ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

清須会議 / 三谷幸喜

清須会議
清須会議
 三谷幸喜の書き下ろし小説で、もう映画化も決まっている「清須会議」です。井沢元彦氏の「逆説の日本史」でやっとこの会議の重要性を知った私なんぞと違って、三谷幸喜は学生時代から目をつけていたそうです。さすが才能のある人は違いますねえ。

『生誕50周年記念「三谷幸喜大感謝祭」のラストを飾る、満を持しての書き下ろし小説、遂に刊行! 信長亡きあとの日本の歴史を左右する五日間の攻防を「現代語訳」で綴る、笑いと驚きとドラマに満ちた、三谷印の傑作時代エンタテインメント!

日本史上初めての会議。「情」をとるか「利」をとるか。
本能寺の変、一代の英雄織田信長が死んだ。跡目に名乗りを上げたのは、柴田勝家羽柴秀吉。その決着は、清須会議で着けられることになる。二人が想いを寄せるお市の方は、秀吉憎さで勝家につく。浮かれる勝家は、会議での勝利も疑わない。傷心のうえ、会議の前哨戦とも言えるイノシシ狩りでも破れた秀吉は、誰もが驚く奇策を持って会議に臨む。丹羽長秀池田恒興はじめ、会議を取り巻く武将たちの逡巡、お市の方、寧、松姫たちの愛憎。歴史の裏の思惑が、今、明かされる。(AMAZON解説より)』

 本能寺の変織田信長信忠が亡くなったあとの織田家の跡目を選ぶために開催されたのが清須会議ですが、羽柴秀吉はもうその先を見越して天下取りのための第一歩と捉えていました。邪魔なのは頑固一徹の老将柴田勝家
 というわけで織田家、家臣様々な人物がノローグを語る形式で話はテンポ良く進んでいきます。うまいのは「現代語訳」と称して現代風の語り口で皆に本音を語らせているところ。例えばうつけものの織田信雄の今風チャラ男的なしゃべり方には、三谷幸喜の思うつぼと分かっていても笑いを禁じ得ません。

 天下取りと平行して、お市の方を慕う勝家秀吉の鞘当て合戦も笑わせてくれます。実は両方とも大嫌いなお市の方勝家のむさくるしさに辟易しつつも、子供を殺された恨み骨髄の秀吉には何としても勝たせたくない、その辺りの本音を赤裸々に語るモノローグで三谷幸喜は女性のしたたかさ、怖さ、そして強さを実にリアルに描いています。

 全体を通して、本当にこういう思惑こういう流れで会議は進んでいったのかな、と思わせてしまうプロットはさすがですし、最後の最後にさりげなく陰の勝者のモノローグを入れるオチも秀逸。

 歴史小説としては「軽すぎる」「フィクションを盛りすぎる」という批評が多いようですが、私としてはむしろ、秀吉が毛利攻めから新幹線で引き返す筒井康隆の「ヤマザキ」くらいのハチャメチャをやって欲しかったくらいです。カバーの装丁画で秀吉松姫スマホで連絡を取り合ってるんで期待してたんですけどね。

 残念ながらその点では時代考証の範囲内の内容でしたが、それでも十分に楽しめる、三谷幸喜の人間観察・造型の巧さを堪能させてくれる作品でした。映画の配役が誰になるかも楽しみです。ちなみに柴田勝家ショーン・コネリーが理想だそうですが(笑。