ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

メタボ氏のための体重方程式 / 乾哲也

メタボ氏のための体重方程式―わかると治る生活習慣病
 ロンドンオリンピックも終わってしまいましたね。健康美溢れるアスリートたちの姿を見て、メタボの方々の中には「俺もいっちょ頑張ってみるか」と思われた方も多いのではないでしょうか。それでなくても巷には奇を衒った、あるいはインチキといっていいようなダイエット本が溢れております。そこで医学的に見て本当に納得できる本をご紹介しましょう。私の同級生で、長きに渡り予防医学に携わってこられた乾哲也先生のご著書です。キャッチフレーズは

メタボは努力で治すものではない 大事なのは知識

そして、本の裏表紙には

運動しなくても生活習慣病は治る
アルコールを飲んでも生活習慣病は治る
暴食をしても生活習慣病は治る

と刺激的な惹句が並んでいます。こんなんじゃインチキ本と同類なんじゃないかと訝ってしまいそうですが、さにあらず。もちろん若干の注釈は必要ですが、膨大な経験と予防医学知識から著者が導き出した正しい「知識」なのです。逆に言えば一般に流布している健康常識こそがダイエットを難しくしているのであり、著者が「大事なのは知識」と強調される真の意図はそこにあります。

 私も日常的に健診に携わっていますが、それでもこの本を読んで「目からうろこ」の新しい知識が多々ありました。その内容の肝をできるだけ分かりやすくご紹介したいと思います。

 本当はまず「メタボリック症候群」についてきっちりと説明しなければいけないのですが、話が少々難しくかつ長くなるので割愛します。とりあえず内臓脂肪が多い状態は、脂肪細胞から悪いホルモンが出て、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病を引き起こし、それがひいては動脈硬化から脳卒中心筋梗塞といった怖い病気を引き起こすので危険なのだと考えてください。だからダイエットで減らす必要のある体重成分はこの内臓脂肪分なのです。

 ちょっと話が難しくなりましたが、ここで最も単純にして絶対真実である数式をまず紹介しましょう。

体重の増減 = 摂取エネルギー - 消費エネルギー

 要するに消費エネルギーよりも食べ過ぎれば太り、消費エネルギーより食べる量を少なくすれば痩せるのです。こんな分かりやすい話はありません。。。が、メタボの方にこれを説明すると必ずといっていいほど嫌な顔をされ、山ほど言い訳を聞かされるのが我々の悲しい日常なのです。

「それくらい分かってます。体もまめに動かしてます。でも痩せないんです」
「運動は一生懸命してるんです、でも痩せないんです」
「本当に私なんか食べる量は少ないんですよ、夜も食べないし」
「規則正しい食事で野菜ばっかり食べてるのに何で痩せないんですか」
「仕事で夜の食事が遅くなるのでどう頑張っても無理なんです」

 内心では、単純な引き算の結果なのにと思いつつ、相手を怒らせないように相槌を打っておりましたが、この本を読んで、これらの言い訳をしている人たちは

「自分は痩せるために努力しているんだ」

と言いたいのだということを再認識しました。そしてそれらの努力が間違った知識に基づいているから痩せなかったのだ、ということをこの本は教えてくれました。では、ダイエットの正しい知識とは何か?著者の持論を大まかに説明すると

「余分な体重を減らすには、消費エネルギーを増やそうとしても難しく、摂取エネルギーを減らすのが良い。長続きするよう、自分に無理のないやりやすいやりかたで行うのが良い」

ということになります。

 消費エネルギーを増やすとはとりもなおさず運動による減量ですが、その効果が少ないのは何故か?実は人間の消費エネルギーの殆どは、じっとしているときでも消費されている「基礎代謝」というもので、心臓の活動、体温の維持、脳の活動などに使われています。それに比べると、普通の人が1時間程度運動するだけでは消費エネルギーはしれています。加えて、「運動したから少しくらい食べても大丈夫」という油断から摂取エネルギーが増えてしまうと失敗してしまいます。
 そういわれると思い当たる節があります。私がジムで30-40分くらいウォーキングしてもせいぜいが150Kcalくらいの消費でしかありません。ご飯二膳分くらいしかありませんから、つねづねこれで痩せるんだろうかと思っていました。著者の明快な説明で納得できました。

 一方で著者はたまに暴飲暴食したり、たまにデザートを食べたりしても大丈夫と、食べる方には寛容です。その理由としては、習慣で毎日殆ど同じくらいのカロリーを摂取しているので、たまに突出した日があっても長期的に均してみれば、そう変化はないから大丈夫とのことです。

 こう言われてみるとダイエットなんて簡単に思えてきますが、本当にそうなのでしょうか。自分が減らしやすいところから減らしていけば長続きする、といわれてもにわかには信じがたいですね。

 その方法は、、、おっとこれ以上のネタばらしはやめておきましょう。この本を読めばダイエットに関する様々な疑問についてきっちりと説明されており、それに納得できれば著者が考案された「体重方程式」に従って無理なく目標体重に持っていけるのではないかと思います。

 著者は長く予防医学に携わってこられたその道のプロの医師ですので、特定の食物や健康食品を勧めたりしませんし、過激な減量を強いたりしません。その分、その内容が少々退屈に思えたり、文章の医学的内容が少々難しかったり、説明に少々理解しにくいところがあるかもしれません。しかし、本当にダイエットによるメタボ解消を考えておられる方は難しいところは飛ばしてでもとにかく最後まで一読してみてください。本当に正しいダイエットの道筋が見えてくると思います。