ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

鍵泥棒のメソッド

Kagidoro
 「踊る大捜査線Final」「夢売るふたり」等々現在公開中の邦画には観たい作品が目白押しなんですが、この日曜日は買い物と時間と場所の関係で、シネリーブル神戸で公開中の「鍵泥棒のメソッド」を観てきました。最初から最後まで笑って楽しめる上質のコメディ映画で、満員の館内には笑い声が絶えませんでした。

『2012年 日本映画 配給:クロックワークス

監督・脚本: 内田けんじ

キャスト: 堺雅人香川照之広末涼子荒川良々森口瑤子

運命じゃない人」「アフタースクール」の内田けんじ監督が、人生が入れ替わってしまった売れない役者と凄腕の殺し屋が巻き込まれる騒動を、堺雅人主演で描く喜劇。35歳でオンボロアパート暮らしの売れない役者・桜井は、銭湯で出会った羽振りのよい男・コンドウが転倒して記憶を失ってしまったことから、出来心で自分とコンドウの荷物をすり替え、そのままコンドウになりすます。しかし、コンドウの正体は伝説の殺し屋で、桜井は恐ろしい殺しの依頼を引き受けなくてはならなくなる。一方、自分が売れない貧乏役者だと思い込んでいるコンドウは、役者として成功するため真面目に働き始め、徐々に事態は好転していくが……。(映画.comより)』

 映画の冒頭、超高級品を扱う雑誌の女性編集長・広末涼子が突然結婚すると宣言する。しかも恋人はこれからみつけて、何週間恋をして、いついつに結婚式を挙げるときわめてビジネスライクに予定を立てている。

 そして冴えないエキストラ役者・堺雅人は失恋して自宅のボロアパートで首吊り自殺に失敗、ふと見つけた風呂券を手に銭湯へ出かける。一方、クールで常に鮮やかな手際で「仕事」をこなす裏社会の便利屋・香川照之は、交通渋滞に嫌気がさしてふと見上げた煙突をみてこれまた銭湯へ。

 当然ながら堺雅人香川照之は風呂のロッカーで隣り合わせ、堺雅人香川照之の分厚い財布にびっくりし、風呂場に入ってきた途端転がってきた石鹸に足を滑らせて後頭部を強打し意識を失った香川照之のロッカーの鍵と自分の鍵をつい出来心ですりかえてしまう。香川照之は病院で意識を取り戻すが記憶を失ってしまっており、自分を貧乏役者だと思い込んでしまう。根がまじめで几帳面な性格なので、まじめに役者の勉強を始める。とともに、ふとしたことから知り合った広末涼子との交流が始まる。。。

 もう、古くからある喜劇の定石そのものです。ともすれば陳腐な方向へ流れてしまうこのシチュエーションから、次から次へと笑いを誘いながらテンポ良く進行し、ハッピーエンドへもっていくには相当の脚本を必要としますが、今回はその脚本が良くできていました。やはり映画は脚本ですね。

 そして堺雅人香川照之という新旧二人の邦画屈指の演技派の演技対決。特に香川照之は歌舞伎という新しい仕事もありながら方々の映画で目にするのでいい加減辟易気味でしたが、この映画ではクールで凄みのある便利屋と記憶を失ってまじめに生きる姿をうまく演じえ分けており、さすがだなと思いました。堺雅人もその飄々とした雰囲気でダメ人間を演じており、香川照之とうまく絡んでいました。

 これで主演女優がうまい演技を見せるとちょっと濃くなりすぎるところですが、広末涼子が大根すれすれの素人っぽい演技で場を和らげることに成功していました。これが地なのか、演技なのかはあえて問いませんが(w。

 細かい小道具にも思わずにやりとさせられるところ満載。たとえば几帳面な香川照之の書く字と、堺雅人の下手な字の遺書の対比。香川照之は字もうまいんだなあと思っていたら、エンドロールのクレジットで「ペン字指導」の方がいると知って、ああ、そこまで気を使っていたのか、と納得。

 そして、一応オーディオファイルの自分が思わずにやりとしたのは、音楽。ベートーベンの弦楽四重奏が二回登場し重要な役割を果たすのですが、一回目が便利屋の超高級車のデジタルオーディオシステム。二回目が広末涼子の亡父が好きだったアナログシステム。アンプは真空管で、スピーカーはオールド・タンノイ(おそらくランカスター)でした。さすがにその二つの音質の違いまでは表現していませんでしたけどね(苦笑。

 というわけで、徹頭徹尾エンターテインメントに徹し、細部までこだわったコメディとなっておりました。最近見たコメディ映画の中でも出色の出来かと思います。お暇があれば是非どうぞ。
 ちなみにちょっと変わった題名中の「メソッド」という言葉ですが、演技指導で有名なリー・ストラスバーグの「メソッド・アクティング」理論からとっています。記憶を取り戻した香川照之が、堺雅人に向かって「お前は何をやっても続かないだめな男だ。ストラスバーグの演劇論も8ページしか読んだ形跡がなかったぞ」と責める場面には大笑いでした。

評価: B: 秀作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)