もう一本邦画をご紹介。前回の「カラスの親指」のレビューで、能年玲奈が来年のNHK連続テレビ小説の主演に決定していると書きましたが、こちらは「おひさま」に主演した井上真央の終了後初仕事「綱引いちゃった!」です。
題名からすぐ連想するのは、周防正行監督の名作「シコ踏んじゃった」ですが、その予想通り主役巻き込まれ型のスポーツ・コメディでした。こういう映画はそれ以来沢山作られており、二番煎じ、三番煎じの感は否めませんが、単純に泣き笑いできる楽しい映画となっていました。
『2012年 日本映画 配給:東宝
キャスト
井上真央、松坂慶子、玉山鉄二、浅茅陽子、西田尚美、渡辺直美、風間杜夫、笹野高史 他
「舞妓Haaaan!!!」「なくもんか」の水田伸生監督が井上真央を主演に迎え、実在した女子綱引きチームを題材に描くオリジナルコメディ。美人だが真面目でお堅い大分市役所広報課の西川千晶は、あまりに知名度の低い大分市をPRするため、市長命令で女子綱引きチームを結成して全国大会出場を目指すことに。勤務先の給食センターが廃止の危機にある母の容子とその同僚たちを誘い、なんとかチームを結成した千晶だったが、メンバー不足から自身もチーム入りせざるをえず、さらにはキャプテンまで押し付けられてしまう。(映画.comより)』
近年は地方振興策として映画誘致が盛んですが、本映画の舞台は大分県の県庁所在地大分市。確かに別府や湯布院といった観光名所と格段に知名度の差がある地味な都市で、振興にはもってこいかもしれません。映画中でも架空の都市ではなく、堂々と「大分市」と名乗っているところが凄いというか、割りきりがいい(笑。そして取り上げた題材が実在した女子綱引きチーム。
その冒頭シーンで、レイバンのサングラスにツナギ姿の凛々しい井上真央が滑走路をセスナ機に向かって歩くシーン。どんなかっこいい役なんだろうと期待は膨らみますが、実は彼女大分市の職員で大分市のPR映像撮影のためにスカイダイビングをやらされ、できた映像は散々な出来。。。というコメディの王道をいく快調な滑り出し。
で、次なる策として思い付きで「綱引き」が取り上げられ、ちょっとした紆余曲折を経て給食センターの存続のためにチームが結成される事になり、当然井上真央が巻き込まれる。この種のコメディの定石通り、名乗り出た給食職員はワケアリ・癖アリの女性ばかり。これをすっかり母親役が板についた松坂慶子を始め、デブキャラ担当渡辺直美、一昔前の主役どころの浅茅陽子、西田尚美等々。そしてコーチはイケメンだが海千山千の女性を前にしてはちょっと頼りないJA大分所属のシイタケ栽培のお兄ちゃん。これを「ハゲタカ」で見事な演技を見せた玉山鉄二。これに風間杜夫、佐藤二朗、笹野高史といった名優が脇を固めます。
これだけお膳立てすれば、その後のストーリーは自ずから見えてきますので、面白くなるかならないかは脚本と演出次第です。まず脚本は「フラガール」や「パッチギ」シリーズの羽原大介。フラガールで描いて見せたように、地方の財政危機、認知症介護、親子関係等々のシリアスな現実を垣間見せつつ、主役陣の涙あり笑いありの奮闘振りをうまくまとめていました。綱引きの面白さ、奥深さも十分描けていたと思います。たった二ヶ月間であれだけ強くなるか、というところだけは非現実的でしたが、観客のそういった厳しい目も承知の上であのエンディングに持っていったところは脚本の妙ですね。
そして肝心要の監督は「舞妓Haaaan!!!」「なくもんか」の水田伸生。どんなハチャメチャな演出になるのかと思いきや、意外にも堅実な演出でした。大分市PR映画であまり無茶はできないという制約はあったのかもしれませんが、まずまず誰が見ても納得するような仕上がりにしてしまうところはさすがです。
そして俳優陣では何と言っても井上真央。「八日目の蝉」で著しい進境を見せ、最早日本を代表する若手女優の一人といえます。嫌味のない愛くるしい卵形の顔は老若男女を問わず好感を抱かせるところも武器の一つ。そんな彼女がNHKに半年出て、知名度もぐんとアップして選んだ初仕事がこのドタバタコメディ。正直言って賞レースに絡めるほどの作品とは思えませんし、おまけに綱引きの練習は多分きつい(苦笑。
はたして彼女にはどんな思惑があったのでしょうか。インタビューなどから推測すると、「おひさま」のヒロイン役のいイメージを一旦払拭するために選んだのがこのコメディエンヌ役だったようで、また憧れだった松坂慶子と共演できたのも嬉しかったようです。
というわけで選んだこの映画、まずまず成功していると思います。巻き込まれ型の主人公を上手く演じていますし、綱引きのシーンもまずまず様になっていました。個人的には居酒屋で玉山鉄二に絡むシーンが可愛かったです。
そして井上真央はもちろん個性溢れる女優陣を相手に孤軍奮闘する玉山鉄二。ちょっと頼りなさげでいながら何とかチームをまとめ上げていく、本当にどこにでもいそうな兄ちゃん役をナチュラルに演じていました。彼もいまや引っ張りだこで、日本映画界になくてはならない存在になってきましたね。
個人的にはあれだけ美しかった松坂慶子の今の姿を観るのは毎度寂しい思いをしますが、演技派として安心して見ていられる存在になりました。
というわけで、これが井上真央の代表作になるか、といえば絶対そんなことはない(笑、けれど安心して家族みんなで楽しめるB級映画にはなっていたと思います。
評価: C: 佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)