ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。

Anohana

 「劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」という長い名前のアニメーション映画を観てきました。昨日が公開初日でキャパの少ないシネリーブル神戸では当然ながら全席全回ソールドアウト、今日も着いたら3回目までソールドアウトという大人気。昨日チケットをゲットしておいて良かったです。

 「はちみつとクローバー」「もやしもん」などでおなじみのフジテレビ系列の深夜枠「ノイタミナ」、逆さから読むと「飲みたいな」(嘘。英語のスペルで逆さから読むと「animation」となります。
 そのノイタミナで2011年初に放映され、最終話に号泣する人続出、猛烈な感動を呼んだことで話題となり、ちょっとした「あの花」社会現象まで巻き起こしたアニメの映画化ということで公開が心待ちにされていました。

『 2013年 日本映画 アニプレックス

スタッフ
監督 長井龍雪
原作 超平和バスターズ
脚本 岡田麿里
キャラクターデザイン・総作画監督 田中将賀
演出 吉岡忍

キャスト
入野自由茅野愛衣戸松遥、櫻井孝、早見沙織、他

2011年4~6月にフジテレビ系深夜アニメ枠「ノイタミナ」で放送された全11話のオリジナルアニメーションの劇場版。 宿海仁太(じんたん)、本間芽衣子めんま)、安城鳴子(あなる)、松雪集(ゆきあつ)、鶴見知利子(つるこ)、久川鉄道(ぽっぽ)の小学生6人は大の仲良しで、「超平和バスターズ」と名乗り、秘密基地に集まって遊ぶ楽しい日々を過ごしていた。しかし、ある夏の日、芽衣子が事故で亡くなり、残された5人の心は離れ離れになってしまう。時は流れ、高校1年生になった仁太の前に、死んだはずの芽衣子が成長した姿で現れる。その姿は仁太にしか見えず、芽衣子は超平和バスターズのみんなに願いをかなえてほしいと言うが、その願いが何であるのか芽衣子自身も思い出すことができない。離れ離れになっていた超平和バスターズは、このことをきっかけに再び集い、芽衣子の願いをかなえようとするが……。TVシリーズで描かれなかった過去の出来事や、TVシリーズ最終話から1年後の成長した仁太らの姿も描かれる。

(映画.COMより)』

 それにしても長い名前の題名で、その意味深な題名だけでもそそられますね。長い名前と言えば村上春樹の「色彩のない多崎つくると彼の巡礼の年」を思い出しますが、偶然ながらシチュエーションが似ています。

 男女混成の仲良し共同体に於ける友情と恋愛感情の間の揺らぎ、「死」がもたらす喪失感と共同体の崩壊、そして再生。

 本作品ではそのテーマが秩父の豊かな自然を背景に丁寧に描かれています。死んだはずの芽衣子(めんま)が成長した姿で仁太(じんたん)の前に現れるところなどはファンタジーの要素が入ってきますが、だからといって浮世離れした物語に堕することがない、良く練られた脚本とキャラクター設定がTVシリーズ最終話の大きな感動に結実しました。

 今回の映画ではその本編を、最終話を中心として上手くまとめつつ、その一年後に五人が再び秘密基地に集まるエピソードを追加しています。
 TV最終話ではめんまの5人に宛てたメッセージが大きな感動を呼んだのですが、一年後のエピソードでは逆に五人がめんまに手紙を書いて持ち寄るという設定になっています。ただ、その手紙自体よりそれを書く過程が丁寧に描かれ、そのエピソードの積み重ねの中で本編では描ききれなかった要素が回収されています。例えばあなるのじんたんへの想い、ゆきあつとつるこの心の距離の縮まりなど、中途半端だったメンバーの関係に一応の決着がついたところが良かったと思います。

 それでもあくまでもストーリーの軸はめんまであり、新たに小学校時代ロシア人の血が混じったクオーターで髪の毛が銀髪だった故にいじめられていたというエピソードも追加されています。そのめんまがじんたんの誘いで「超平和バスターズ」に入れてもらったことがどれほど嬉しいことであったのか、想像に難くありません。

 「超平和バスターズ」はずっとなかよし

というめんまラストメッセージは本作でも痛いほど胸に迫ってきます。

 そしてこの劇場版の最後にめんまへのメッセージが煙となって立ち昇り天に届く時、生きている彼等五人の夏は終わりを告げます。あと一年もすれば各人が進学あるいは就職という新たな局面を向かえ、「超平和バスターズ」どころではなくなる、と冷静なつるこは見抜いています。そう、彼等にとって、これが本当の

夏の終わり

なのでしょう。

 細かな点では、つるこの描いたパステル画がとても良かったと思います。ちなみにこの絵は作画監督の田中氏ではなく、里見佳音という方が担当されています。
 またじんたんのTシャツのロゴは相変わらず遊び心に溢れていて面白い。

 もちろんTV放映を見ていない方でも上に記した映画.comの紹介程度の前知識があれば十分楽しめるし、感動できると思います。

 ということで、子供時代の思い出は決して甘いものばかりではなく、心に深い傷を残す思い出もある。そのトラウマが突然思春期に蘇ってきた時に、人はそれを乗り越えてどう成長できるのか、という普遍的なテーマをアニメーションという手法で描いた佳作だと思います。
 確かにキャラクターデザインや声優の声は今風で、そのあたりが若干気になりはしますが、それでもいい年をした大人が見るもんではないだろうというような固定観念にとらわれず、万人に見ていただきたいと思います。

評価: C: 佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)