ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

SHORT PEACE

Shortpeace
 前回の記事で宮崎駿の「風立ちぬ」と同日に注目のアニメがもう一作封切られたと書きました。それが大友克洋を中心としたクリエーターたちが作り上げた短編集「SHORT PEACE」です。昨日観てまいりました。

 「風立ちぬ」が宮崎駿の自己満足につき合わされている感じがしたのに比べると、こちらは純粋に日本発の高レベルなアニメーションを楽しむことができました。安彦良和氏がオフィシャルHPに

これは大友一家の殴り込みだな。アニメ界への、そして世界への

というコメントを寄せていますが、けだし名言だと思います。

 「SHORT PEACE」  2013年 日本映画  配給: 松竹

1: オープニングアニメーション

デザインワーク/作画/監督: 森本晃司

 いきなり何のクレジットもなく「かくれんぼの情景」が提示され、それがすぐにSF的作画に転換され、異次元へと少女が誘われる。ウサギがいるところをみると、「不思議の国のアリス」風に観客を映画世界へ誘うとしているようにも見えます。これがオープニングアクトだと分かるのは本編が始まってからですが、若手クリエイター森本晃司の手際が光るイントロダクションでした。

2: 九十九

監督/脚本: 森田修
ストーリー原案/コンセプトデザイン: 岸啓介

男:山寺宏一
反物小町:悠木 碧
蛇の目蛙:草尾 毅

「18世紀、深い山中で道に迷った男は、雨宿りに入った祠で、捨てられた傘や着物、道具などの怨念から生まれた物の怪に遭遇。男は傘や着物を修繕し、怨念を鎮める」

 森田修は私の地元奈良県大和高田市出身のアニメーション監督。最近では日清食品の「Freedom」のCFで鮮烈な印象を我々に与えました(同名映画も作成されました)。岸啓介は若手ばりばりの造形作家。

 この作品自体はオーソドックスな妖怪ものですが、色使いの鮮やかさや妖怪の造形、短編の中で上手くストーリーを処理した手際のよさが光ります。

 そしてこのたった一晩の短いシンプルな物語をびしっと引き締めているのは何といってもベテラン声優山寺宏一声の力。声優とはかくあるべき、という見本のようです。声優嫌いであんな凡作を作ってしまった宮崎駿にはこのフィルムを是非観ていただきたい。

3: 火要鎮

脚本/監督: 大友克洋
キャラクターデザイン/ビジュアルコンセプト:小原秀一
音楽:久保田麻琴
作画監督:外丸達也
エフェクト作画監督橋本敬史
画面設計:山浦晶代

お若:早見沙織
松吉:森田成一

「望まぬ縁談を持ちかけられた江戸の町娘・お若は、思いを寄せる火消しの松吉と結ばれないことを嘆いてある行動をとるが、それが恐ろしい事態を引き起こしてしまう」

 いよいよ大友克洋登場。と言ってもストーリーは「八百屋お七」の上流階級版という印象の江戸時代の噺で、作画も若手に任していますので、いつもの大友作品の雰囲気はありません。それでも面白かったのは画面構成の妙。大友組の若手色彩設計山浦晶代が担当していますが、絵巻物風に横長の画面がスクロールしていく構成が斬新でした。

4: GAMBO

監督: 安藤裕章
原案/脚本/クリエイティブディレクター: 石井克人
キャラクターデザイン原案: 貞本義行
脚本: 山本健介

カオ: 田村睦心
二元次: 浪川大輔

「戦国時代末期、東北地方の山中に恐ろしい鬼が出現し、近くの村の娘たちをさらっていく。最後に残された村の娘カオは、人の言葉を理解する白い熊のガンボに鬼を退治してくれと救いを求める」

 これもまた時代物。最初から3編を時代物にしたのは海外を意識してのことでしょうか。とは言え、ラス前にしてようやく物語は熱気を帯びてきます。担当する監督は「スチームボーイ」にも関わった安藤裕章。そして驚いたことにキャラクタデザインの原案を貞本義行が担当しています。ダメもとで頼んでみたらOKが出たそうです。

 エイリアンを髣髴とさせるグロシーンには思わず目を背けたくなりますが、その後の「鬼対白熊(+人間)」の戦闘シーンの迫力は素晴らしい。鬼とは?白熊とは?その意味するものは公式HPをご覧いただくと監督の趣旨が分かりますが、前知識なしに観る方が楽しめます。

5: 武器よさらば: 

脚本/監督: カトキハジメ
原作: 大友克洋
キャラクターデザイン :田中達之
メカニカルデザイン: カトキハジメ山根公利
CGI監督: 若間 真
作画監督: 堀内博之
美術監督: 小倉宏昌
演出: 森田修
色彩設計: 山浦晶代
撮影監督: 田沢二郎
編集:  瀬山武司
音楽:石川智久

マール: 二又一成
ラム: 檀 臣幸
ギムレット: 牛山 茂
ジン: 大塚明夫
ジャンキー: 置鮎龍太郎

「近未来の廃墟と化した東京の町に、武装した5人の小隊がある任務を帯びてやってくる。しかし、無人兵器と遭遇したことから戦闘状態に突入し、小隊の運命は狂い始める。」

 ラストにしてようやく大友克洋タッチのアニメーションが登場。1981年に描かれた大友作品ですが、ガンダムシリーズの造形で知られるカトキハジメがこの作品にほれ込んでおり、大友克洋から

そんなに好きなら、君が『武器よさらば』の監督をやったらいい

という許可を得て作られた一編です。オムニバス4作の中で唯一近未来の崩壊した東京が舞台というSFアクションで、さすがに大友組総動員で作られただけの事はある完成度の高さ。掉尾を飾るに相応しい作品といえましょう。

 以上オープニングアクトを含めて5作品、短編という物足りなさは仕方ないとして、日本のアニメーションの質の高さを世界に誇れる作品だと思います。

評価: C: 佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)