーロックはデスシャドウ級四番艦艦長の頃に

とにかくとんでもないスケールの過ち

を犯してしまい、結局のところこのストーリーはその贖罪が大きなテーマとなっていることが徐々に明らかとなります。贖罪という割には敵である地球サイドのガイア・サンクションの

敵艦をバンバン撃沈する

のはいかがなものか、とも思いますが、まあそこはそれ、スペースオペラですから仕方ないでしょう。

 さて、新しい主要キャラクタ、ヤマについても触れねばなりません。上記の映画.comなどで明かされているのでこの程度のネタバレはOKと思われますので書きますが、ガイア・サンクションの工作員としてアルカディア号に乗り込み、徐々にハーロックに感化されていき、最後には自らの意思で自らの生き方を見出していく、といういかにもな役柄です。そしてそのヤマと兄、兄嫁とのエピソードが、サイドストーリーとして大きな軸となっています。

 彼の兄イソラはガイア・サンクションの実行部隊ガイアフリートの長官で、そのイソラの妻と三人の間には悲しい過去の事故に絡む確執があります。まあそういうエピソードもドラマを盛り上げるのに必要であることは確かですが、そもそもその確執の原因となるヤマの行為のバカさ加減がひどい。
 そして
話の後半になると(スペオペには有りがちな事ですが)戦いの規模のでかさ、ガイア・サンクション側の被害の甚大さと兄弟の確執の小ささとの整合性がとれなくなり、終盤ではヤマやイソラの行動に「ちょっとついていけません(ーー;)」感が否めなくなってしまいます。

 というわけで「自由の旗の元に」という宇宙海賊キャプテンハーロックの本来の理想とは随分と違った物語が出来てしまいましたな~、という印象が否めなかったです。

 その一方、金と労力を思いっきりかけましたぞ!と言わんばかりのCG映像美は確かに凄かったです。特にアルカディア号の造形は特筆するに価します。もう海賊船というよりは幽霊船かと思うほどの凄み。この映画では海賊行為は全く描かれず、しかもハーロックが不死身である事を考えるとあながち幽霊船でも間違いはないですが。。。

 モーションキャプチャ法により描かれるキャラクタの動きの滑らかさも確かにハリウッドレベルにあると思いますし、とにもかくにもハーロックをあれだけリアルな造形に完成させたのは立派なものだと思います。が、それでもフルCGには何故だか分からないけれど普通のアニメと違った違和感が付きまといます。

 さて最後に声優さんですが、やっぱりハーロック井上真樹夫さんでなくっちゃ、というファンは多いと思います。私もそう思う一人ではありますが、今回の小栗旬は決して悪くない、と言うか、かなり頑張っていたと思います。

 三浦春馬もまずまず無難にはこなしていましたが、十分にヤマの個性を引き出せていたかというとやや疑問。蒼井優と共演した劇団新感線のお芝居「Zipang Punk」ではあれほど張りのある声を劇場いっぱいに響かせていたのに、やはりアテレコには慣れていないせいでしょう、妙におとなしい感じで、彼らしい個性を発揮できていませんでした。

 美味しい役のヤッタランの古田新太とトリさんの福田彩乃はOK!、でしょう。

 さて、ミーメの蒼井優ちゃんは!?まあいいんじゃないでしょうか(笑。どうしても贔屓目で見てしまいますが、異星人っぽい感じを出せていたと思います。どうしても懐古趣味に走ってしまいますが、優ちゃんは声優としてはやっぱり「いけちゃんとぼく」のいけちゃんがよかったですね(懐。

 というわけで、なつかしのヒーロー、キャプテンハーロックが見事な造形で帰ってきたのはとても嬉しいですが、旧来のファンはストーリーにかなり違和感を感じるのではないか、と思います。ちなみに私は2Dで観ましたので3Dの出来はわかりません、あしからず。

評価: D: イマイチ
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)