ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

Billy Bat 9&10

BILLY BAT(9) (モーニング KC) (第9巻)

BILLY BAT(10) (モーニング KC) 第10巻
 浦沢直樹Billy Batも早10巻目を迎えました。ずっとここまで毎巻紹介してきましたが、第9巻を買うのが遅れて紹介するタイミングを失ってしまったので、ここでまとめて紹介させていただきます。

『第9巻: 「コウモリの巻物」とは? 漫画家が消しゴムを使ってストーリーを描きかえるように……歴史を自由に改ざんできるものだった。そのありかを知る雑風に、再び危機が迫る。そして、かつて人類史上最高の天才が見た恐ろしい地球の未来とは……!?

第10巻: 一九二四年、LAで発生した日系人連続殺人事件。その死体の近くには必ずコウモリの落書きが!? NYより着任した敏腕刑事ゲイリーは、そこから予想だにしない犯人像を導き出す。殺人者の法則! 日本古来の辻斬りとの共通点! 一方ゲイリーは捜査の合間に、美しい花売り娘と恋に落ちる。娘の名はシシー。ゲイリーとシシ……。 』

 物語の主軸であるケヴィン・ヤマガタモモチ父娘の一行は第9巻でついにコウモリ村へ辿り着きますが、そこは先着していたチャック・カルキン(偽)の手先であるヘンリー・デヴィヴィエにより悲惨な殺戮が行われ、恐慌状態となっていました。第10巻において一度は優位に立つケヴィン側ですが、逆転を許してしまい、今度はケヴィンが絶体絶命のピンチに立たされます。さあ、どうなる?、というところで第10巻は終了。よく民放TVで見かける「CMまたぎ」みたいでもどかしい事この上ない(苦笑。

 さて、このピンチを脱出する方法として前巻から暗示されている、SFでは有名なタイム・パラドックスがあります。それは、

「過去に遡って殺人者の両親を殺してしまえば殺人者は消えていなくなるので助かる。」

ということです。そしてこの本では「巻物」がそれを可能にする可能性が示唆されています。

 ということで、第10巻では、ヘンリーの両親が出会い結婚した1924年のLAがもう一つの主要舞台となっています。ここでヘンリーの両親とともに、重要な人物である雑風先生の「師匠」がついに登場します。弟子の雑風からの連絡を待っていると話す師匠、果たしてその内容というのは、既にヘンリーを妊娠している母シシーを殺害する事なのか??「待て次号!」ということで、こちらも結論は持越しです。

 もちろん母を殺害してしまえば殺人者はいなくなるかもしれませんが、歴史そのものが大きく変わってしまいます。しかし、ケヴィンはその母が妊娠している殺人者ヘンリーに今にも殺されようとしています。タイム・パラドックスを発動するのか否か、次号がとても楽しみです。

 というのが本編ですが、第9巻では雑風先生が来日したアインシュタインに会いに行き重大な警告を受けたり、円谷英二を思わせる日本の特撮監督がアポロ計画の月面着陸の特撮を極秘裏に頼まれたり、生前の下山総裁が登場して下山事件とビリー・バットの関係が明かされたり、と枝葉(と言っても幹に近い)の部分でとても面白かったです。
 またヘンリーの父ゲイリーの人格形成に深く関与する問題として、以前拙ブログで紹介した「アメリカ西部開拓と日本人」でとりあげた日本人のアメリカ移住、特に写真だけでアメリカ移民の妻として渡米させられた日本人妻の問題が取り上げられていて興味深かったです。

 今回はそういう枝葉は少なかったですが、雑風先生がランディ・モモチの父親と偶然遭遇する場面にちょっとにやっとさせられました。というわけで雑風先生も度々登場するのですが、本筋では逃げたまままだ行方不明です。どこで再登場するのか、これも楽しみです。ところであらためて気がついたんですが、雑風先生のフルネームは唐麻雑風、すなわちカラマーゾフのもじりですね。先日「カラマーゾフの妹」を読んだばかりなので妙に気になります。