ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望

Thefinalodoru
 その後のヒットTVドラマ映画化の手本となり、メディアミックスという斬新な手法も確立した「踊る大捜査線」シリーズ、その15年間の歴史に終止符を打つ最終作「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」を観てきました。15年の確かな歩みを感じさせるオープンニング・ロールとエンド・ロールには感銘深いものがありましたが、本編はこれでいいのか?とちょっと首をひねってしまいました。有終の美、とは言い難かったです。まああのグダグダ感、ゴチャゴチャ感が「踊る」の持ち味だったといえばそれまでなんですが。。。

『 2012年 日本映画、ROBOT製作、東宝配給

監督  本広克行
脚本  君塚良一

キャスト:
織田裕二深津絵里柳葉敏郎ユースケ・サンタマリア小泉孝太郎小栗旬
伊藤淳史内田有紀香取慎吾 他

湾岸署管内での国際環境エネルギーサミットの開催中に、サミット会場で誘拐・殺人事件が発生。湾岸署に捜査本部が結成され、管理官として鳥飼がやってきた。この事件には何か裏があるらしく、所轄の刑事は閉め出されてしまう。鳥飼の指示で青島が容疑者を任意同行してくるが、その容疑者にはアリバイがあった。しかし、その容疑者への暴行、自白の強要容疑で青島に辞職勧告が下る。そんな中、湾岸署署長の真下の息子が誘拐され…。(Goo映画等より)』

 公開されたばかりですが、以下少々ネタバレもありますのでご了承ください。

 冒頭、青島君(織田裕二)とすみれさん(深津絵里)が仲の良い夫婦になり、商店街でから揚げ屋をやっている場面で少々意表をつかれます。ラストのハッピーエンドを暗示しているのかと思うまもなくネタは明かされ、アペリティフのような前振りは終了。軽快なオープニングロールに移行していきます。このあたりはこのシリーズの持ち味が十分に出ていて期待を持たせます。テンポの良い登場人物紹介の中にさりげなく和久さん(いかりや長介)の写真が差し挟まれたりするところも憎い演出です。

 そしていよいよ本編が始まります。冒頭の鳥飼小栗旬)の行動が何か不穏な展開を暗示しますが、湾岸署の描写に切り替わると、もういつものゴチャゴチャ感満載。
 考えてみればこのシリーズはシリアスな警察組織への問題提起とコメディタッチの所轄警察の描写が程よくバランスをとっているところに、今までの警察ドラマと一線を画する斬新さがありました。
 今回もその例外ではなく、警察組織の上層部の腐敗、トップダウンシステムの硬直化が重要なテーマとなっています。具体的に言うと今回起こる事件は警察内部の犯罪であり、それを隠蔽するために、キャリア組のトップ連中は室井柳葉敏郎)と青島に「誤認逮捕」という嘘の責任を押し付けて辞職させ自らの保身を図ろうとしますが、逆にこの室井ー青島ラインが事件を解決してしまい、警察庁トップ二人は辞職に追い込まれることになります。これにより警察組織の抜本的改革が室井らの手によりようやく端緒につくことになり、シリーズ最初から青島君が室井さんに託していた願いがかない、ファイナルに相応しいラストとなります。

 しかし、今回の事件がトップ二人に引導を渡すほどの大事件だったかといわれるとそれほどのことはないし、辞職を迫る大杉漣演じる警察行政人事院・情報技術執行官という役職も良く分からない。何かすっきりしないまま室井・青島ラインが勝っちゃったなあ、という印象が拭えませんでした。

 また、事件そのものにも疑問があります。この事件は警察内部の、過去のある事件に関わった複数の人物の犯行なのですが、第1、第2の殺人はまだしも、最後の犯行はどう考えても理解できない。彼らの中に小泉今日子がやったようなサイコパスがいるわけでもなく、全員理性を失ってもいない。そんな人たちが過去の犯行を真似て恨みのある人物の子供を殺す計画を立てるなどということは絶対に出来ることではないでしょう。

 また室井青島ラインの和久ノートにのっとった「犯人の気持ちになって考えろ」という捜索方法も、無理がありすぎ。犯人の潜む倉庫の特定の仕方なんて、あてずっぽうもいいところ。ところで、この捜索シーンで久々に青島君は走り回るのですが、その途中でTVCFで何度も流れたようにバタッと倒れてしまいます。CFで見ると犯人に撃たれてこれでついに青島君も最期なのか、とドキドキしてしまいますが、実は。。。まあよくもこんなにうまくだましてくれるもんだなあと思いますね、予告編ってのは。

 そしてこの映画一番のアクションシーンが、この映画一番の突っ込みどころ!青島和久伊藤敦)と犯人が対峙した膠着状態の倉庫になんとすみれさんが運転するバスが突っ込んでくるのです。何故バスなのかはまあ見てのお楽しみですが、この時点ですみれさんは警察を辞職して一般市民。倉庫を壊してバスを横転させて、何ぼなんでも無茶ですがな。。。

 まあ他にも突っ込みどころは満載なんですが、コメディタッチの常連の動かし方には手馴れたものがあり、そういう陽の部分は相変わらずの快調さだし、まずまず満足できる仕上がりです。
 と、まとめたいところですが、もう一つだけ理屈っぽいことを言わせていただきます。序盤で青島君の部下さんの発注ミスで大量のビールが湾岸署に運ばれてきます。これを隠さないとクビだ、と青島君は必死に隠蔽を図ります。うん?隠蔽工作?これって警察組織の上層部がやってた行為のミニチュア版じゃないの?

 ということで、グダグダ感を残しつつ、ついにこのシリーズも終了。青島君とすみれさんの友情以上恋愛未満の関係も結局はっきりとした結論はでませんでした。その方がいいとも思いますけれど。

 レギュラー陣の演技も手馴れたもので、うまい人はうまいなりに、下手な人は下手なりにがんばっており、特段不満もありませんでした。小栗旬はもっと早くからレギュラー入りして、この世界での役割を確立しておいてほしかったと思いますね。今回の唯一とも言えるゲスト俳優の香取慎吾もそれなりに様になっていました。ただ、台詞はなかった方が(以下自粛)

 あと、某プロダクション社長の怒りをかって出演できなくなっていた水野美紀さんを引っ張り出した織田裕二の男気に拍手を送りたいと思います。

 エンドロールでも微笑ましい写真が次々に登場し、「小林すすむさんの思い出とともに」というメッセージにも泣かされました。

 というわけで、15年間楽しませてもらったことに感謝しつつ、あくまでも評価は客観的に行いたいと思います。

評価: D:: イマイチ
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)