ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

舟を編む

Funeposter
 現在公開中の映画「舟を編む」を例によって例のごとく夫婦50割で観てきました。私も家内も三浦しおんの原作に感動し、この映画化を楽しみにしておりましたが、家内は原作をほぼ忠実に踏襲した内容にとても満足しておりました。私も概ね満足でしたが、ストーリーを追いかけ過ぎるあまりちょっと一本調子となってしまったところが惜しいな、と思いました。

『 2013年 日本映画 配給:松竹、アスミックエース

スタッフ
監督: 石井裕也
原作: 三浦しをん
脚本: 渡辺謙作

キャスト:
松田龍平宮崎あおいオダギリジョー黒木華渡辺美佐子小林薫加藤剛、他

 出版社の辞書編集部を舞台に、新しい辞書づくりに取り組む人々の姿を描き、2012年本屋大賞で第1位を獲得した三浦しをんの同名小説を映画化。玄武書房の営業部に勤める馬締光也は、独特の視点で言葉を捉える能力を買われ、新しい辞書「大渡海(だいとかい)」を編纂する辞書編集部に迎えられる。個性的な編集部の面々に囲まれ、辞書づくりに没頭する馬締は、ある日、林香具矢という女性に出会い、心ひかれる。言葉を扱う仕事をしながらも、香具矢に気持ちを伝える言葉が見つからない馬締だったが……。(映画.COMより)』

 原作は

「出版会社の社員が辞書を作る」

という、考えてみればごく当たり前の仕事を題材にしながら、何故か感動してしまう不思議といえば不思議な小説です。

 そのような地味といえば地味な内容をどう映画化するのか?この小説の映画化が決まった時、拙ブログでも紹介した「川の底からこんにちは」「ハラがコレなんで」といった奇想天外な映画を作ってきた石井裕也がメガホンを取ると聞いて、おそらく原作をある程度改変して面白さを追求した映画になるんだろうな、と予想していました。

 ところがあにはからんや石井監督、今回は全くの正攻法で原作に忠実に作り上げてきました。ストーリー、主要な登場人物の設定、丁寧に作りこまれた出版社や馬締君の下宿などのセット、15年という時の流れを感じさせる小物の数々など、細部までとても「マジメ」に作りこまれていて好感が持てました。

 ただ、映画には時間の制約がありますので、当然原作のエピソードの取捨選択は必要になってきます。そのチョイスに関して原作ファンには当然あれを入れて欲しかった、これも採用して欲しかった、という不満は出ると思います。私も幾つかの、特に西岡がらみでのエピソードを入れればもっとメリハリのあるストーリー展開になったのになあ、という思いは抱きました。また、原作で丁寧に書き込まれていた馬締、西岡の心理、あるいは精神的成長といった面を描ききれていないために原作を読んでいない人が観ると進行が今一つ淡白で物足りないと思われるのではないかと思います。

 一方、本作でとてもよかったと思うのはキャスティングです。マジメすぎる馬締君に松田竜平、板前で恋人の香具矢に宮崎あおい、辞書編集には向いていないけれど対外交渉には長けている辞書編集部の先輩にオダギリジョー、このメインの三人をはじめ池脇千鶴黒木華小林薫加藤剛渡辺美佐子等のキャスティングが笑ってしまうくらい見事に原作のイメージ通りでしたね。敢えて変えてあったのは製紙会社の辞書担当社員くらいでしょうか。

 特に松田龍平は同じ三浦しおん原作の「まほろ駅前多田便利軒」、第二作が公開間近の「探偵はBARにいる」などで、茫洋としたつかみどころのないキャラをうまく演じていましたが、今回もマジメで対人関係が苦手な若者が次第に成長していく姿を上手く演じていました。最近あまり目立った活躍のなかったオダギリジョーも本作では久しぶりに活き活きとした姿を見せてくれました。ヒロインの宮崎あおいはもう安心してみていられる演技派ですが、今回は脇に回った抑えた演出でやや物足りない感がありました。板前姿はきりっとしていてよかったですけど、もう少し活躍して欲しかったところです。

 ところでエンドロールでなんと

麻生久美子

のクレジットがあり驚きました。どう思い出そうとしてもどこに出ていたか分からなかったのですが、ネットで検索してようやく分かりました。そういうことだったのか(w

 というところで、石井監督にしては「まじめ」に原作に忠実に作り上げた好感の持てる作品だったと思いますが、もう少し演出に遊びがあっても良かったのではないかと思います。

評価: C:佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)