ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

草原の椅子

Sougennoisu
 久しぶりの記事更新になります。先日家内と映画「草原の椅子」を観てきました。派手な宣伝も打っていて公開間もなくの時期だったにもかかわらず、劇場はガラガラ。パキスタンロケまで敢行して随分お金もかかっているだろうに大丈夫かな?と案じられるほどでした。内容自体は悪くなかったですが、豪華5名の脚本陣を動員して成島出監督が撮ったにしてはちょっと感動が薄い映画でした。どうしても成島出+奥寺佐渡コンビの傑作「八日目の蝉」と比べてしまうのがいけないのかもしれませんが。。。

『2013年 日本映画 配給:東映 

原作:宮本輝
監督:成島出  
脚本:加藤正人、奥寺佐渡子、真辺克彦、多和田久美、成島出 

キャスト:佐藤浩市、西村雅彦、吉瀬美智子、貞光奏風、小池栄子AKIRA黒木華中村靖日、若村真由美、井川比佐志他

バツイチサラリーマン遠間憲太郎(佐藤浩市)は、50歳を過ぎて取引先の社長・富樫(西村雅彦)や骨董店オーナーの篠原貴志子(吉瀬美智子)と出会い、互いに友情を深めていく。そんな折、彼らは母親から虐待を受けて心に傷を負ってしまった幼い少年と出会い、その将来を案じる。やがて偶然見た写真に心を動かされた彼らは、世界最後の桃源郷と呼ばれるパキスタンフンザへと旅立つ。(シネマトゥデイより)』

 バツイチ中堅サラリーマン、取引先のカメラ専門店社長、とびきりの美人骨董店オーナー、この三人の出会いとその後の被虐待児を中心とした交流が描かれる序盤から中盤までの流れはとてもよかったと思います。テンポの緩急も絶妙、軽い笑いを誘うシーンとしんみりと感動させるシーンの繰り返しもしっかりとした脚本と演出に支えられてメリハリがあります。途中で挿入される瀬戸内海の島でのロケも息苦しい東京を離れた開放感に満ちており、観るものにカタルシスを与えます。

 もちろん虐待児の心のケアも重要ですが、その面倒を見る中年の大人三人にとっても生きにくい現在社会。それぞれ大きな悩みを抱えて毎日を過ごしています。そんな彼らが迷いを吹っ切るために選んだ場所が現代社会最後の桃源郷パキスタンフンザを訪れる事でした。何故その場所なのかは映画を見てのお楽しみとしておきますが、後半~終盤はその桃源郷でのロケとなります。大変な苦労があったであろうと容易に推察がつく場所ですが、風景も人物も丁寧に描かれ、カメラワークも素晴らしい。

 が、ストーリー自体がここで安直になってしまいます。砂漠を歩いたり、100歳を越す老人の達観に頼ったり、そんなことで今まで悩みに悩んでいた大人三人が実に単純に結論を出して晴れ晴れとしてしまう。ある程度は推察できた結論の出し方ではありますが、それまでの日本での起伏に富んだ展開に比してあまりにもあっさりとしすぎている感は否めませんでした。

 というわけで終盤は観光映画にストーリーがくっついている、という感じになってしまっており、せっかくのロケがかえって裏目に出ている印象を受けざるを得ない映画となってしまいました。

 とはいえ、佐藤浩市西村雅彦吉瀬美智子をはじめとする俳優陣の演技はさすがと唸らされるものでした。特に人情に厚い商売を信奉する一方で女にだらしなく醜態を晒す面も見せるカメラ店社長を演じる西村雅彦が実によかったです。佐藤浩市も一目惚れした吉瀬美智子に気に入られようと骨董を俄勉強してかえって情けないことになってしまうペーソス溢れるシーンとシリアスな演技とのメリハリが絶妙で、安定した演技力を見せてくれました。
 吉瀬美智子さんはとにかく綺麗でした。特に雨の中街角に和服で佇むシーンの美しさは絶品。佐藤浩市が思わずタクシーを降りて後を追いかけてしまうのも納得の名シーンだったと思います。
 女優で忘れていけないのは小池栄子。「八日目の蝉」での熱演が認められての成島監督の起用だったと思いますが、本作でもエクセントリックな虐待児の母親役という難しい役柄を怪演していました。本当に見事な演技派となりましたね。

 以上、先行きの見えない現代社会にあって迷っている大人たちに、もう一度自分を見つめなおす機会を与えてくれる良い映画であったと思います。終盤の失速は残念ですが、日本映画史上初めてというパキスタン奥地の壮大なロケシーンがそれを補ってくれますのでさほど退屈はしません。見て損のない映画であると思います。

評価: C: 佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)